女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら

文字の大きさ
24 / 45

24

しおりを挟む

「マリーヌちゃん!」
「……」
「大変だったろ? 知らなかったとは言え、悪いことをしたね」
「これからは、私たちがお前の祖父母として、いい相手を選んで幸せにしてあげるからね。何の心配もいらないわよ」
「……」


マリーヌの祖父母は、部屋に通されたところにいた身なりのいい令嬢の方を孫だと思ったようだ。

顔立ちを見ることなく、着ているもので判断したのだろう。


「おい、何をしてるんだ。メイドなら、お茶の用意くらいしろ」


使用人の格好はしていないが、質素な格好をしているマリーヌにそんなことを言った。

それに対して、身なりのいい方が、マリーヌを見た。


「マリーヌさん。お茶は必要ですか?」
「は? え? マリーヌ??」
「はい。マリーヌさんは、そちらの方です。私は、王宮に仕えているメイドです。今日はマリーヌさんが祖父母に会われるというので、お手伝いに来ただけです」
「な、ややこしい服を着てるから間違えてしまったじゃないか」
「そうよ」


王宮に仕えているメイドのくせにややこしい服を着てるなと怒鳴ってすらいた。

このメイドは以前、マリーヌが助けたことがあった。そのため、今回のことでマリーヌの役に立てるならばとせっかくの休日なのに付き合ってくれたのだ。

マリーヌは、申し訳なさそうにしていた。それこそ、以前助けたのも、昔の自分を見ているようで助けたにすぎなかったのだ。同じような失敗をして、どれだけ鞭で打たれたことか。

だが、マリーヌはその話をして、昔を思い出すのが嫌で、エドガーに聞かれても曖昧にしか答えられなかった。メイドが叱られたら可哀想だと思ってのことだが、このメイドはメイド長にしっかり報告していたのだ。そのせいで、色々と誤解されて、なぜかメイド長には物凄く気に入られてもいた。

マリーヌは、それが不思議でならなかった。

自分のためにしたようなものだが、メイドはマリーヌのことを困っているのを見捨てずに助けてくれる優しい人物だと思っているようで、マリーヌは困っていたが、そうではないと言えば全部話さなくてはならなくなるため、これまた苦笑するしかできなかった。

もう、過去に怯える必要もないのに。散々、ほっといていない存在として扱って来たのに今更、利用しようとするなんてとマリーヌは思えて、段々と頭にきてしまった。何より、今、世話になっている騎士団や他の人たちに迷惑をかけることが許せなかった。
 

「おや? 孫の顔くらい見分けがつくと言ったのは、お二人のはずですが?」


そこにテオドールが、エドガーを連れてやって来た。


「なんだ。孫の顔もわからないのか。毎年、孫に会いに行ってたはずなのにおかしな話だな」
「それは、苦労したから顔立ちが変わって見えたせいよ」
「そうだ。言い掛かりはやめてくれ。儂らは目が良くないんだ」


白々しい言葉に祖父母以外が、冷めた目をしていた。

マリーヌは、ずっと無表情だったが、王宮に仕えているメイドの女性に礼をのべていた。彼女は、マリーヌを見て、エドガーを見た。彼が頷くのを見て、失礼しますと部屋を出て行った。

彼女とは、マリーヌが王宮の厨房で料理している時に出会った。真夜中に働いていたマリーヌは、昼間はメイドをしている彼女が失敗したことをフォローしていて彼女は、その件でマリーヌにとても感謝していた。

そのため、今回のマリーヌを祖父母はきちんと見分けられるかという実験に二つ返事でやってくれることになったのだ。メイド長も了解済みで、何なら自分も何かしたいと思っていたようだが、そうなると老婦人も出張ることになりかねない。

あの二人が本気になれば、マリーヌの祖父母なんて呆気なく撃退されるが、マリーヌがやりたいようにやらせるべきだと大人しくしてもらうことになった。どちらも、マリーヌを心配していた。心優しい子だからと気が気でないようだ。

それも、エドガーにはよくわかった。だが、向き合わねばならないこともあるだろうと思ったようだ。

それこそ、あんなあっさりとした格好だけで、孫だと思われるとは思っていなかったことだろう。孫を見分けられなかった二人に色々言いたかった。


「なら、顔をよく見てからでも遅くはなかったのでは?」
「えぇい、煩い! 緊張していたんだ!」
「そうよ。変な言いがかりばかりで、感動の再会を邪魔しないでちょうだい!」
「……」
「……」


