女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら

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「……てな感じの話を妻と娘はしてた」
「……」


テオドールは眉を顰めたまま思案していた。

エドガーは、副団長にそんな話を聞かせるとは思っておらず、自分もよく一度聞いて、これを全部覚えていたものだと思いながら、この話で共感して泣くなんて流石にマリーヌもしないと思っていた。

きっと、マリーヌが聞いたのは万人受けするお涙ちょうだいな話の方だろう。こんな感じではなくて、頑張っても頑張っても報われないで、家族に散々な目にあったのを親友がやり返した的なものだろうと思っていた。だからこそ、テオドールも変だと不思議に思うものと思っていたのだが……。


「今回の話は、お嬢っぽいよな」
「えぇ、似てますね」


マリーヌから、姉妹で格差があったことは聞いていた。物語のように散々な目にあっていたのは確かだろう。

だが、マリーヌを助けてくれる面々は実際は誰も、誰一人としていなかったのも聞いていた。面倒ごとに関わりたくない人たちばかりで、みんな見て見ぬふりをしていたのだ。

婚約破棄して、妹にそのまま婚約を取られ、結婚式もマリーヌが夢を盛り込んだものを勿体ないからとそのまま利用されたのだ。そもそも、婚約していたのも、その面倒ごとをやらせて、結婚してしまおうと思ってのことだったようだ。とんでもないものぐさがいたものだ。そこまで、やらせるのなら、勘当なんてせずに一生使用人としてこき使われそうなもの。マリーヌがいなくてもいいと思ったようだ。嫁ぎ先に連れて行くのも、あれだし、かと言ってそのまま残してもと思ったのかも知れない。

そうなって、よかったのだ。勘当されたことでマリーヌは国を出て、騎士団の面々に出会うことになったのだ。

それをぶち壊したのは、物語のような親友の令嬢でもなければ、従弟でもなかった。結婚式は、滞りなく済まされただろうと彼女は話していた。みんな何があったかを知らんぷりして、面倒ごとに巻き込まれたくなくて、マリーヌなんて娘はそもそもいなかったように何もなかったように結婚式を終えただろうとマリーヌは思っていた。

実際は、親友の令嬢のように暴露した令嬢もいたようだ。だが、それはマリーヌを思ってのことではない。自分の婚約が危うくなっていて、それをどうにかするためにマリーヌが酷い目にあっていたのを黙っていられないと暴露したのだ。

もっとも暴露した彼女は、そんなことして頑張ったようだが、婚約が破棄になることに変わりはなかったようだ。

それをエドガーも、テオドールも、知っているのは調べたからだ。元家族のことも、周りのことも、どうなったかを調べて、それ相応にやり返そうと思ったのだが、それをすることもなかったため、調べただけで終わったことだ。

その話をマリーヌにはしていない。

それなのにマリーヌは、物語を聞いて泣いたのだ。今語られた話と違っていて、助ける者など誰も現れず、国を出ることになり、ここに行き着くことになったというのに。主人公を自分に似てるとも思いもせず、自分より恵まれているとも思うこともなく、酷い目にあっている女の子がいると泣いていたことにエドガーは首を傾げたくなったが、テオドールは違ったようだ。


「この話で、泣くなんて、マリーヌさん、この物語のようになれたらと思ったのかも知れませんね」
「……そうだな」


エドガーは、もはや何も言わないことにした。テオドールは、マリーヌを美化しているが、マリーヌの逞しさを思い知っているはずなのだ。あの時、こうしていたら、あーしていたらなんて思う女ではない。

そんなことに思い悩んでも、お腹は膨れないと思っているような女だ。過去は変えられなくとも、散々な目に合わされようとも、それはそれだと思っている。そして、勘当された今、そんなことで思い悩むこともないと思っているのではなかろうか。

そんなことを思ったが、それらも訂正する気はエドガーにはなかった。





商人が商売しながら、ここに来るまでに聞いた話を客たちにしていた。それが客寄せに使えるとわかって、お涙ちょうだいなものに話を盛り込んで話をしていたが、それを客たちは知らずにいた。

それを聞いていた面々は、すっかり話に夢中になっていて、商人の創作が盛り込まれまくっていることになんて気づいてもいなかったし、気づいてされたところで楽しめればいいと思っていた。

しかも、続きを数日に小分けにして話す工夫もなされているため、自分の知る話の続きを聞くのに時間通りに行かないといい場所で聞けないのだ。

そのため、聞けなかったと嘆く者が、知ってるからと話すうちに商人が話している話とだいぶ異なるものも溢れ返るようになったが、そんなことになっているなんて気づいていなかった。

手の込んだ商売の仕方だが、それにまんまとハマっている面々がいた。


「そんなことが……?」
「可哀想にね」
「それで、その家族のその後は?」
「結婚式の傍若無人な振る舞いとこれまでのことと優秀な娘を悪者にして、勘当したことで信用がガタ落ちになって、付き合いをやめる家が続出となった。父親は仕事をクビになって、母親は離婚して出来の悪い娘を連れて実家に戻ろうとしたけど、門前払いをくらったそうよ。行く宛もなく、わがまま放題な娘にげんなりして、娘だけを父親の方にやっても、父親の方も余裕がなくなって、わがままを叱らないまま育てたツケが回って大変な毎日を送ることになったらしいわ」
「そりゃ、幸せになれるわけがないよな」
「それで、勘当されたお姉さんの方は、どうなったの?」
「わからないらしいわ。顔も見たくないって言われたとかで、その通りに別の国に行ってしまったらしいけど」
「そうなんだ」
「幸せになっているといいわね」
「絶対に幸せになってるわよ」


そんな話をどこから仕入れたのか。旅の商人が、商売しながら話していた中に実は、当事者となる女性がいたのだが、本人が自分のことを話しているなどと思ってはいなかったため、商売人が実際に何があったのかを知ることはなかった。

それこそ、盛ってあるところが多々ありすぎて、当事者がすぐに気づかないレベルだったのかと言うとそうでもなかったりするのだが。

彼女にとって、自分の過去ほど人に話してもつまらないものはないと思っているとは、誰も思っていなかった。


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