7 / 18
7
しおりを挟むルチアは、可哀想なくらい落ち込んでいた。そして、憔悴しきっていた。
そもそも、婚約した話をしてもらえなかったのだ。そんな程度の友情だったのだと思うと益々ルチアを落ち込ませた。
罵られることに何も言い返さないルチアをみんな酷く言い、ジョヴァンナが可哀想だと言うようになるまで、そんなに時間は要さなかったのは、ルチアが言い返さなかったからもあった。
王太子が、ルチアに非はないのだと言っても、元婚約者の幼なじみのことで騒がれることを避けたいがためにそう言ってことをおさめることにしたかのようにされてもいた。
「本当にいい迷惑よね」
「前から、あの令嬢には何かあると思っていたのよ」
「わざとらしかったものね」
ジョヴァンナがいたら、ルチアのことを悪く言う者を片っ端らからとてもいい笑顔で黙らせていただろうが、彼女はしばらく学園に来ていない。
あの日から、一度も来ていない。恥をかいたとして本人が来ないのではなくて、公爵家で恥をかかされたことに憤慨して娘を外に出さないようだ。
そんな日々が続いていて、ルチアは雨の中で立ち尽くしていた。持ち物は隠され、壊され、令嬢たちからは視界に入るのも嫌だと言わんばかりに色々言われるようになって、どのくらい経つだろうか。
(ジョヴァンナ)
幼なじみがどうしているのかとそればかりを気にしていた。まるで、迷子の子供のように雨に打たれるのも気にせず、破り捨てられて教科書だったものを見下ろしていた。
ジョヴァンナは、学園に来ていないから、誰もそんなルチアとまともに話そうとしない。一方的に色々言って、憂さ晴らしをするかのようにルチアのものを壊しているようだ。
ルチアの弟のアルドも、最近見かけていない。きっと愛想を尽かしてしまったのだろう。もう、何をどうしたらいいのかがルチアにはわからなくなっていた。
ろくに眠れず、食事もする気がしない。ただ、ジョヴァンナに会いたいとルチアは思うばかりだった。
「そんなところにいては風邪をひくぞ」
「っ、」
「これは、酷いな」
そこに傘をさして現れたのは、王太子だった。彼のことも久々に見た。あんなことがあったからではなくて、他にも色々と頭の痛いことがあったようで忙しくしていたようだ。
ルチアは、カーテシーをせずに膝をついて懇願するように話した。
それに王太子が、目を見開いて驚いた。地面は、雨でぐちゃぐちゃになっているのだ。そんなところに膝をつけば、学生服が汚れてしまう。もっとも、雨に濡れてずぶ濡れになっている格好からして、今更かも知れないが。
「殿下。ジョヴァンナは、悪くないんです! 私が、私が至らないから、こんなことに」
「やめろ。そんなことすることない」
王太子はぎょっとして、ルチアのことを立たせようとした。そもそも、あの一件はもう既に終わったことだと王太子は思っていた。忙しさのあまり学園でのことを知らずにいたが、まだ終わっていないことを知って、どうなっているのかと学園に来たら立ち尽くす傘もささずにいるルチアを見つけて話しかけたら、こんなことになったのだ。
側にいた側近たちが、ルチアのみならず、王太子も濡れないようにと傘を広げていたが、ルチアには王太子しか見えていなかった。
側近の1人だったはずのジョヴァンナの兄はそこにいなかった。彼は、妹ではなく、その幼なじみに騙されてはめられたが、数日で婚約を解消したことに側近のままではいられないととっくに辞めていた。
もっとも、彼はそこまでする必要はないと王太子に言われるものと思っていたようだが、あっさりと了承されたからこそ、ルチアに益々酷く当たっていることをルチアは知らなかった。
彼は王太子の側近として、有能で他の側近たちよりもできると思っていたのにあっさりといなくてもいいみたいにされたことにプライドが傷ついたようだ。
彼の場合、妹のジョヴァンナが凄いだけで、本人は何も秀でたところがないことがわかっていなかったようだり
でも、そんなことはルチアにはどうでもよかった。
「お願いです。ジョヴァンナは、何も悪くないんです。婚約の解消を撤回してください!」
「悪い。それは、できない」
「っ、!?」
それにルチアは、絶望した顔をした。それを見て、王太子は益々見ていられなくなった。汚れるから触るななんて言うこともなく、立たせようとしても立たないからしゃがみ込んで目線をあわせてすらいた。
「彼女から聞いていないのか?」
「?」
「君には知らせているものと思っていたが」
「それは、どういう……?」
ルチアは、わけがわからない顔をした。ジョヴァンナが何を言ってくれないのかと不安そうにした。そんなルチアを益々見ていられなくなって、話してやらねばと王太子は思った。
「彼女は……」
「殿下。ここでは」
「……そうだな。まずは、移動して着替えよう。風邪を引いてしまう」
側近に言われて、王太子は素早くルチアを立たせた。ルチアのことをほっとくなんて王太子にはできなかった。こんな弱りきった令嬢を放置するなんてできなかった。
自分のことではなくて、幼なじみのことで必死になる令嬢を見捨てるなんてできるわけがなかった。
ジョヴァンナの兄は自分のことでいっぱいだった。妹の心配なんて欠片もしていなかった。恥をかかされて迷惑しているとばかりにしている態度が王太子は気に入らず、元から側近としては名ばかりだったから辞めると言ってホッとしていたくらいだ。
それに比べるのも、どうかと思うがルチアは見ていると心臓が鷲掴みにされるようなものがあった。
そんな気持ちを王太子はこれまでやったことがなかった。捨てられた子犬よりも、訴えかけてくるものがあった。
「あの」
「安心してくれ。彼女が望んだ通りになっているだけだ。君が追い詰められることなどない」
そっと耳打ちされた言葉がどういう意味なのかを聞く前にルチアは、それに安心した。
(なら、怒ってはいないのね。……よかった)
そう思うとなぜ、未だに会ってくれないのかと思うところだが、家族が怒っていて会えないのだろうと思った。
途端、ルチアは安心しきって張り詰めていたものが切れた。
王太子が慌てた声をあげていたが、ルチアは深い眠りに落ちた。
62
あなたにおすすめの小説
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
彼の妹にキレそう。信頼していた彼にも裏切られて婚約破棄を決意。
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢イブリン・キュスティーヌは男爵令息のホーク・ウィンベルドと婚約した。
好きな人と結ばれる喜びに震え幸せの絶頂を感じ、周りの景色も明るく見え笑顔が輝く。
彼には妹のフランソワがいる。兄のホークのことが異常に好き過ぎて婚約したイブリンに嫌がらせをしてくる。
最初はホークもフランソワを説教していたが、この頃は妹の肩を持つようになって彼だけは味方だと思っていたのに助けてくれない。
実はずっと前から二人はできていたことを知り衝撃を受ける。
【完結】知らないですか、仏の顔も三度まででしてよ?
詩河とんぼ
恋愛
侯爵令嬢のレイラ・ローニャは、筆頭公爵家子息のブラント・ガルシアと婚約を結んだ関係で仲も良好であった。しかし、二人が学園に入学して一年たったころ突如としてその関係は終わりを告げる。
ティアラ・ナルフィン男爵令嬢はブラントだけでなく沢山の生徒•教師を味方にし、まるで学園の女王様のようになっていた。
レイラはそれを第二王子のルシウス・ハインリッヒと一緒に解決しようと試みる。
沢山のお気に入り登録、ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡
小説家になろう様でも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる