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しおりを挟むそんな風に元婚約者の令嬢が勘当されて、全てが終わったかのようにジョヴァンナの兄は思った。兄のみならず、公爵夫妻も似たりよったりだった。
「ジョヴァンナ。戻って来ていいんだぞ」
「巻き込まれただけなのだもの。辛かったわね」
「……」
公爵夫妻である実の両親にそんなことを言われていて、ジョヴァンナは冷めた目をしていた。話があると呼ばれたが、それに付き合う義理はジョヴァンナにはなかったのだが、これが最後だと思って会うことにした。
「戻るも何も、そちらとは縁を切ってありますので、今後はそんな話は聞きたくありません。二度となさらないでください」
「ジョヴァンナ。意地になるな」
ジョヴァンナの実の兄は、妹が意地になっていると言うのにジョヴァンナは笑いたくなった。
「意地になっているのは、そちらでしょ。今更、私が戻って立て直す手伝いなんてする気はありません」
そう言うとジョヴァンナのことを怒鳴りつけて来たが、義兄と婚約者となったアルドが、そんな公爵家に裏でやり返したのは、この後だった。
密かに心配して、どうなるかを見守っていた2人は、謝罪する気もない公爵家に激怒した。
養子に出しただけで飽き足らず、これからも利用する気でいるのにそんな気が起こらないようにした。
公爵家に嫁ごうと思うような令嬢は中々現れることはなかったのも、そういうことだ。
もちろん、エルマンノの家も、エルマンノのことをそのままにしておいたら、まずいと思ったのは、ルチアが王太子の婚約者になってからだった。それですら遅いのだが、まだ間に合うと本気で思っていた。
息子を勘当して、全力でルチアに媚を売ろうとしたが、そんなのをルチアに近づけるなんて王太子が許さなかった。
他にも、ルチアに目に見えて酷いことをしていた令嬢たちも何をしていたかを家族に知られることになったのは、苦情と抗議がなされたからだった。
前までならスルーしていたが、王太子が怒っているとわかって、娘を見限る者ばかりだった。
家の今後のことを考えていたなら、王太子が言ったことで終わらせておけばよかったのだが、ジョヴァンナのことを幼なじみと言い、唯一の友達だと言い合うルチアのことを妬ましく思っていたのもあり、ルチアがいなくなれば、ジョヴァンナが孤立して、王太子との婚約を数日で解消したのを散々笑えると思ってのことだった。
そんなジョヴァンナがいなくなり、新しい婚約者になる者が選ばれることになる。そうなるのは、ジョヴァンナがいなくなれば自分しかいないと思っている令嬢たちが、これまでジョヴァンナへの鬱憤を晴らすのにルチアを利用した結果が、あんな嫌がらせになって止まらなくなるとは、誰も思っていなかった。
矛先をルチアに向けたのは、ジョヴァンナみたいな完璧な令嬢を馬鹿にするほどの令嬢なのかと思われると立ち直れないと思ってのことだ。
それとルチアなら勝てると思っていたことも大きかったが、そんな勝てると思っていたルチアが王太子に溺愛されることになるとは誰も思わなかった。
「そんな、どうして、あの令嬢が選ばれるのよ」
「本当にそうよね」
勘当されはしないが、婚約が台無しになった令嬢たちは、ルチアが婚約者に選ばれたことが癪でならなくて、グチグチ言うのをやめられない令嬢が幸せになることもなかった。
「懲りない人たちね」
「謝罪なんて、する気もない人たちですからね。悪いとは本気で思っていないのは明らかでしょう」
ジョヴァンナは、アルドと一緒になって、ルチアのことを悪く言い続けるを令嬢に仕返しするのをやめることはなかった。
その頃には、ジョヴァンナの義兄はとっくに国に帰っていた。ジョヴァンナは花嫁修業が必要だからとアルドたちの家に住んでいた。
日に日にそっくりになっていくアルドとジョヴァンナが何を話し合っているかなんてルチアが、知ることはなかっとた。
いや、その内容なんてどうでもよかった。
(ふふっ、本当に仲良しね)
ルチアは、幼なじみと弟がくっついて話しているのを見て、そんなことを思うばかりだった。
それこそ、ルチアの周りでルチアに対して色々とやっていた人たちがいなくなっていっていることにすら気づいていなかった。
それも、そのはず、元々ルチアにとってはどうでもよかったのだ。
ジョヴァンナに嫌われさえしなければ、他はどうでもよかった。いや、弟や両親は、どうでもよくはなかったが、ジョヴァンナに敵うことはなかった。
今は婚約者やら、ジョヴァンナの義理の兄やらとどうでもよくない者もたくさん増えたが、それでもジョヴァンナには敵わない。
ルチアの世界は、ジョヴァンナがいることで成り立っていると言っても大袈裟ではない。
そんな偏りきった世界で生きているルチアのことを溺愛する王太子のみならず、彼女のことを愛してやまない人たちによって、仕返しされることになった面々はたまったものではなかったはずだ。
それでも、謝罪をすることはなかったのは、口先だけの謝罪など意味をなさないからだ。そんなことで、許す面々ではなかった。
ルチア本人が、何とも思っていなくとも。
ルチアは王太子妃となる勉強に追われ、長らく休んでいた授業の勉強にも追われて、パニックになっている間に色々と片付いていったのにも、気づくことはなかったほどだ。
「……あれ? なんか、ありましたか?」
「ん? いや、何もないぞ」
「??」
王太子は、何でもないとルチアに微笑んだ。
ジョヴァンナが、実家と色々あって二度と戻る気はないと話し合いが終わっていることも、ルチアが知ることはなかった。
「姉さんにバレずに終わりましたね」
「そうね。あそこまで、気づかれないままで終わるとは思わなかったわ」
アルドは、流石にバレるかと思っていたが、そんなことはないところに脱力していた。
ジョヴァンナは、そんなルチアにらしいと思っていた。2人がくっついて話す話題の殆どがルチアだったりするが、この2人はそれでよかった。
「まぁ、結果からすれば、おさまるところにおさまった感じですね」
「……そ、そうね」
ジョヴァンナは、アルドに手を握られて吃って、頬を赤らめていた。王太子と対峙しても、堂々としていられたのが嘘のようにアルドの前では、恋する乙女のようになっていた。
「ルチア。どうした?」
「いえ、幼なじみと弟が、幸せそうだと思って」
そんな2人を見て、ルチアは満面の笑顔を見せた。その笑顔に王太子は、ドキマギしていた。
泣き顔にも慌てふためくが、ルチアの笑顔に翻弄される王太子も、色んなところで目撃されることになった。
そんな風に仲睦まじくしている姿が色んなところで目撃された。
ルチアの笑顔が曇るたび、王太子やジョヴァンナ、アルドが般若のような顔や殺気を放つため、ルチアに嫌がらせをしようなんて強者が現れることはなかった。
何より、そんなジョヴァンナたちもルチアの心のうちを把握しきれていなかったことを知らないまま、幸せな人生を送ることになった。
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