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しおりを挟む(ジョヴァンナ視点)
やっと手紙が来たかと思えば、ルチアからのものではなかった。ルチアの弟のアルドからだった。
「……」
かなり経ってから、アルドからそんな手紙が来たことに何とも言えない顔をしてしまった。そんな顔をしたことはない。不安と恐怖だ。嫌われたら、立ち直れない自信しかない。
「ジョヴァンナ。どうした?」
「……いえ、思っていた人からではなかったので、ちょっとびっくりしてしまって」
養父母となった人たちは、実の両親や兄よりも、私のことを気にかけてくれる人だった。
この人たちに迷惑はかけられない。でも、実家は面倒に巻き込まれたくないと言い出して、縁を切ってくれているから、幾分楽だ。
恐る恐る手紙を広げて読んでみた。それこそ、こんな時でなければ、ドキドキできただろう。……いや、他の時でも、恋愛関係ではない手紙だろう。
彼は、姉のルチアのことを昔から大事にしている。色々言いながらも、その奥に気遣いがある。その瞳の奥に柔らかな優しさがいつもあった。
その瞳で私は見つめてほしいと何度思ったことか。そこが、ルチアが羨ましくてならなかった。そんな弟ではなくて、そんな婚約者が私は欲しかった。
……でも、こんなことになったのだ。ルチアのことで怒って、もう会って話すこともできないかと思っていたら、手紙が来て複雑な気分のまま、それを読んだ。
「……」
養父母も、届けた人物も、そこにいる使用人たちも、ぞくりとする殺気を放ったのは、すぐだった。抑えきれないものが、うちから滲み出た。
「ジョヴァンナ……?」
「……許すものか」
手紙から視線を上げた私の目を見た者は、ひっ!と使用人の若い娘が恐れおののいた。
殺してやる。
そう言葉にしなかったが、アルドの手紙を読むなり、そんな思いが溢れかえった。あんなことをした黒幕が、兄の婚約者の令嬢だとわかったことへの知らせとルチアが熱を出して寝込んでいるから、手紙の返信はしばらく待ってくれというものだった。
でも、ルチアは誤解されていないことに安堵していたともあったが、それがなかったらこんな怒りでは済んでいなかった。
「ジョヴァンナ。殺気を引っ込めろ。母上や使用人たちが、気をおかしくする」
「っ、申し訳ありません」
義兄が、嗜めてくれた。養父も、失神寸前だったが、それを言わなかったのは、流石に恥をかかせられはしないからだろう。
義兄は、実の兄と全然違う。アルドとも、違う。理想の兄が、ここにいた。
「ルチア嬢に何かあったのか?」
「……熱を出して、寝込んでいるそうです」
「それは、心配だな」
「えぇ、なので、お見舞いに行きたいのです」
義兄は、ジョヴァンナが見舞い以外にもやりたいことがあるのを見抜くのも早かった。じっと、瞳を見ていただけで、問うことはしなかった。
「だがな」
「いいではありませんか。何なら私が、付き添います」
養父母が難色を示していたが、息子が付き添うと聞いて、それならばと納得した。すると義兄がウィンクして来た。
その前に“許すものかと殺気立ったのをなかったことにしてくれていた。思わず殺気立ってしまって、危うかったが、ことルチアのことになると余裕がなくなる。
こうならないためにも、ルチアが私の安定剤だったのだ。離れてみるとよくわかる。暴走すると止まらなくなりそうで、義兄がいてくれるのなら間違いは起こらないだろう。……私に自信はない。
両親や手紙を届けてくれた人を見た。震えて顔色悪くしていた。
そちらに行くから混ぜてほしいと書いた。更には義兄と行くことを書いて、怯えた目をした彼に渡した。……そこまで怯えないでほしい。
「それで、何があったんだ?」
「移動中に話します」
「……ならいい。私にできることは?」
「いてくだされば、間違いを起こさずに済みます」
「……今回のことだけの話じゃない。せっかく、お前の義兄になったんだ。可愛い義妹のために何かやってやってもいいぞ。さっきのお前は、中々にゾクゾクした」
義兄は、ちょっと危ない人かも知れない。怪しんだ目を向けてしまった。
「……お義兄様」
「その顔はやめてくれ。私は、婚約者一筋だ」
「知ってます」
ここに来て、ルチアの次には程遠くとも、義姉としては合格点な令嬢が、婚約者なのだ。あちらも、普通が何なのかを忘れさせるような令嬢だった。
この義兄にはお似合いの人だったのは間違いない。
はぐらかそうとしたわけではないが、義兄はなんてことないように言った。
「頼ればいい。ずっと、頑張っていたんだ。せっかく、こうして、家族になれたんだ。いくらでもわがままに付き合ってやる」
「っ、」
そんな風に言われて認めてくれたことに不覚にも泣いてしまった。
わがままなんて言ったところで、必要ないかのようにされてきた私には、ようやく義兄に甘えることができた。
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