私が、全てにおいて完璧な幼なじみの婚約をわざと台無しにした悪女……?そんなこと知りません。ただ、誤解されたくない人がいるだけです

珠宮さくら

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ルチアは、可哀想なくらい落ち込んでいた。そして、憔悴しきっていた。

そもそも、婚約した話をしてもらえなかったのだ。そんな程度の友情だったのだと思うと益々ルチアを落ち込ませた。

罵られることに何も言い返さないルチアをみんな酷く言い、ジョヴァンナが可哀想だと言うようになるまで、そんなに時間は要さなかったのは、ルチアが言い返さなかったからもあった。

王太子が、ルチアに非はないのだと言っても、元婚約者の幼なじみのことで騒がれることを避けたいがためにそう言ってことをおさめることにしたかのようにされてもいた。


「本当にいい迷惑よね」
「前から、あの令嬢には何かあると思っていたのよ」
「わざとらしかったものね」


ジョヴァンナがいたら、ルチアのことを悪く言う者を片っ端らからとてもいい笑顔で黙らせていただろうが、彼女はしばらく学園に来ていない。

あの日から、一度も来ていない。恥をかいたとして本人が来ないのではなくて、公爵家で恥をかかされたことに憤慨して娘を外に出さないようだ。

そんな日々が続いていて、ルチアは雨の中で立ち尽くしていた。持ち物は隠され、壊され、令嬢たちからは視界に入るのも嫌だと言わんばかりに色々言われるようになって、どのくらい経つだろうか。


(ジョヴァンナ)


幼なじみがどうしているのかとそればかりを気にしていた。まるで、迷子の子供のように雨に打たれるのも気にせず、破り捨てられて教科書だったものを見下ろしていた。

ジョヴァンナは、学園に来ていないから、誰もそんなルチアとまともに話そうとしない。一方的に色々言って、憂さ晴らしをするかのようにルチアのものを壊しているようだ。

ルチアの弟のアルドも、最近見かけていない。きっと愛想を尽かしてしまったのだろう。もう、何をどうしたらいいのかがルチアにはわからなくなっていた。

ろくに眠れず、食事もする気がしない。ただ、ジョヴァンナに会いたいとルチアは思うばかりだった。


「そんなところにいては風邪をひくぞ」
「っ、」
「これは、酷いな」


そこに傘をさして現れたのは、王太子だった。彼のことも久々に見た。あんなことがあったからではなくて、他にも色々と頭の痛いことがあったようで忙しくしていたようだ。

ルチアは、カーテシーをせずに膝をついて懇願するように話した。

それに王太子が、目を見開いて驚いた。地面は、雨でぐちゃぐちゃになっているのだ。そんなところに膝をつけば、学生服が汚れてしまう。もっとも、雨に濡れてずぶ濡れになっている格好からして、今更かも知れないが。


「殿下。ジョヴァンナは、悪くないんです! 私が、私が至らないから、こんなことに」
「やめろ。そんなことすることない」


王太子はぎょっとして、ルチアのことを立たせようとした。そもそも、あの一件はもう既に終わったことだと王太子は思っていた。忙しさのあまり学園でのことを知らずにいたが、まだ終わっていないことを知って、どうなっているのかと学園に来たら立ち尽くす傘もささずにいるルチアを見つけて話しかけたら、こんなことになったのだ。

側にいた側近たちが、ルチアのみならず、王太子も濡れないようにと傘を広げていたが、ルチアには王太子しか見えていなかった。

側近の1人だったはずのジョヴァンナの兄はそこにいなかった。彼は、妹ではなく、その幼なじみに騙されてはめられたが、数日で婚約を解消したことに側近のままではいられないととっくに辞めていた。

もっとも、彼はそこまでする必要はないと王太子に言われるものと思っていたようだが、あっさりと了承されたからこそ、ルチアに益々酷く当たっていることをルチアは知らなかった。

彼は王太子の側近として、有能で他の側近たちよりもできると思っていたのにあっさりといなくてもいいみたいにされたことにプライドが傷ついたようだ。

彼の場合、妹のジョヴァンナが凄いだけで、本人は何も秀でたところがないことがわかっていなかったようだり

でも、そんなことはルチアにはどうでもよかった。


「お願いです。ジョヴァンナは、何も悪くないんです。婚約の解消を撤回してください!」
「悪い。それは、できない」
「っ、!?」


それにルチアは、絶望した顔をした。それを見て、王太子は益々見ていられなくなった。汚れるから触るななんて言うこともなく、立たせようとしても立たないからしゃがみ込んで目線をあわせてすらいた。


「彼女から聞いていないのか?」
「?」
「君には知らせているものと思っていたが」
「それは、どういう……?」


ルチアは、わけがわからない顔をした。ジョヴァンナが何を言ってくれないのかと不安そうにした。そんなルチアを益々見ていられなくなって、話してやらねばと王太子は思った。


「彼女は……」
「殿下。ここでは」
「……そうだな。まずは、移動して着替えよう。風邪を引いてしまう」


側近に言われて、王太子は素早くルチアを立たせた。ルチアのことをほっとくなんて王太子にはできなかった。こんな弱りきった令嬢を放置するなんてできなかった。

自分のことではなくて、幼なじみのことで必死になる令嬢を見捨てるなんてできるわけがなかった。

ジョヴァンナの兄は自分のことでいっぱいだった。妹の心配なんて欠片もしていなかった。恥をかかされて迷惑しているとばかりにしている態度が王太子は気に入らず、元から側近としては名ばかりだったから辞めると言ってホッとしていたくらいだ。

それに比べるのも、どうかと思うがルチアは見ていると心臓が鷲掴みにされるようなものがあった。

そんな気持ちを王太子はこれまでやったことがなかった。捨てられた子犬よりも、訴えかけてくるものがあった。


「あの」
「安心してくれ。彼女が望んだ通りになっているだけだ。君が追い詰められることなどない」


そっと耳打ちされた言葉がどういう意味なのかを聞く前にルチアは、それに安心した。


(なら、怒ってはいないのね。……よかった)


そう思うとなぜ、未だに会ってくれないのかと思うところだが、家族が怒っていて会えないのだろうと思った。

途端、ルチアは安心しきって張り詰めていたものが切れた。

王太子が慌てた声をあげていたが、ルチアは深い眠りに落ちた。


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