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しおりを挟む侯爵夫人は、次女の方ばかりをおめかしさせて、長女の方は似たように見えるが明らかに質の違うものを身にまとって、お茶会やら婦人会に連れて歩いた。
片方だけではなくてわざわざ両方を連れて歩くのは、自分に似た方をよく見せたかったのと双子を連れ歩くことで、今まで呼ばれたことのないところに呼ばれることになるため、仕方なく両方を連れて歩いていた。そうでなければ、お気に入りではない方の娘のことなど、連れ歩くことはしなかっただろう。
でも、そのせいで周りは……。
「あの夫人、双子なのに片方だけを可愛がっているわよね?」
「義姉に似ているとかで、普段から長女の面倒は使用人任せらしいわよ」
「何、それ。あんなに見た目が一緒で、性格に違いなんてなさそうなのに」
あからさまな態度の違いは、外でも波紋を生むことになった。きっかけは、侯爵夫人のやることなすことを見ていたからだった。それが日常と化しているのは、明らかだった。
侯爵夫人も、外と家では態度を変えればよかったのだが、そんな器用なことができる夫人ではなかったせいで、色々言われることになった。そのせいで、イライザに馬鹿にされていることに全く気づいてはいなかった。
「そういえば、侯爵夫人は結婚する前から公爵夫人となった義姉と何かと争っていたわね」
「あら、そうなの? とても美人で頭も良かったと聞いているけど、そんな人に一度も勝てはしなかったんじゃない?」
「そうね。隣国の公爵家に嫁いだ時には負けを認めるべきだったと思うけど、認めていないみたいね」
「まぁ、双子を産んだだけなら、勝っていたかもしれないけど」
「あからさますぎよね」
娘たちが、いい迷惑なことになっているのに気づいてしまった。そのため、あまりにも娘として扱われていない方が可哀想に思えてならなかった。
その頃の双子は、周りが何を話しているかなんて関係なかった。
あちらを片方が気にすれば、もう一方がそちらを気にして、同じようなことを繰り返したりしていた。言葉なんてなくとも、それだけで楽しかったし、喧嘩になることもなかった。
「双子は、あんなに仲良さそうにしているのに」
「本当ね。どちらも、同じに育てればいいのに」
双子とはこういう風に無意識に動くのかと感心している者たちは、将来を案じていた。
そんな双子の性格は成長するにつれて全然違うものになっていくのも、叔母と従兄が長女に何かと会いに来ていたせいだとも知らず、この頃の双子は、まだ側にいる人に染まってはいなかった頃で、可愛らしいお人形のようだった。
そして、周りにあれこれ言われても理解していなかったから、気にもならなかった。
一番幸せだったかもしれない。
そこから、全てを把握していれば、なるべくしてなったものに変貌していくとも知らず、そういう影響を受けたからこその性格となったのだが、危惧していた通りになっていくのを周りもまた態度を変えてしまった。
母の愛情を全くもらえない長女の方を気にかけるようになったのだ。使用人たちも同じく、母の接し方や態度の露骨さや扱いの差に落ち込むのを見ていられずに長女の方が持ち物の差を気にしないように工夫するようになった。
すると今度は、次女の方が……。
「ずるいわ」
「?」
いいものばかりを買い与えられて、母の愛を独占しているはずなのに姉の持ち物を羨み始めたのだ。
すると母はすかさず……。
「あなたは、お姉さんなだから、妹にあげなさい」
「え? でも」
「何をしているのよ。さっさとしなさい」
「っ、」
都合のいい時だけ、姉なのだからと言われて、ただですら持ち物が少ないのに妹に取られることはよくあった。
でも、取られっぱなしではなかった。この後が酷いのだ。
「……なに、これ。こんなのをだいじにしてるの?」
「……」
「こんなのゴミじゃない」
「っ」
もらった後で、妹は手にした途端にいいものに見えていたが、嘘のように嫌味を言ってわざと姉の目の前でゴミに捨てることもあった。
そんなことをするのを使用人たちはちゃんと見ていた。
「益々、奥様に似てきたわね」
「本当ね」
侯爵夫人が言っていた通りになったとばかりにした。そういう風になるのも仕方がないとは思わず、やはり似ているのだと思うばかりだった。
全く同じ見た目で生まれたのに性格が違いすぎるのも、双子の周りにいる者が大きく影響して出来上がっていったにすぎないのだが、そんな影響を受けたことを可哀想だと思った方にも、自分たちが及ぼすことになるとも知らず、周りは好き勝手にし続けた。
