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しおりを挟むユーフェミアは、エレインが養子になってからやりたいと思うことしかしてこなかった。誰に何を言われても、言い返すこともせずにいたのは、それをやる気にならなかっただけだ。
ただ、母の自慢の娘としてあり続けたかった。それ以外は、どうでもいいと思うことにした。
(不思議よね。いわれのないことばかりなのに)
持ち物を隠されたり、壊されたり、そんなようなことはここしばらくの間に数えるのが馬鹿らしいほどあった。
そのきっかけは、してもいない誰のことかわからない子息に色目を使ったとか。ユーフェミアがその子息を見ていたとか。そんなような言いがかりばかりで、それに対する不満を発散させるために始まったのが、エスカレートしていた。
だから、大事なものを学園に持って行くことはしなくなった。目を離さないようにした。それでも、物は壊され、隠され、盗まれることは続いた。
(姑息よね。他にやることいくらでもあると思うけど)
それを言ったら、もっと酷くなるのが目に見えているから、言うことはなかった。ユーフェミアとて命は惜しかった。殺されそうになるのも、顔を潰されそうになるのも双子の片割れにされてきた。もう経験しなくていい。
悪口だけで飽き足らず、そんなことをして不満をぶつけて来る令嬢たちが、どれだけいるのか。ユーフェミアはわざわざ数えようとしたことはない。
ただ、そんな人たちの集まりしかいないことに人間が嫌いになりかけていたのは確かだ。
前のユーフェミアがしていたことをずっと根にもたれ続け、今の努力も何もかも見てくれず、認めてくれないのはあまりにも理不尽すぎる。
でも、そう言えなかったのは、言い返せなかったのは、今のユーフェミアが本物ではないからだ。
入れ替わったことで、後ろめたい気持ちがあった。ただ、欲しいものを得たいと思って、それが与えられるなら死んでもいいと思ってしまうほど、欲しかったものを今は手にしている。
それがある限り他への不満なんて、大したことはない。そう思おうとしていた。
「他に欲しいものなんてなくても良かったのに」
認めたくないが、欲しいものが更新されそうになっていた。
デュークがきっかけとなって、ユーフェミアの側に他の子息たちが常に誰かしらいるようになった。それに不満を持たないわけがないというのに何もしなかった。
そうなるのは目に見えていたのにユーフェミアは、側にいないように彼らを遠ざけようとしなかった。遠ざけなければ、面倒くさいことになることがわかっていたのにそれをしなかった。
「……」
ふとユーフェミアは、そこに行き当たった。やりたいことだけをしていたのにわざわざ面倒ごとに関わったのだ。それに首を傾げた。
やらねばならないことが、そこにあるのに気づきたくなかったのだ。
「ユーフェミア。どうしたの?」
「……いえ、何でもありません」
母が心配そうに尋ねるのは、いつものことだ。ユーフェミアとなってからは、いつもになっている。それは嬉しくてたまらないことであり、同時に嘘をついていることに罪悪感を感じずにはいられなかった。
母が娘だと思っているのは自分ではないことを伝えたくなってしまってならなかった。
「そう? あなたのことだから、また学園で一番になろうとして頑張りすぎているのではない?」
「そこまで根はつめてませんから」
そんなことを言えば、食事を一緒にしていた父が……。
「一番になっても、どうせ嫌味を言われるだけだ。そんなに頑張ることはないだろ」
「……」
学園に入ってから常にトップになっている娘にそんなことを言うのは、これまたいつものことになっていた。
(この人は、最近そればかりね)
普通なら、一番になり続けていることを自慢するところのはずが、肩身が狭いかのように父はしていた。吐き捨てるように言うのにユーフェミアは無表情になった。
この人が生まれたばかりの娘たちを飽きもせず見ていたなんて、想像すらできなくなっていた。
まっとも、珍しい双子に生まれて出世に利用できると思っていたまでをユーフェミアが知ることはなかったのは、いいことなのかもしれない。
それを知っていたら、両親のどちらからも、望まれていなかったようになって、もっと苦しい思いをせずにはいられなかっただろう。
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