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しおりを挟む「マリーヌさん」
「え? あれ? 副団長様……?」
老婦人の家で掃除をしていたマリーヌは、テオドールがやって来たことにきょとんとした。
テオドールは、そんな顔も可愛いなと思っていたが、表情は変わることはなかった。すっかり、マリーヌを彼は気に入っていて、女は苦手だと思っていたことが嘘のようにマリーヌだけは平気になっていた。
戦闘で意気投合できる唯一の女性だからかも知れない。
そんな彼女の顔色は悪く、やつれた姿にテオドールは何とも言えない顔をしていた。
「あ、私、時間を間違えましたか?」
「いえ、団長がお呼びなので、呼びにまいりました」
「団長様が……?」
不思議そうにしながら、エドガーの騎士団に戻って来たところで、老婦人とエドガーに会ったのだ。
「っ、」
「お嬢。ばあーさんは、今日付けで辞めることになった」
「へ?」
マリーヌは、不思議そうにしていたが、はっとした顔をした。
その顔にどうしたんだろうかと他の面々は見ていた。
老婦人だけが、魔と目を合わせられなくて、よそを向いたままだった。
「あ、えっと」
「どうした?」
「ご、ごめんなさい。こういう時って、パーティーやるんでしたっけ?」
「パーティー……?」
エドガーは、首を傾げずにはいられなかった。マリーヌが何を言いたいのかがピンとこなかったのだ。大体、散々いびり倒された相手に何をやりたいというのだ。やり返すと言うならわかるが、どうも違うようだ。
テオドールは、マリーヌが何を言いたいのかを汲み取ろうとして、ぽつりと呟いていた。
「送別会のことでしょうか?」
「あぁ、送別会な。普通はそうだろうが……」
「送別会。あの、送別会って、何やるんですか?」
「「……」」
騎士二人も、それには絶句していた。
老婦人は、マリーヌの言葉を聞いて最初は馬鹿にされていると思っていた。そんなことを聞いてくるほど、無知だと思っていなかったのだ。
疲れきっていて頭がまともに働いていないせいだと思いたい。
「あ、それも、私の仕事ですよね。自分で調べます。頑張りますから」
「……あんた、本気で言ってるのかい?」
「え? あ、あれ? 間違えてますか? ごめんなさい。パーティーとか、出たことなくて、あ、送別会か。そういうの知らなくて。結婚式の準備も、何していいのか。全然わからなくて、他の人に任せっきりだったんですよね。まぁ、その方が妹はまともな式になったと思っていたでしょうけど……」
「……」
マリーヌは、遠い目をしていた。だが、老婦人を見るとへにゃと笑った。
「でも、今度は誰かに丸投げなんてせずに頑張りますから。色々、教えてくださって、ありがとうございます。あ、団長様。お仕事ですよね? あの、お掃除はまだ途中なので、後できちんとやっておきますから。あ、立て付けの悪いとこは直しておきました、それから、それから、何だっけ……?」
マリーヌが、色々話していたが、それこそ限界だったのだろう。ぶっ倒れることになったのだ。
それに取り乱すエドガーとテオドールを落ち着かせて、老婦人が医者を呼んで、マリーヌを部屋で休ませて看病を始めたのだ。
エドガーは、それをどうしたものかと見ていた。ここに若い娘を看病を任せられる女は、老婦人しかいないのだ。
「団長。看病だけさせておくれ」
「助かる」
「それと心配だからって、騎士の若いのをここに近づけさせないでおくれ。全く、数時間置きにうろちょろとして、この子がゆっくり休めやしないよ」
「わかった」
老婦人の言葉にエドガーは、思い浮かぶ顔がちらほらあった。
「特に副団長だよ。心配なのはわかるけど、部屋の前に夜中の間、ずっと立っていられたら、こっちの気が休まらないよ」
エドガーは、それを聞いて眉を顰めずにはいられなかった。
「……んなことしてんのか?」
「そうだよ。私のことが、気に入らないんだろうが、しっかり看病するから安心しろって伝えておくれ。もう、この子に無理難題をふっかけて意地悪いことなんてしやしないよ」
老婦人は、熱で苦しそうなマリーヌの額によく冷えたタオルをあてがってやりながら、更にこう言った。
「あの話は、本当だとは思わず疑って悪いことしちまったよ。それなのに私の送別会やってくれようだなんて、いい子だね」
「あぁ、そうだな」
「目が覚めたら、ちゃんと謝るよ。送別会も、してくれないかも知れないが」
「どうだろうな。お嬢は、やったことないから、やりたがるんじゃないか?」
エドガーの言葉に老婦人は、笑っていた。
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