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しおりを挟むとある世界のイヴァン国に、まるで、鏡を見ているようにそっくりな見た目をした双子の姉妹が侯爵家に生まれた。
この国というか。この世界では、双子はとても珍しかった。だから、特別な子供になると思われていた。
「本当にそっくりだな」
「……そうね」
侯爵は、将来が楽しみな娘が2人もいっぺんに生まれたことを心から喜んでいた。生まれた娘たちを時間が許す限り眺めていた。彼にとっては、どちらも大事な娘だった。
双子が生まれたので、よく知らないところからも祝いの言葉から贈り物がなされて、侯爵家の客室は贈り物で溢れかえった。
たくさんの人たちに祝福されていることに侯爵は、仕事場でもこれまで話しかけられもしなかった人に話しかけられ、名前を覚えられることが嬉しくてにこにこしていた。
でも、そんな娘たちを産んだ侯爵夫人は、一方の方をムスッとした顔をして見ていることが多かった。
生後数週間の娘を母親が見るような目をしてはいなかったが、侯爵はデレデレと娘たちを見ていて、そんな妻のことを全く見てはいなかった。
この時、夫が妻のことをよく見て気にかけるようにしていたら、少しは違っていたのかもしれないが、そんな配慮ができる人物ではなかった。侯爵とは、そういう男性だ。自分のことですぐ手一杯になるのだが、本人はそんな欠点があることを決して認めはしなかった。
「ねぇ、見た?」
「奥様のこと?」
「あの目は、何なのかしらね」
使用人たちは、日に日に侯爵夫人の娘を見る目が気になってならなかったが、片方の方をよく使用人たちに任せるようになった。
侯爵の方は気にもしていなかった。どうせ、出世に使えるとか、そんなようなことを考えていると思っていたが、そちらのことを掘り下げても仕方がないとばかりに夫人の方の話をした。
そこから、気になっていたことが、どんどん増えることになっていった。
「そっちは、あなたたちが見ていて」
「え、ですが……」
「この子は私が見ているわ」
「……わかりました」
いつも侯爵夫人は、双子の片割れの方ばかりを見て、もう一方のことを見ることはなかった。それに使用人たちは、何か言いたくなっても話す前に黙ってばかりいた。
そして、いそいそとお気に入りの娘だけを連れて夫人は部屋から出て行った。それを見送った使用人たちは……。
「また、あちらだけを連れて行ったわね」
「……何が、そんなに違うのかしらね」
どちらも、そっくりな双子の姉妹なのにと使用人たちは、首を傾げるばかりだった。違いが、使用人たちにはよく分からなかった。
母親の愛情が、片方に注がれるのを可哀想に思っても使用人たちが、侯爵にその話をすることはなかった。
したところで、余計なことを告げ口したとばかりに嫌味を言われて、辞めるまでネチネチと言われることになる。そうなって辞めていった使用人が、これまで何人もいた。精神的におかしくなる使用人たちを見送った者たちは、そうなりたくなかった。
その代わりのようにいつも面倒を見ておけと侯爵夫人に言われる方を使用人たちは溺愛することにした。
母親の愛情がもらえない分、可哀想だと言わんばかりにそちらの侯爵令嬢を可愛がった。
「本当に可愛らしいわ」
「そうね。奥様が連れ歩く方より、断然こちらが可愛いわ」
そこから、成長した2人はそっくりな見た目をしていた。全く同じものを着せていたら、見分けがつかないほどだったことだろうが、着るものを全く同じものを着ることはなかった。
双子は生まれた時から、その造作の全てが美少女になる要素しか見当たらなかった。どちらも将来を有望視されていたが、成長した双子の愛らしさに父親である侯爵が、デレデレと娘たちを見るだけはあった。他の思惑もあってデレデレしていたとはあまり思われてはいなかった。
だが、それとは真逆に母親は両方を同じように見ることがなく、どんどんエスカレートしていった。
そっくりな見た目をしている双子の扱い方をあからさまに言葉でも変え始めたのも、その頃からだった。
最初は、娘たちが物心つく前、母親が子供を産んですぐから区別と差別をして、片方だけの世話をしていたが、そんな侯爵夫人と犬猿の仲の公爵夫人が、息子を連れて侯爵家に双子を見に来てから、よりヒートアップしてしまった。
そこも問題だった。侯爵が、それこそ実の姉であるイライザが実家に戻って来るのを連絡しなくとも、いつでも戻って来ていいみたいに許してしまったことが始まりだった。
それを鵜呑みにしたイライザは、その通りに突然侯爵家にアポイントなく現れたのも、双子が生まれてからだった。
母親も酷かったが、父親も酷かったし、この叔母たちも、みんな自覚がなかったが酷かった。何と言うか。まともな大人が双子の周りには少なすぎたというか。居たのかも怪しいくらい、まともな大人がいなかった。
「やっぱり、こっちの子が私に似ているようね」
公爵夫人である侯爵夫人の義姉にあたるイライザは、長女の方が似ていると言い出した。
それを聞いて侯爵夫人は、自分が抱いている次女の方をあやしながらこう言った。それが、彼女のお気に入りの娘だった。
「そうね、この子と違って愛嬌がないもの」
「は? それを言うなら、そっちは愛想がないわ。どっかの誰かさんにそっくりよね。どうせ、あなたに似て顔も頭もいまいちな令嬢になるに決まっているわ」
「っ!?」
そう言いながら、公爵夫人は長女を抱っこした。あまりにも次女ばかりを構い倒す義妹に腹が立ったからだ。
