私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです

珠宮さくら

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全く自覚なく、のほほんと生きていたルチアは、事が動き出しても別のことを勘違いしていて気づくまでに相当な時間を要するとは、ジョヴァンナすら思わなかったのではなかろう。いや、ジョヴァンナならそれでこそ、ルチアだと思うだけかも知れないが……。

まぁ、何というか。そんな事があって、せっかく街に来たのだからと散策して帰ろうとしていた。

とある子息にちょっと付き合ってくれと出会い頭に腕を掴まれてしまったのは、そんな時だった。

ここにジョヴァンナがいたら、失礼だと怒っていただろうが、ルチアは突然のことに対処できなかった。


「へ? ちょっ、な、何??」
「いいから。すぐ済む」
「っ、」


ルチアは、どこかに連れて行こうとする子息を見て、ぎょっとした。


(嘘!? あの方だわ!)


ルチアは、捕まえて離すまいとして移動する相手が誰かを確認するなり、拒むことはなかった。びっくりしていたはずなのに、どこに行くのか自ら着いて行くかのようにした。現金なものだ。

ジョヴァンナがいたら警戒心がなさすぎると怒られて心配されるところだが、ここにはいないから怒られることはない。

それこそ、弟に知られたら、ジョヴァンナよりも酷い説教が待っているだろうから、言うことはしないだろう。


(どこに行くんだろ?)


説明もなく、急ぐ理由がルチアには全くわからなかったが、アクセサリーショップに連れて来られて、その店の前で流石に少し固まった。


(街で一番のアクセサリーショップじゃない?! え? こ、これって、そういうこと……?)


強引に連れて来た彼のことをルチアは、前々からいいなと思っていた。学園でも、それはそれは令嬢たちに人気で婚約者がいないことを不思議がっていた。

ジョヴァンナほどの不思議ではないが。ジョヴァンナほど完璧な令嬢に婚約者がいないのは、不思議でならないが、釣り合う者が中々いないせいだとは思っていなかった。

子息に関しては、見かけるたびにあわよくば婚約者になれないかと思っている令嬢たちを見かけた。ルチアも素敵だと思って、ぼーっと見ていたがジョヴァンナは興味なさげにしていた。

いや、興味どころか。視界にもいれないようにしていたが、ルチアがそれに気づくことはなかった。なにせ、彼を見るのに夢中になりすぎていたからだ。

彼の名前は、エルマンノ・スカルラッティ。侯爵子息の跡継ぎで、顔がとにかくいいことで有名な人だ。勉強は、そこそこでも武術に長けていて、座学よりも身体を動かしている方か好きな方だ。

授業で当てられてもトンチンカンな回答をしていることもあって、それにルチアは親近感を覚えずにはいられなかった。

周りは……。


「何をどうしたら、そんな答えになるんだ」
「間違っていることに気づかないところが、あの方よね」
「先生も、当てる前から諦めきった顔しているしな」


満遍なく当てるのにエルマンノに順番で当てる時の教師は、正解するとは誰も思っていないほどだったが、ルチアはそれでも堂々としているのに凄いと思っていた。


「顔は凄くいいけど、あの頭ではね」
「婚約したら苦労するに決まっているものね」


それでも、侯爵家の跡継ぎだから人気だったのと見ている分には目の保養になると思われていた。

そんな方に捕まったのだ。力で敵うわけがないし、何なら女性の扱いをしたことないのか。乱暴な扱われ方で、捕まえられた手首が痛かったが、ルチアは別の事に夢中過ぎて気づいていなかった。

人気のアクセサリーショップで、女の子向けのものも多く扱っているところに連れて来られて、どれがいいかをエルマンノにルチアは聞かれて、心臓が煩くなったのも無理はない。


(こ、これって、私に気があるってことよね?)


それ以外に何があるというのか。そんな状況に戸惑いながらも、幼なじみと長年一緒にいたのだ。

糠喜びした経験は、かなりある。それは、ジョヴァンナの隣にいるがゆえのところも大きかったが、幼なじみのせいだとはルチアは思っていない。

自分がそういう星の下に生まれたと思っているだけだ。そういうところをジョヴァンナが好きなのも気づいていない。

だからこそ、確認のためにエルマンノに恐る恐る聞こうとしているのだが……。


「だから、どれがいいと思う?」
「どれって、言われても……」


ルチアは、いきなりすぎてついていけないとばかりにしながらも、好みのものがあるかとショーウィンドウの中を見ていた。キラキラしたアクセサリーが並んでいた。

仕方がない。こんなところにルチアは男性と来たことがないのだ。


(ジョヴァンナとお揃いのアクセサリーもいいな)


そんなことを場違いにも思ってしまっていた。今はそれどころではないことを束の間、忘れてしまうのも早かった。


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