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しおりを挟む「殿下。私の婚約者にわざわざ挨拶なさらなくともよろしいかと」
ジェレマイアは、そう言いながら会わせたくないという顔を隠そうとはしていなかった。それどころか。絶対に会わせたくないかのようにしていた。
そもそも、律儀に挨拶しに行くことなどないだろうとばかりに王太子を見ていた。
「そんなの建前に決まってるだろ。あんな論文を書く才女だ。素晴らしい女性に決まっている」
ダレイオスは、目を輝かせいた。本当に会えるのを楽しみにしているようだ。
シャーリーは、論文と聞いて首を傾げた。
「論文……?」
「ん? シャーリー嬢は知らないのか? 我が国では通学が難しい者に課題をこなすことで、単位がもらえるんだ。彼女の書く論文は毎回素晴らしいものばかりだから、提出されるのを楽しみにしているんだ。私があの学園で他に楽しみなことなんて、それくらいしかないが……。その話をしたくて来たんだ。まぁ、ジェレマイアは、卒論のこともあるから、そのサポートに来たのもあるのだろうが、自分の卒論の手伝いをしてもらっていそうだが」
「……」
わかっているなら、そんなに言うなとばかりの顔をジェレマイアはしていた。そこにそんなことしていないとジェレマイアが言うことはなかったから、そういうことなのだろう。
それは珍しいことだった。少なくとも、シャーリーは見たことない反応だった。勉強のことで、シャーリーがジェレマイアに教えてもらうことはあっても、姉に勉強を見てもらったことがそもそもないのだ。
そんなことをしてもらうなら、シャーリーとしては姉と他のことで話をしている方が有意義だったのだ。
シャーリーは、姉が頭がいいのは知っていたが、そこまでとは知らなくて、わざわざ会いに来たと言うのが嬉しくて仕方がなかった。
ジェレマイアが来た時は、かなり警戒していたのが嘘のようにシャーリーは嬉しい気持ちが爆発しそうになっていた。
この国では、美人だが病弱で、他に取り柄などないかのようにエイプリルは思われることが多い。そう言われたことが無性に嬉しかった。
でも、シャーリーが感慨深い思いに浸ることはできなかった。
「ちょっ、もしかして、あなた、隣国の王太子?!」
「……」
ダレイオスは、空気の全く読めないアンゼリカのことを無表情で見た。その目は冷めきっていた。
シャーリーも、同じ目をしていたはずだ。
「まだいたのか」
「っ、あ、あの、私、アンゼリカと言います!」
アンゼリカは、色々やらかしているのに何事もなかったように自己紹介を始めてシャーリーだけでなく、他の令嬢も、ここで何事もなかったように軌道修正するのかと言う冷ややかな目を向けていた。もちろん、それで気づくような令嬢ではない。その辺のメンタルは強い。
だが、その上をいったのがダレイオスだった。
「シャーリー嬢。同じ授業を取っているんだ。案内を頼めるか?」
それにすぐさま反応したのは、シャーリーではなかった。
「それなら私が!」
「気安く話しかけて来るな」
「っ、!?」
アンゼリカにそう言うとダレイオスは、視界にも入れたくないかのようにアンゼリカに背を向けた。
それこそ、アンゼリカがそんな風にする者は、色々あってから増えていた。シャーリーの親友だった頃は、そんなことなかったのに。シャーリーを平手打ちして絶縁したことが広まっていたが、その後、シャーリーに同じことをされて絶縁されたことの方が大きく問いただされることになった。
それこそ、シャーリーに平手打ちされた次の日から学園に来て、シャーリーが何をしたかを騒ぎ立てていたのだが、前みたいに話を親身になって聞いてくれる者はいなくなっていた。
それにイライラしていたが王太子が現れて、アンゼリカは必死になっていた。
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