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しおりを挟む「どうした?」
「……」
何やら葛藤しているように見えるが、王太子はルチアという令嬢がわかっていなかった。しびれを切らしたのは、アルドだった。弟は、この姉のことをよくわかっていた。
いや、時折、ジョヴァンナの方ばかりに偏った答えを導き出して苛つくことはあるが、ジョヴァンナが悪いわけではない。彼女がわざとルチアを取り込もうとしているわけではないのだ。
それでも、まるで恋人からの手紙のようになるルチアを見ているようでアルドとしては面白くない。それこそ、ジョヴァンナが男だったら今頃、血の雨が降っていてはずだ。巻き込まれたのは、お前のせいだと怒鳴って、二度と近づくなとアルドは言いたいところだが、それもできないのは色々とあるからだ。
「姉さん、さっさと開けて見なよ。返事が必要なのだと向こうでジョヴァンナ嬢が心配して倒れるかもしれないよ」
「っ、そ、それは、駄目!」
「……」
弟の一言で、開けるのを躊躇っていたのが嘘のように開けるのを王太子は、目を丸くして見ていた。
それでも、手つきは繊細だった。大事な人からの手紙だからと扱う姿に王太子は、微笑ましそうに見ていた。アルドは、微笑ましさなんて失くしていた。とっくにそんな時期が過ぎでいたからに他ならない。
そんなルチアは、喜怒哀楽がわかりやすかった。それこそ、見ていて飽きないのだ。王太子は、そんな令嬢を見たことがなかった。
そんな王太子を見て、アルドは複雑そうにしていたが、姉が泣き出したのにアルドも王太子もオロオロすることになるとは思いもしなかった。
そんな男性陣を他所にルチアは、ジョヴァンナに嫌われておらず誤解もされていないことに感激していた。
(ジョヴァンナ。会えないまま、養子になってしまうなんて……)
今生の別れでもないのに悲しくて仕方がなかった。今すぐにでも、ジョヴァンナに会いたい。会えると思っていたのに会えないまま、あんな会話が最後になっていることにどうしても納得できなかった。
「姉さん。泣かないで」
「ルチア嬢、泣かないでくれ」
必死になる2人が、そこにいた。優しくすればするほど、泣いていて安静が必要なルチアは、それでまた熱が上がることになって寝込むことになるとは思いもしなかった。
さっき診察して安静を言ったはずの医者が呼び戻されて、泣き腫らしたルチアを見て、眉を顰めずにはいられなかったほどだ。
チラッと王太子とアルドを見た。いたたまれない顔をしている2人に医者は、何も言わない代わりに出て行くように言っただけだった。
ルチアと他の話もしたかったが、まだ無理だったことを思い知った。そもそも、倒れる前からいっぱいいっぱいだったのだ。
医者に言われて部屋を出てから、アルドは王太子に声をかけた。
「……殿下」
「わかっている。別の部屋で話そう」
アルドは、移動しながら姉のいた部屋を振り返った。あんな風に泣いたのを見たことがなかった。ぎゅっと手を握りしめて、すぐに王太子の後に続いた。
それこそ、あんな風に泣かせた存在全てに地獄を見せてやるとばかりに思っていることなど、その顔からはわからなかった。
とてもいい笑顔だったからだ。
それこそ、ジョヴァンナもルチアのことになるとそんな顔をしたことがあった。その顔に頬を染めていた者から血の気が引くのも、すぐのことなことまで全く一緒なことを知る者は限られていた。
だが、そんな目にあった者が周りに言わないから広まってはいないが、アルドとジョヴァンナはよく似ていた。その内面にあるルチアのことに対して、怒り狂う時ほど恐ろしいことを。
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