女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら

文字の大きさ
17 / 45

17

しおりを挟む

マリーヌは騎士団の使用人となり、常識的なことを少しずつ理解するようになった。ほんの少しだが、それでも最初に比べればだいぶ良くなってきた。最初から見ていなければ、伝わらない苦労を騎士団の面々と老婦人は分かち合っていた。

まぁ、騎士団の中でマリーヌと同じように常識が欠落しているのも若干名いたが、マリーヌが楽しそうにして笑っているのを見るだけで彼は満足なようで、戦いで憂さ晴らしするほど煮詰まることもなく、機嫌のよい彼に安堵している騎士も少なくなかった。

そんなことで、一喜一憂することになった騎士団だが、マリーヌが使用人になってから毎年大変な害獣駆除を騎士団が無傷で終えたことで評判となったのも、割とすぐのことだった。

だが、その殆どを仕留めたのが、この使用人だったことを知る者は限られていた。

それこそ、報告を聞いた国王は、騎士団長の頭の心配をしたほどだった。

しかも、仕留めた肉がすこぶる美味しいとわかったことに対しても、仕留め方一つだとマリーヌに聞いたままを話したのだ。それも、自分の手柄にせずにきちんとマリーヌの名前を出したのだが、信じてもらえるとは思っていなかったようだが、隠す気もなかったのは、理解された時のことを見越してのことだったようだ。

それを半信半疑で聞いていたが、後に討伐された害獣の肉を食べることになり、国王が騎士団長が話していた女性に興味を持ったのは、かなり経ってからだった。


「まずいな」
「っ」


国王の言葉に料理長は、心外だとばかりの顔をした。


「ですから、あれは食用には向かないんですよ」


それをどうにかしろと言って、国王はエドガーの任せている騎士団のとこの使用人に料理法を聞いて、食えるものを出せと要求したことで、マリーヌが宮廷のキッチンにしばらく行くことになったのは、害獣討伐でマリーヌが騎士団の面々と出会ってから数ヶ月経った頃だった。

まぁ、それも揉めに揉めたが、数日だけ貸し出すということで話はまとまったのだが、マリーヌのいない間、老婦人もテオドールも機嫌がすこぶる悪くて大変だったが。

または、害獣の肉の美味しさを伝えられると一人ウキウキしていた。そのため、引き止めきれなかったようだ。








「この肉で料理をしたんですか?」
「何か問題でも?」


王宮つきの料理長が、マリーヌの言葉に眉を顰めていた。その顔は不満だらけだった。

国王に小娘から料理を教えてもらえと言われたのだ。そんな屈辱は初めてだった。料理長だけでなくて、キッチンの中は、マリーヌのことを馬鹿にした面々ばかりだった。

それに気づいていないのか。マリーヌは、気後れすることもなく、素材を見ていた。見た目と匂いだけで、マリーヌは肉の良し悪しがわかるようだ。


「これで、肉料理をするなら、手間暇を惜しんだら、美味しく食べれませんよ。数日は、煮込まないと」
「そんなこと、聞いたこともないな」


料理長の言葉にシェフたちは、マリーヌのことを馬鹿にして色々言っていたが、マリーヌは気にせず調理を始めることにした。その間も、邪魔だと言われて、調理をするなら他の者の邪魔にならないようにやれと言われて、それに口答えすることなく、キッチンを自由に使える真夜中に寝ずに調理をすることになった。

もっとも、昼間に寝ていたかと言うとマリーヌは寝ていなかった。宮廷のメイドが失敗したらしく、半泣きになっているのを見つけて、マリーヌは彼女のフォローに費やしたのだ。そして、夜中は肉の仕込みをしていた。

つまり寝る間もなく働いていたのだ。それを料理長が知ったのは、失敗したメイドがマリーヌに助けてもらったことをメイド長に報告したことで、メイド長から料理長に話がいったからだった。

それでも、料理長はあわよくば取り入って、騎士団の使用人から宮廷付きのメイドになりたいのだと思っていた。老婦人が前に勘違いしていたように良縁を求めていると思っていたのだ。若い女の考えることは、それにつきると思ってのことだ。

だが、マリーヌがその辺の若い娘と全く違うことに気づくのは、それからすぐのことだった。








数日して、料理長たちが試食した肉は、驚くほど美味しくなっていた。


「っ!?」
「これが、あの肉なのか?」
「すげぇ、美味い」


マリーヌは、寝ずに数日、料理をしていたこともあり、フラフラしていたが、料理のレシピを書きまとめたのを料理長に渡していた。


「いいのか?」
「?」
「これは、秘伝のものなんじゃないのか?」
「秘伝? そんなんじゃないですよ。食べるものが取れない時の保存食用にいきつくまでの途中で見つけたってだけです」
「保存食……?」
「保存する方法です。このお肉を細く切っていって、余分な水分を布で取ってから」


マリーヌは、サラッとレシピを話し始めていた。その工程は、斬新なものだった。一人、また一人と厨房にいる者たちはメモを取り始めていたが、マリーヌは気づいていなかった。

マリーヌは、眠気と格闘しながら、話を続けていた。


「その後は、数日かけて乾燥させるんです。でも、ここの気候ではカビが生える可能性が高いので、オーブンでカリカリに焼いた方がいいと思います。まぁ、そこまでやったことがないので、色々試さないと駄目だと思いますけど」


料理長までも、いつの間にやら他のシェフと同じくメモを取っていた。

それにようやく気づいたマリーヌは、目をパチクリさせていた。


「マリーヌ嬢。よければ、そのままオーブンを使って試してみてくれ」
「え? でも、これから仕込みですよね? オーブンを使ってしまったら……」
「ここのオーブンは、いくつもある。そうだな。あちらのオーブンが一番新しいんだ。使い勝手もいいから、使ってくれ」


一番新しいと聞いて、ぎょっとしてしまったが、料理長が補佐をつけてまでくれたので、マリーヌはそのまま保存食作りを模索することになったが、夜中にやるよりはいいかとフラフラする頭で動くことにした。


「どうだ?」
「この辺りが、用途別に使えて便利かと思います」


お酒のつまみや保存食など、数時間で仕上がっているそれらを試食して、料理長は頷いていた。


「マリーヌ嬢。スープの方とおつまみの方を陛下にお出しする。着いて来てもらえるか?」
「え?」
「説明は君からしてくれ」
「えっ、でも……」


料理長に盛り付けられたそれをマリーヌが、最終確認をしたのを届けることになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。 長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。 心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。 そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。 そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。 レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。 毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。 レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく―― これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。 ※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!

近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。 「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」 声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。 ※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です! ※「カクヨム」にも掲載しています。

婚約者を奪われ魔物討伐部隊に入れられた私ですが、騎士団長に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のクレアは、婚約者の侯爵令息サミュエルとの結婚を間近に控え、幸せいっぱいの日々を過ごしていた。そんなある日、この国の第三王女でもあるエミリアとサミュエルが恋仲である事が発覚する。 第三王女の強い希望により、サミュエルとの婚約は一方的に解消させられてしまった。さらに第三王女から、魔王討伐部隊に入る様命じられてしまう。 王女命令に逆らう事が出来ず、仕方なく魔王討伐部隊に参加する事になったクレア。そんなクレアを待ち構えていたのは、容姿は物凄く美しいが、物凄く恐ろしい騎士団長、ウィリアムだった。 毎日ウィリアムに怒鳴られまくるクレア。それでも必死に努力するクレアを見てウィリアムは… どん底から必死に這い上がろうとする伯爵令嬢クレアと、大の女嫌いウィリアムの恋のお話です。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

処理中です...