そして、対抗意識を燃やしてもいた。双子を産んだことでイライザは義妹が一躍、時の人のようになっていることに腹が立ってならなかった。
でも、それを知られたくなくて隠そうとしていた。知られたら何を言われるかわからないとばかりにイライザはしていた。
「アリスターも、こっちが可愛いと思うわよね?」
「うん!」
アリスターと呼ばれた男の子は、赤ん坊を見てそう言った。母である公爵夫人が抱く子供の方が可愛いとばかりにした。
元より伯母のことが好きではないアリスターが、そちらに近づくこともなく、ましてや、そんな人が抱く子供になんてまるで興味ないかのようにしていたのだが、母に聞かれて無邪気に答えても、もう一方の方などろくに見ていなかった。
侯爵夫人は、そんな甥の言葉にイラッとして腹を立てた。その顔を見ていた使用人たちは火に油を注いだなと思ったが何も言えないまま、侯爵家に数日滞在する間、使用人たちは仕事が増えることにげんなりしていた。
侯爵は姉のイライザや甥っ子の言うのを聞いて、すっかり長女はイライザに似ているのだとばかりになっていた。シスコンな侯爵は、それで妻が更に苛つくことになることにも気づいていなかった。
そもそも、妻の許しもなく、イライザたちがいつでも来ることを歓迎するのもおかしな話だ。今の家族は、双子と妻なはずなのに嫁に行った姉のことを大事にするのに腹が立たないわけがないのだが、侯爵がそれに気づくことはなかった。
更に侯爵は、気づかないどころか。更に火に油を注ぐことをしている自覚もなかった。
「確かに姉上の小さい頃の面影があるかもしれないな」
「そうでしょ。この子、私に似て美人で頭もよくなるわよ。どっかの誰かさんとは違うに決まっているわ。美人でもなければ、頭もよくないなんて、取り柄がなさすぎるもの」
「っ、!?」
それに侯爵夫人は怒りと変な闘志と対抗心を爆発させた。この家に嫁ぐ前から散々言われたことだが、娘がそうなると言うのに腹が立たないわけがなかった。
イライザと彼女の息子が帰ってからは、それまで以上になったのは、ある意味、仕方がないと言える。
夫はすっかり、姉と甥の言うのを真に受けてしまっていて、いつも以上に頼りにならなくなっていた。
そんな夫を妻は頼る気なんてなかったが。
「あんな人たち、みんな見る目がないだけよ。私に似ているのだもの。絶対に素晴らしい令嬢になるわ」
そんなことがあったせいで、双子の世話は明確にわかれることになっただけでなくて、侯爵夫人は娘たちの着るものから、他のありとあらゆるものに落差をつけることを忘れなかった。
そうすれば、双子の片方が駄目なように見えるからそうしていた。ただ、お気に入りの娘がよく見えるようにしたかっただけだった。
そんな母の思惑なんて子供は知らなかったし、関係なかった。
「おかあさま。わたしも、おなじのがいい」
ある日、母に長女は服のことを言ったことがあった。次女は、母の側に常にいて、そんなことを言うのを不思議そうにしていた。そっくりな顔をしているのに母の態度は明らかに違っていた。
長女が話しかけるとぞんざいになるのだ。そこに義姉であるイライザがいなくても、長女に対して雑だった。
「何を言ってるの。同じでしょ」
「でも、さわるとちがうもん」
そんなことを言った。すると母は、苛立ったのはすぐだった。
「同じだと言ってるでしょ。妹のものをそう言って欲しがるつもり? 普通は、妹が姉にすることよ。あなたは、姉なんだから手本になるようなことをしなさい。そのくらい、わかって当たり前なのに。本当に駄目な子ね」
「っ、!?」
あからさまに素材の違うもので洋服を作っているというのに同じだと主張する母にネチネチ、愚痴愚痴と言われることになった。
この時、どれほど傷ついたことか。双子の姉と言っても、ほんの少し早く生まれただけに過ぎないのだ。それなのに姉だからと我慢させるのもどうかしていることに母親は気づいていなかった。
それを見聞きして、母の言う通りに信じた次女は、段々と姉のことをそういう目で見始めた。
ずっと母が次女に偏ったことを言い続けていたせいで、どんどん歪んでいくことになるのだが、そうなる前までは双子ははたから見るとそっくりな動きを無意識によくしていた。
自分たちの足で歩けるようになってからの双子を見かけた人たちは、この国というか。この世界では珍しい双子に興味津々だった。
「本当に見ている分には、美少女よね」
「あの夫人の娘とは思えないくらい美少女だわ」
「きっと侯爵の方の血筋に似たのでしょうね」
「確かにそうね。侯爵の身内に美人がいるもの」
双子を何気なく見ている人たちは、面白がってそんなことを言っていた。美人な方とは、侯爵の姉の公爵夫人であるイライザのことだ。
それを耳にした侯爵夫人が、イラッとするのもお構いなしに周りは双子のことを見ては好き勝手なことを言った。
双子が、無意識のうちにシンメトリーに動いたり、左右対称に動いたりしているのを見て、楽しんでいた。そんな風に動くことが面白いショーのように見えた。娯楽の少ないところなので、何かにつけてお茶会やら婦人会のようなものを開いては、子供たちを連れて来て自慢しあったりしていたのだが、双子が現れてから少しずつ変わっていった。
双子は滅多に生まれないから、物珍しかったのも大きかった。それこそ、温かく見守っていたら、伸び伸びと生きられたはずだが、そうなるチャンスを与えようとしなかった。
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