エドガーとテオドールは、マリーヌの方を見た。

マリーヌは、何やら思案顔をしていた。感動などしているようには見えない。だが、何やら考え込んでいるように見えた。


「お会いするのは、初めてだと思っていましたが、お二人とは会ったことがありました」
「ほら、見ろ。マリーヌも認めたぞ」


祖父母は、それ見ろと言いたげにしたが、マリーヌはそのまま続けた。


「取りやめた結婚式の当日に孫の式場に行こうとしてる馬車に轢き殺されそうになったんですよね。よもや、祖父母だったとは思いもしませんでした」
「っ、」


マリーヌは、そんなことを言った。どうやら、記憶力はいいようだ。そうなると報告する時にアバウトになるのは、わざとになるのだろうか?エドガーは、マリーヌをじっと見ていた。その隣のテオドールは、たじろぐ老人たちを冷めた目で見ていた。


「そ、そうだったか?」
「誰かと間違えてるのではないの?」


マリーヌは、二人に言われたことを言葉にした。

その罵詈雑言をどうやら、覚えていたようだ。祖父母の顔が悪くなっていったのも、すぐだった。

やはり記憶力は問題ないようだ。マリーヌは、惚けるのが上手いようだとエドガーは思い始めていた。


「それで、もう一人の孫の結婚式には間に合ったのですか?」
「あ、あぁ」
「でも、散々な式だったわ。あんなのにわざわざ出るなんて、とんでもない恥をかいてしまったわ」
「全くだ」


祖父母の言葉にマリーヌは、つまらなそうにしていた。


「そうですか。完璧な結婚式だと褒めていたと聞いていましたが、違ったんですね。新婦が変わったところで、大したことないって、あの人たちは言っていたのに不思議ですね」


マリーヌは、もはや他人事のようにしていた。

それに気づいて、エドガーとテオドールが心配そうにし始めていた。


「それとご心配なら、無用です。こうして自立することができました。そういうわけですので、今後は私のことをお気遣いなさらなくて結構です。もとより勘当されておりますので、そちらとは縁もゆかりもないものと見なしてくださらないと困ります。私は、お気遣いいただくほど、惨めな目になどあっておりませんから」
「っ、」
「それと今後は、私を孫と触れ回らないでください。良くしていただいている方々に迷惑をかけてしまうので。それこそ、出来損ないの孫が、本当はそうでなかったなんてことが知られたら、お二人の見る目がなかったことを広めるだけだと思いますよ?」


マリーヌは、そう言って、にっこりと笑った。


「そういうことだ。マリーヌのことを孫だと触れ回るのは今後一切やめてくれ。マリーヌの評判に傷がつく。それとマリーヌのことを孫のように大事にしているのも、娘のように想っているのも、妹のようにしているのも騎士団にも、他にも大勢いる。マリーヌが迷惑しているとわかれば、黙ってはいない。俺も、ここにいる副団長も、容赦する気はないから、そのつもりでいろ」
「っ、」


エドガーは話が終わった後、テオドールを見た。


「玄関まで、お見送りしろ」
「はっ、こちらです」
「っ、場所ならわかる!」
「なら、さっさと出て行け。目障りだ」


マリーヌは、それを他人事のように見ていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

婚約者を奪われ魔物討伐部隊に入れられた私ですが、騎士団長に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のクレアは、婚約者の侯爵令息サミュエルとの結婚を間近に控え、幸せいっぱいの日々を過ごしていた。そんなある日、この国の第三王女でもあるエミリアとサミュエルが恋仲である事が発覚する。 第三王女の強い希望により、サミュエルとの婚約は一方的に解消させられてしまった。さらに第三王女から、魔王討伐部隊に入る様命じられてしまう。 王女命令に逆らう事が出来ず、仕方なく魔王討伐部隊に参加する事になったクレア。そんなクレアを待ち構えていたのは、容姿は物凄く美しいが、物凄く恐ろしい騎士団長、ウィリアムだった。 毎日ウィリアムに怒鳴られまくるクレア。それでも必死に努力するクレアを見てウィリアムは… どん底から必死に這い上がろうとする伯爵令嬢クレアと、大の女嫌いウィリアムの恋のお話です。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

婚約を破棄され辺境に追いやられたけれど、思っていたより快適です!

さこの
恋愛
 婚約者の第五王子フランツ殿下には好きな令嬢が出来たみたい。その令嬢とは男爵家の養女で親戚筋にあたり現在私のうちに住んでいる。  婚約者の私が邪魔になり、身分剥奪そして追放される事になる。陛下や両親が留守の間に王都から追放され、辺境の町へと行く事になった。  100キロ以内近寄るな。100キロといえばクレマン? そこに第三王子フェリクス殿下が来て“グレマン”へ行くようにと言う。クレマンと“グレマン”だと方向は真逆です。  追放と言われましたので、屋敷に帰り準備をします。フランツ殿下が王族として下した命令は自分勝手なものですから、陛下達が帰って来たらどうなるでしょう?

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。 長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。 心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。 そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。 そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。 レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。 毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。 レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく―― これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。 ※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

処理中です...