それがなかったら、どうなっていたことか。きっと幸せになれただろうが、わかったところでやり直すことはできない。
やり直したところで幸せになれるとは限らない。だって、双子が物心つく前から、そうなって見ていたのだ。
やり直した時に記憶でもないかぎり、やり直しても同じになり続けるはずだ。
もっとも、それはこの双子だけに限らないことのはずだ。環境や周りのせいで、おかしくなることなんて、双子だから酷いなんてことはないはずだ。
ただ記憶を持ったまま、やり直せることができたから、彼女たちはこのままの未来とは違う人生を歩んでいられたはずだ。
周りに流されずに自分たちをしっかり保てていたら、最悪の未来にはならなかっただろうが、この結末はどちらかが幸せになれればよいが、両方はどうにも難しそうで、もしかするとどちらも幸せでは終われないかもしれない。
とりあえず、このまま見ていってみよう。
双子の姉の名前は、エレイン・アバネシー。彼女は、何でもできて、年相応よりもしっかりして育った。それこそ、しっかりしなくてはならない環境にいたから、そうなったようなものだが、はたから見るとまさしく長女というようにしか見えなかった。
母親が、妹のことばかりを面倒見て、エレインの面倒を使用人に任せっきりになっていたからに他ならない。
それこそ、使用人にやらせてばかりいても、それを見咎められて色々言われることもあった。それを考えれば自分でやった方が怒られはしない。
「エレイン様。何かお手伝いしましょうか?」
「ううん。平気。自分でできるわ」
いつまでも使用人にしてもらえないとばかりに自分でやるようになったことで、しっかりとしていると感激されていた。
エレインは、母親に怒られることを回避しようとしているだけだったが、それがわからなかったことで勘違いが起こっていた。
それこそ、使用人たちに何でもやらせていたら、妹よりもできないことになっていただろうが、自分のことを自分でやることにしてよかったのは確かだ。
双子の妹の方の名前はユーフェミア・アバネシー。エレインとは真逆で、年相応よりも幼いというか。幼すぎるところがあった。その上、物凄いわがままで、姉には何をしてもいいかのようにしていた。
そうなったのも母が甘やかしていたからに他ならない。でも、母にそんなつもりはなかった。
ユーフェミアのことを自分にそっくりだからという理由で侯爵夫人である母は、ユーフェミアの方を可愛がって何をしても怒らず、味方をして、溺愛していた。それが甘やかすことだとは全く思ってはいなかった。
「お母様。これやって」
「あら、いいわよ」
娘が甘えているのだと思って、やってほしいことを何でもやった。そのせいで、年相応よりもユーフェミアは稚拙なところも多かった。やりたくないから、やらせているだけなのを甘えていると捉える方もどうかしていた。
自分には似ていないという母にぞんざいに扱われるエレインは、何でも自分でやってしまうようになっていて、ユーフェミアとは真逆になっていくことになり、母には以前よりもっと嫌われることになった。とんでもない悪循環が起こっていた。
母がそちらに構わず、使用人に任せっきりなせいで、それを見咎められると色々言うからと自力で何でもやるようになっただけなのにそれが、母には可愛げがないように見えて仕方がないようだ。
「本当に似ていないわね。甘えてもこないし、そんなことせずに自分で何でもできるなんて、嫌味でしかないわ」
「っ、」
そんなことを言われたのを聞いてエレインは、どうにかして甘えようとすれば、ユーフェミアの時とは違う答えが返ってきた。そんなことを言われれば、甘えてもいいのかと思うのも無理はない。
「そのくらい自分でできるでしょ。忙しいのに声をかけて来ないで。本当にタイミングの悪い子ね」
「っ、」
何をしても、何もせずとも、甘えようとしても、母はエレインに嫌味を言わないことはなかった。姉だからできるはずだと言われることもあった。
その違いが、エレインにはわからなかったし、タイミングもわからなかった。
ユーフェミアがしたことも、エレインが悪いことにされるなんて、いつものこととなっていた。エレインは母に怒られるべき娘となっていた。怒るならエレインだけ。そのためにいるかのようになっていた。
それを見て、ユーフェミアはニヤニヤするようになっていた。それが、いつしかいつものようになっていて、その顔を見るたび、エレインは心の奥底に渦巻くものを感じずにはいられなかった。
でも、それが何なのかはわからないまま月日は過ぎ去った。
それが、嫉妬だと知らない方が幸せだった。
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