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しおりを挟む「それで、隣国から来たって聞いたが、お嬢さんが一人でこの国に何の用があるんだ? そもそも、一人で国を出て来るなんて、何があったんだ?」
エドガーとテオドール、それとマリーヌを見つけたルドヴィクとオーギュストが集まって、事情を聞くことになった。他は片付けやら、見張りやらをやることになった。
マリーヌは、片付けをやろうとしていたが、美味しいものを食べさせてもらったからと騎士立ちが片付けを引き受けたのだ。
「用というか。勘当されてしまいまして、目障りだから国からも出て行けと言われたので、その通りにしただけです」
「あー、その、よければ勘当される経緯を聞いてもいいか?」
マリーヌは、大して面白くもない話だからと掻い摘んで話すと前置きして話を始めた。
わがままな妹に結婚直前で婚約者を奪われて、婚約が破棄となり勘当されたと言い、二度と顔を見たくないというので、国を出てきたことを簡潔に話した。そして、馬車に乗せてもらえずに野宿しながら、ここまで来たことを淡々と話した。
そんな中で久々の豪華な食事になると浮かれて料理をしてしまい、美味しい肉を手に入れてテンションあがったまま、食べきれない量を作ってしまって、食べてもらえてよかったとまで言ったのだ。
それこそ汁だけなのは、それが当たり前に出される自分の食事だったからのようだ。それは、マリーヌは言わなかったが、そう思えることをマリーヌは話していた。
お腹が空くと自分で調達するのが当たり前になっていて、時折、家に入れてもらえず野宿をしていたと言うのを彼らは、複雑な思いで聞いていた。
どこを切り取っても、ありえないことだらけだったが、マリーヌはケロッとしていた。あまりにも、何とも思っていない様子にそれだけ色々ありすぎて感覚が麻痺しているのだと思うことにした。
「そうか。それで、これから先、どうするんだ? 王都に親戚でもいるのか?」
エドガーは、そんなことを聞いていた。年齢を聞けば、娘と変わらないくらいだったのだ。新人たちと同じくらいには全く見えないのも、苦労してきたからのようだ。そんなマリーヌをこのままにしておけないと思ってもいた。あてがあるのなら、そこまで送ってやろうと思っていたのだが……。
「あー、いますけど、会ったことないので」
「遠い親戚なのか?」
「いえ、祖父母です」
マリーヌの答えにエドガーは、目を瞬かせた。他も、ん?という顔をしていた。
「祖父母なら、孫に会えたら喜ぶものじゃないの?」
ルドヴィクが、ぽつりと素朴な疑問を呟いた。彼は、それが当たり前なのではなかろうかと思って居るような顔をしていた。それは、オーギュストも同じようだ。
テオドールは、じっとマリーヌの話を聞いていた。
「妹に会えたら喜ぶでしょうけど、私のことは両親から出来損ないだって聞かされていて、そんなのに会いたくないって言われていたんです。だから、祖父母たちが来てる時は野宿することになっていたので、頼る気はないです」
「……他に居ないのか?」
エドガーは、血の繋がった奴でまともなのが一人くらいはいてほしいと思ってしまった。他の面々も、同じようなことを思ったようだ。
「似たりよったりな親戚ばかりなので、難しいと思います。それに妹が婚約して、結婚式は勿体ないからそのままやるって言ってたので、まだ帝都にいるんじゃないかな」
ケロッと更なる爆弾発言をしたマリーヌに騎士たちは、絶句した。
テオドールも、驚きを隠せない表情をしていた。彼も家族に誤解されているが、マリーヌのように虐げに虐げられて、勘当するなんてことをする家族ではない。ましてや姉から妹に新婦を変えて、そのまま結婚式を続行なんて、あり得ないことだらけだ。そんな話を聞いたこともなかった。
「は? 新婦が変わったのにそのままやったっていうのか?!」
「そういう人たちですから。元婚約者も、問題ないと思っていたようですし、キャンセル料を支払うより、やりきった方が無駄にはならないでしょうから」
「「「「……」」」」
「何より招待客が、みんな面倒ごとに巻き込まれるのが嫌な人たちばかりなので、気づいても気づかないふりして、さっさと帰れるようにするんじゃないかと思います。まぁ、祖父母は、来るとしばらく帝都に留まって好き勝手するので、今回もそうしてるんじゃないかな」
聞けば聞くほど、とんでもない目にあったのだとわかった。でも、そういう人たちしか周りにいないのだが、それが当たり前だとマリーヌは思ってはいないようだ。
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