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しおりを挟むルチアは迷惑になると思って、あの日のことを黙っていた。
いや、説教が嫌で黙って居たほうが正しいかも知れない。言い訳するなら、ジョヴァンナにドタキャンされ、変なのに捕まったことを忘れたかった。……言い訳にはなっていないが。
週末明けにジョヴァンナに会う前に彼女が婚約したことで学園では、もちきりとなっていた。いつも以上にそわそわとしていて、落ち着きのない人たちが多くいた。
(あんなのと婚約したのに凄い盛り上がりね。……見た目だけはいいから並ぶと絵になりそうだけど)
ルチアは、幼なじみが婚約したというのに浮かない顔をしていた。あの子息でなければ、誰でもいいと思わずにはいられなかった。もっと相応しい男性がいると珍しくルチアは思っていた。そう思うほど、酷かった。
でも、公爵が認めたのだから、政略結婚なのだろう。残念な限りだ。
娘のことを物凄く大事にしていても、やはり娘は家のために使う道具としか見ていないのだ。ジョヴァンナの兄は違うと思っていても認めるほどなら、よほどのことだ。
ルチアは、そんな風に思っていた。貴族の令嬢としては、自分とてそうなる覚悟はしているつもりでも、ルチアを利用してもたかが知れていると弟なら、辛辣なことを言うだろう。そうなると価値がないことがいいことなのかと思うところだが、余計に虚しくなるだけなのも事実だ。
だから、未だに婚約者がいないのだと思うと世知辛い。どこを突いても、ルチアの心に突き刺さるものがあって、落ち込んでいた。
するとエルマンノが、颯爽とジョヴァンナに近づいた。それにルチアだけが、眉を顰めずにはいられなかった。
(早速、、挨拶するのね)
ルチアは見ていたくなかったが、逃げるのも嫌でそこにいた。
「姉さん。どうしたの?」
「アルド」
そこに弟が現れた。朝、学園まで一緒に来ているのだが、いつもならとっくに教室に行っているはずなのに今日は、まだ外にいたようだ。
ルチアは、ジョヴァンナと待ち合わせしているから外でぼんやりと待っていることが多いが、弟はそんなことするより教室で席でもとっていればいいと言うが、そうなるとジョヴァンナと一緒にいさせまいとする令嬢たちに捕まるため、ルチアは外で待ってばかりいた。
それが、更にジョヴァンナの印象を悪くしているとも知らずにルチアは幼なじみをただ待っていた。
それも、今日で終わるだろう。婚約者ができてしまったのだから。
それでも、ジョヴァンナから婚約者のことを聞いていないからと意地のように待っているのが滑稽でならなかった。本当にあの子息が婚約者になったのを認めたくないようだ。
「やっぱり、具合悪いんじゃない? 無理して授業に出たって、そんなんじゃ頭に入るとは思えないよ。醜態晒す前に帰ったら?」
「……」
馬車の中でも、そんな風なことを言われた。顔色がよくないようだ。
何なら週末中も両親にも心配されたが、ルチアは生返事していて気づいていない。
今もぼーっとしている。
「姉さん?」
「え、あ、えっと、大丈夫。無様に倒れたりしないから」
「……また、姉さんの幼なじみのこと?」
「……」
アルド・ヴァーリは、はぁ~と深いため息をついて隣に立った。2歳年下なのに成長した弟には身長でとっくに抜かされている。知らない者からすると、アルドの方が兄にすら見えるようだ。
ルチアが頼りないせいなのか。アルドがしっかりして見えるせいなのかわからないが。
「婚約したみたいだね」
「そうみたいね」
「……取られた気分なの?」
「え?」
ぽつりと言うのにルチアは、目をぱちくりさせて、弟を見た。
「あの方は、そんな器の小さい方ではないと思うけど。姉さんから、取り上げはしないでしょ」
そんなことしたら、婚約者に嫌われることは目に見えているとアルドは口にしなかった。
でも、ルチアには気になる単語があって、それに頭がいっぱいになった。
「あの方……? アルド、それ、誰の話?」
「誰って、なんだよ」
アルドは、姉が何を言っているのかわからない顔をしていたが、ルチアは弟が何を言っているのかがわからなかった。
「ちょっと、あの子息、何をしてるのよ」
令嬢が、そんなことを言うのにルチアとアルドは、何があったのかとそちらを見た。それは、そっくりな動きだった。
「?」
「なんだ?」
そこには、エルマンノがジョヴァンナに贈り物をしていた。それは、ルチアにはここでやるのかと言うことでしかなかったが、他の面々にはもっと深刻なことだとは気づいていなかった。
「王太子と婚約した令嬢に贈り物をするって、あいつ、頭の大丈夫か?」
「武術以外からっきしだから、何考えてるかなんてわかるかよ」
そんなことを話す子息たちの言葉が聞こえてルチアは、驚いた顔をした。
「え? 王太子と婚約??」
「姉さん、婚約したのを知ってたんじゃないの?」
「違うわ。私が聞いたのは……」
そこで、王太子が現れてしまい、バッチリジョヴァンナに贈り物をしているエルマンノを目撃することになった。
婚約者を迎えにわざわざ来た王太子は、眉を顰めずにはいられない光景が広がっていた。
それに王太子が来るだろうと思って、待っていた人たちは引きつりそうな顔をした。
(そんな、王太子と婚約したのが本当なら、あの子息が勘違いしていたんだわ)
ルチアは、呆然と立ち尽くすのを隣の弟にこづかれて、慌ててカーテシーした。
こういうところが、弟に足りない姉と言われるのだろう。とっくに周りはカーテシーをしていた。
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