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しおりを挟む「ロッドフォード公爵。私に用がおありとか?」
ダレイオスは信頼していた側近の父親と久しぶりに会って何とも言えない顔をしていたかというとそうではなかった。
ロッドフォード公爵のことを見ようともしていなかった。ダレイオスは、書類を見るのに忙しくしていた。
入って来たのをチラッと見てロッドフォード公爵だと確認しても、それだけで目は書類を追っていた。
それについてロッドフォード公爵は咎めることはなかった。ただ、顔色の悪さだけが気になった。
「我が家に留学生が滞在しているのですが、殿下が留学中のように学園に姿を見せないことを気にかけているんですよ」
「……留学生が、ロッドフォード公爵家に?」
「えぇ、息子が留学中の話をしてくれたり、私たちの知らない息子の話をしてくれて、妻も私も喜んでいます。殿下も、お話しなさったら、いかがかと思って」
「そうですか。すみませんが、執務が忙しいので学園には……」
ダレイオスは、そこで話すのをやめた。そして、それまで書類を見ていた視線をやっとロッドフォード公爵にしっかりと向けた。
「……どなたが、留学しに来ていると?」
「シャーリー嬢ですよ」
「彼女が、この国にいるんですか?」
「えぇ、もう、2ヶ月が経つかと」
「……」
それに驚いた顔を見せた。その顔をロッドフォード公爵は初めて見た。ダレイオスが、把握していないことがこれまで一度もなかったのだ。それほどまでに、ダレイオスは何をしていても状況を把握することに長けていた。
ロッドフォード公爵は、見たことない王太子を見て、年相応の青年に見えたことが嬉しくて仕方がなかった。
シャーリーは、ロッドフォード公爵から王太子に伝えたとか。会ったと聞いていなかったため、学園でいつも通りにしていた。
「シャーリー嬢」
「殿下……?」
何やら息を切らして現れた王太子にシャーリーはびっくりしてしまった。
「留学しに来ているとは知らなかったんだ」
「殿下は、お忙しいでしょうから無理もありません」
「……こんなことは初めてなんだ」
「?」
「把握しそこねたことなんてなかったんだ」
ダレイオスは、初めてミスしたかのように聞こえた。それが初めてのことなら、シャーリーは生きにくいだろうなと思ってしまった。
「殿下。ちゃんと休んでおられますか? 息抜きしなくては駄目ですよ」
「私に休めとか、息抜きとか言うのは、シャーリー嬢だけだ」
「らしいですね。ジェレマイア様が、そう言っていました。殿下は、いつもそんな風に見えているから、そんなことを言うのは、あなたくらいだって」
「あいつが、そんなことを? ……相変わらず、失礼な奴だな」
「ジェレマイア様は言いたくても言えなかったそうですよ。あ、だからと言って言い過ぎないでくれとも言われましたけど。……内緒にしてくださいね」
「あいつとそんな話までしたのか」
「えぇ、言いやすかったんでしょうね」
「……」
ダレイオスは、それを聞いて泣きそうな顔をした。でも、涙は見せることはなかった。
「殿下。私にできることはありますか?」
「……名前を呼んでくれ」
「ダレイオス様。他にできることは?」
あっさりと名前を呼んだことに驚きつつ、ダレイオスは嬉しそうにした。
「側にいてくれ」
「留学期間の間だけで、よければ」
「それを終えても側にいてくれ」
「はっきり言ってください。なぜ、私に側にいてほしいのですか?」
休めと言いながら、ダレイオスにそんなことを聞いたシャーリー。それこそ、一番優しくないことをしている自覚はあったが、欲しい言葉を引き出すこととなって学園中が、大騒ぎとなってもシャーリーは笑っていた。
そして、ダレイオスも一番言いたいことを言えたとばかりにシャーリーを抱きしめていた。
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