11 / 24
11
しおりを挟むだが、そんなやり取りをしていたのが中断したのは、姉妹揃って熱を出すことになったからだ。
ジェレマイアは、ふと気づいた。話の矛先を意識的に変えるためにそうしたわけではない。無意識に2人の変化に気づいて声に出していた。
「2人共、顔が赤くないか?」
「「え?」」
「あら、本当だわ」
「熱か?」
「風邪かしら? ……大変だわ。2人共、おでこが熱いわ」
「すぐに医者を呼べ」
「はい」
「私としたことが、シャーリーはゆっくりしなくてはいけなかったのに。エイプリルだって、シャーリーを見ていたから、疲れていたのに。気が利かなかったわ」
「落ち着きなさい。ジェレマイア、エイプリルを部屋まで運んでくれ。私はシャーリーを運ぶ」
「はい」
姉妹揃って、歩けると言っても駄目だった。罰うんねんは有耶無耶になったまま、医者に再び呼ばれて今度は何事だと慌てて来たようだが……。
「仲良く熱を出すことないでしょうに。一体、何をしたんですか?」
「姉妹揃って叱ってもらおうとしただけよ」
「はい?」
それでわかるはずもなく、医者は目をパチクリさせていた。そんな顔を見たのは初めてで笑いそうになったが、心配そうに母がやって来たため、シャーリーは黙ることにした。
「先生。どうですか? 風邪? それとも、何か悪い病気?」
「あー、よほど仲がよいのか。姉妹揃って、知恵熱を出されたようです」
「……知恵熱?」
「そうです。やり慣れないことでもなさったのですか?」
「そうね。姉妹揃って反抗期にちょっとなったかしら」
母が、姉妹のやったことをちょっとした反抗期と表現したことにシャーリーは笑いそうになった。母からしたら、そう見えたようだ。
確かにあんなことをしたのは生まれて初めてだ。姉も、ここにいたらシャーリーと同じように驚いていたはずだ。
その話をこっそり部屋から抜け出して姉にその話をしたシャーリーは、母に見つかる前に部屋に戻ったりして、母にバレないように悪知恵だけはスキルアップしていった。
それによって、姉妹の仲は前より一段とよくなった。それに巻き込まれるように付き添っているメイドたちが焦っていたが、姉妹で楽しそうにするのをやめさせられなかったようで、共犯となってくれていた。
シャーリーは、学園を長らく休むことになったが、オールポート侯爵家で楽しく過ごしていた。
今までで一番姉と思う存分、遊んだ気になっていた。もしかするとそのせいで、知恵熱が下がらなかったのかも知れない。悪知恵を働かせるのに熱が上がったままになっていたのなら、心配してくれている両親や姉の婚約者に申し訳ない気持ちもなかったわけではない。
ある程度のところで、やめたことで熱は順調に落ち着いた。やはり知恵熱だったようだ。
そんな感じで熱が下がるまで学園を休むことになった。
診断は、やり慣れないことをしたことの知恵熱と医者に言われて姉妹揃って笑ってしまったが、母が娘たちの側にいようとしてくれて、笑っていられたのも最初だけだった。
申し訳ない気持ちになっても、熱が平熱に戻るのに色々やっていたせいで時間がかかってしまい、シャーリーはやり慣れないことをするものじゃないなと内心で苦笑したが、やったことに後悔を持つことはなかった。
心配していたのは、姉の体調のことだった。逆にエイプリルが心配したのは妹のことだった。
そんなオールポート侯爵家にジェレマイアは毎日来たかというと忙しいらしく、数日置きにやって来ていたようだ。体調不良の理由がわかっているのと知恵熱という診断に呆れているのかも知れない。
それにシャーリーは、姉の婚約がちょっと心配になってしまったが、来れない日は見舞いの品が届いていたらしく、姉の部屋が花屋のようになっていたのを見て杞憂だったと気づいたのは、しばらくしてからだった。
姉の婚約者がそんなことで姉への愛を冷めさせることはなかったのだ。それにホッとしながら、素敵な婚約者がいることが、羨ましくなってしまった。
68
あなたにおすすめの小説
【短編】誰も幸せになんかなれない~悪役令嬢の終末~
真辺わ人
恋愛
私は前世の記憶を持つ悪役令嬢。
自分が愛する人に裏切られて殺される未来を知っている。
回避したいけれど回避できなかったらどうしたらいいの?
*後編投稿済み。これにて完結です。
*ハピエンではないので注意。
悪役令嬢は断罪されない
竜鳴躍
恋愛
卒業パーティの日。
王太子マクシミリアン=フォン=レッドキングダムは、婚約者である公爵令嬢のミレニア=ブルー=メロディア公爵令嬢の前に立つ。
私は、ミレニア様とお友達の地味で平凡な伯爵令嬢。ミレニアさまが悪役令嬢ですって?ひどいわ、ミレニアさまはそんな方ではないのに!!
だが彼は、悪役令嬢を断罪ーーーーーーーーーーしなかった。
おや?王太子と悪役令嬢の様子がおかしいようです。
2021.8.14 順位が上がってきて驚いでいます。うれしいです。ありがとうございます!
→続編作りました。ミレニアと騎士団長の娘と王太子とマリーの息子のお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/mypage/content/detail/114529751
→王太子とマリーの息子とミレニアと騎士団長の娘の話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/449536459
姉の八つ当たりの対象の持ち主となっていましたが、その理由まで深く考えていなかったせいで、色々な誤解が起こっていたようです
珠宮さくら
恋愛
オルテンシア・バロワンは、幼い頃から迷惑していることがあった。それは、姉がオルテンシアが持っているものに何かあると八つ当たりすることだった。
そんなことをするのは、いつも妹であるオルテンシアの持ちものにだけで、そこまで嫌われているのかと思っていたのだが……。
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
私の感情が行方不明になったのは、母を亡くした悲しみと別け隔てない婚約者の優しさからだと思っていましたが、ある人の殺意が強かったようです
珠宮さくら
恋愛
ヴィルジ国に生まれたアデライードは、行き交う街の人たちの笑顔を見て元気になるような王女だったが、そんな彼女が笑わなくなったのは、大切な人を亡くしてからだった。
そんな彼女と婚約したのは、この国で将来を有望視されている子息で誰にでも優しくて別け隔てのない人だったのだが、彼の想い人は別にいたのをアデライードは知っていた。
でも、どうにも何もする気が起きずにいた。その原因が、他にちゃんとあったこアデライードが知るまでが大変だった。
愛に死に、愛に生きる
玉響なつめ
恋愛
とある王国で、国王の側室が一人、下賜された。
その側室は嫁ぐ前から国王に恋い焦がれ、苛烈なまでの一途な愛を捧げていた。
下賜された男は、そんな彼女を国王の傍らで見てきた。
そんな夫婦の物語。
※夫視点・妻視点となりますが温度差が激しいです。
※小説家になろうとカクヨムにも掲載しています。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる