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しおりを挟むバークロンビー伯爵家の面々は、謝罪に来たのではなかった。ちょっとした勘違いだからとやって来て、穏便に終わらせようとしたが、バークロンビー伯爵は娘が何をしたのかに気づいて、謝罪に来たことに変えようと必死になっていた。
どうにも手紙をちゃんと読んで来たようには見えなかった。ただ、どこから来た手紙なのか慌てて娘に聞いて、誤解を解きに来たように見えてならなかった。
そんな人たちには、早々に帰ってもらおうとしたが、待てど暮らせど謝罪は聞けそうにないとシャーリーは思った。段々とイライラしてきていた。
「お姉様」
「なぁに?」
「やられたことをやり返して、終わらせてもいいですか?」
「……それで、あなたはスッキリするの?」
「お姉様が、心を痛めないなら」
「なら、約束して」
「?」
「手加減しないで。やるなら、徹底的にして」
「任せてください」
シャーリーは満面の笑顔で、アンゼリカを平手打ちした。それに驚きつつ、すぐに何をするんだと喚き散らすアンゼリカに……。
「絶縁してるんだから、親友みたいに言うのやめて。それと次からは、呼び捨てにしないで。あなたは、伯爵令嬢で、私は侯爵令嬢。お茶会でも、パーティーでも、私の親友だと言って紛れ込むのも、もうさせないから。伯爵令嬢として呼ばれたところにだけ出て。呼ぶところがあるとは思えないけど」
「なっ、」
「なんてことをするのよ!!」
「彼女にされたことを仕返しただけです。バークロンビー伯爵、慰謝料はお互いなしにしましょう」
シャーリーは笑顔で、そう言ったが、バークロンビー伯爵夫人は……。
「なしですって!? 娘を平手打ちしておいて、許されると思わないことね!」
「それは、こちらがこの3日していたことだ。謝罪も、そちらからはされていないから、このままお互い様で済ませよう」
「そんな、」
「わかりました」
「あなた!!」
「お父様!!」
「いい加減にしろ。これで、許してもらえたんだ。ありがたいと思え」
「「っ、」」
バークロンビー伯爵の言葉に納得いかないアンゼリカは、シャーリーを再び平手打ちしようと動いたのを見ていたエイプリルが、足を引っ掛けた。
それによって、アンゼリカは派手に転ぶことになった。
「あら、大丈夫?」
「な、何を」
白々しいと言おうとしたが、アンゼリカは顔面から転んだのか鼻血を出していた。
「アンゼリカ!」
「もう、帰るぞ」
どうやら、バークロンビー伯爵夫妻はエイプリルが足を引っ掛けたのを見ていなかったようだ。
平手打ちをされて足がもつれたと思われてしまったアンゼリカは、エイプリルがやったと言おうとしていたが、呂律が回っていなくて、両親に連れられて帰って行った。
シャーリーは、姉をチラッと見るとぺろっと舌を出していた。そんな姿を初めて見たシャーリーは、目を丸くして驚いてしまった。
ジェレマイアも、両親も、エイプリルがそんなことをしたことに驚いていたが、何も言わなかった。
「シャーリー。あの令嬢に名前を使われていたの?」
「……今、思うと使われていたみたいです」
「シャーリー。手を見せて」
「え?」
「怪我していないみたいだけど、痛くない?」
「平気です」
「いい姉なら、怒らなきゃいけないのでしょうけど。いい姉にはなれそうもないわ。ありがとう。スッキリしたわ。一緒に怒られましょう」
「ふふっ、一緒に怒られるのは、初めてですね」
「そうね」
姉妹は楽しげにしながら、父親を見た。
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