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しおりを挟む老婦人が張り切ってマリーヌに色々とこの世の常識的なことを教えるようになり、以前よりいきいきとし始めていた。肌艶が良くなったような気すらしていた。生き甲斐を見つけたからかも知れない。
騎士たちは、どうなるかと気にしていたが、マリーヌのことを孫のように溺愛するようになっているのを見て、大丈夫だと思うようになるのも、すぐだった。
「なんか、あぁしてると祖母と孫にしか見えないよね」
「そうだな」
ルドヴィクとオーギュストは、楽しそうに料理しているマリーヌと老婦人を見てそんなことを思っていた。
和むなと誰もが思い始めていた。
「だから、余計なことするんじゃないって言ってるだろ! 聞き分けのない子だね!」
すると何やら怒鳴り声が聞こえてきた。
気になってルドヴィクたちは、お互い顔を見合わせて様子を見に行った。もしかして、また意地悪いことを始めたのではないかと思ったりもしたが……。
「でも、おばあちゃん、その腰じゃ掃除とか、買い出し辛いでしょ?」
「だから、あんたはここの使用人であって、私専属の家政婦じゃないんだよ!」
マリーヌは、老婦人をおばあちゃんと呼ぶようになっていた。老婦人も、それを許容していた。それが嬉しくてたまらなそうにしているのもよく見かけていた。やれ、マリーヌがこんなことを言っていた。気にかけてくれたとエドガーに嬉しそうに話していることも、よくあった。
それが、今は何やら口論しているようだ。
「だから、ここのお仕事終わってから、おばあちゃんとこ行くよ。屋根の修理もしないとだし」
「だから、それは業者に頼むからいいんだよ!」
「そんなことでお金使うことないよ。それなら、前に一人で住める家を建てたことあるから、屋根くらい直せるよ。夜は見えないから朝日が昇ってから、ここで働く時間までを使えば……」
「だから、その必要はないんだよ!」
そんな会話が聞こえたルドヴィクたちは……。
色々と思うことがあった。
「孫と祖母……?」
「……」
和むと思っていたが、何かが違うなと二人が思ったのも、すぐだった。
そもそも、家建てたことあるって、マリーヌは何を経験したんだろうか?いや、聞いたら泣きそうだ。それよりも、口論している内容の方だ。
マリーヌは、老婦人の家の心配をしていて、老婦人が色々と意地悪いことをしていた時に何でもかんでも頼みすぎたせいだと今更、後悔しているようだ。こんな風に厄介な頑固者に苦労させられるとは思っていなかったのだ。
常識的なことを教えると息巻いていたが、老婦人は逞しく生き抜いてきたマリーヌに別の意味で苦労していた。
それを知った騎士たちもまじって、マリーヌにどうにかしようとするも、難しいものがあったが……。
それを聞いて、エドガーが話すことになった。
「あのな、お嬢」
「はい」
「業者も、仕事してるんだ。そういう修理で、食い扶持にしてるんだから、仕事は適材適所で回してやれ」
「適材適所……?」
「そうだ。世の中、そういうもんなんだ。金を持ってるなら、回さないと他の奴が困るんだ。ばあーさんは、金に困ってはいないんだ。あぁ見えて、しこたま溜め込んでるから。そんな心配無用だ」
「そっか。そう、ですよね。他の人の仕事、みんな生きるの大変ですもんね」
エドガーの言葉にマリーヌはようやく納得したようだ。エドガーのしこたま溜め込んでいることに突っ込むことなく、マリーヌは素直に納得していた。が、何やら引っかかることを呟いているが、聞こえないふりをしておいた。
老婦人も、その説得に感心していた。最後らへんに聞き捨てならないものがあったが、黙っていた。
彼女は、そういう風に言い聞かせる育て方をしてこなかったようだ。まぁ、マリーヌに対しての言い聞かせ方にかなりコツが必要なようだが。
そんな説得を見事したエドガーをテオドールは、ジトッと見ていた。
「……どうした?」
「いえ、別に」
マリーヌのことをすぐに説得できたことにテオドールは、嫉妬したようだ。それこそ、やりたいのなら、やらせてテオドールはそれを手伝う方向のことしか思いつかなかったのだ。屋根の修理の仕方を覚えようとすらしていたほどだ。それを適材適所だと言って、納得してやめさせることになった早さに色々思うところがあったようだ。
エドガーは、こっちも手を焼かれそうだと思ってしまったが、マリーヌのように騒ぎ立てることがない分、いいのか悪いのかわからなかった。
とりあえず、戦うことには長けていても、こと女性相手ではポンコツになることはよくわかった。だが、せっかくならくっついてもらいたいが、相手も一筋縄ではいかないことにエドガーは、どうしたもんかと頭を悩ませていた。
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