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しおりを挟む「なので、働こうと思ってます。できれば、食事つきで、寝るとこが屋内なところがいいんですけど」
それを聞いて、騎士たちは泣きそうになっていた。エドガーも、寝るところが屋内がいいなんて言うマリーヌにそんな条件つける奴いるのかと思ってしまった。
そこまで聞いて、ルドヴィクとオーギュストはいたたまれない表情でエドガーを見ていた。
女性嫌いなテオドールでさえも、すっかりマリーヌのことを気に入ったようで、何かを訴えるかのようにエドガーを見ていた。それも珍しいことだ。どうにかできないかと女性を心配するようなことをテオドールがしたことを見たことがなかった。
テオドールが同情するほどの女性のようだ。戦闘狂で、女嫌いだと思っていたが、どうにもこの短期間で目まぐるしい変化があったようだ。喜ばしいはずだが、別の問題が浮上している状況に頭を抱えたくなっていた。
エドガーは、そんな風に無言で訴えられずとも、このままにする気はなかったが。それこそ、ここまで聞いて放置するなんてしたら、良心が痛む。娘を見るたび、罪悪感に苛まれることになるだろう。そんなことは、避けたい。何より、マリーヌのような女の子が不憫な目にあっているとわかって、何もしなかったと騎士団の面々に知られたら、軽蔑されることは間違いないだろう。
マリーヌのような女の子を見捨てた団長についていけないと言われても仕方がないなどとエドガーは色々思ってしまった。もはや、さっさと解決するしかない。
「……なぁ、お嬢さん。料理以外の家事は得意か?」
「え? えぇ、得意です。使用人を雇うと勿体ないからって、私が殆ど家の中のことしてたので。そのくせ、祖父母が来るとか、お客様が来るとなると人を雇うんですよね。なので、スキルは並のメイドよりあると思います。……というか、他に得意なことないので」
それにテオドールは、狩りができるだろうと思ってしまったが、声にはしなかった。彼女にとって、切実な食料確保のために狩りが上手くなったようだ。そして、その害獣が、この国で増えているのも、マリーヌが怖くて逃げて来た結果だと言うことを言葉にはしなかった。
そんなことを言うマリーヌに好きなものを買ってやりたくなった。普通の年頃のことをやらせてやりたいとすら思ってしまった。エドガーには、このくらいの娘がいる。そんな娘が、破棄になって、他に元婚約者を取られて結婚式まで横取りされていたら……。
血祭りにあげてるだろうなとエドガーは思っていた。エドガーだけでなくて、嫁や息子も、そうだろう。そんな奴らに情けなんてかけてやる必要などない。
だが、マリーヌはやり返すことも、仕返しをしたがることもなく、勘当されて清々した顔をしているだけなのだ。それが、引っかかってしまったが、それはおいおい聞くことにしよう。
彼女は自力で生きるつもりでいるのだ。ならばと仕事を与えることにした。
「騎士団の使用人が、歳でな。新しいのを雇おうと思ってるんだが、中々見つからなくて困ってたんだ。お嬢さん、やるか?」
マリーヌは、部屋もあって、料理を作って、掃除、洗濯をして、食事を賄いで食べれるとわかり、更には給料の良さに飛びついたのはすぐだった。
だが、害獣討伐が出ている今、すぐには戻れないとなり、マリーヌはそれなら手伝います!と張り切って、狩りの仕方をレクチャーしたことで、騎士団内に激震が走ることになった。
それこそ、大した怪我人もなく、討伐を終えられたのだから喜ぶところなのだろうが、怪我人はゼロではなかった。それは害獣によっての怪我というよりは……。
「恐ろしかった」
「……うん。マリーヌちゃん、あんな感じだったよ」
オーギュストは、害獣を美味しい肉だと狩り立てる姿に恐怖した。ルドヴィクは見慣れたのか、何かの境地に達した顔をしていた。
マリーヌの狩り方にビビって怪我をした騎士が数名いたのだ。
そんな中で、テオドールだけが目を輝かせては、美しいと呟いていた。それは、騎士団内で別の意味で気になっていたことだった。
「副団長。もしかして……」
「あぁいうのが好みってか? まさか」
そのまさかだったとは、この時の誰も思わなかった。
とりあえず、死者を出すこともなく、大怪我で除隊する者も出さなかったことで、エドガーの騎士団は注目のまとになり、持て囃されることになるのだが、それに天狗になる者はいなかった。
なぜなら、一番の討伐の功労者が、新しく騎士団の使用人となったマリーヌだったからだ。
だが、それを言ったところで誰も信じる者はいないだろうが、狩り方については極秘扱いとされて、一部の者にしか教えられることはなかった。
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