見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら

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留学の準備と言っても、アンネリースは大したものを持っていなかったが、それでもここより外の世界の方がマシだと思うことに必死にもなっていた。


(こう見ると本当に大したもの持ってないのね)


そんなことが改めてわかることになったが、まぁそんなのより留学したら勉強できることに頭の中が、それでいっぱいになっていると声をかけられた。


「アンネリース様。私も、一緒にお連れください」


様付けで呼んでくれる人は少ない。彼女は、数少ない1人で、アンネリースは信頼していた。


「え? 駄目よ。あなたには……」
「母は、だいぶ前に亡くなりました」
「っ、」
「申し訳ありません。母に口止めされていました」
「……いつ亡くなったの?」
「私が、アンネリース様にお仕えして間もなくです」
「っ、」


それを聞いて、崩れ落ちそうになった。


(あぁ、なんてことなの。私は、これまで何度も知らずに元気にしているかと聞いてしまっていたわ)


アンネリースは、乳母を気にしているだけで、会いに行けば迷惑になるからと顔すら見れていなかった。だから、もう他界しているなんて思いもしなかった。


「アンネリース様に母のことを聞かれるたび、嘘をついているつもりはなかったのです」
「……」
「アンネリース様が、母を気にかけてくれている限り、母は元気にしている。それは、生前から変わりません」
「あなたを悲しませてはいなかったの? 知らなかったとは言え、そんなことを聞いていたのに」
「おかしな話に聞こえるかもしれませんが、嬉しかったのです。ですが、騙すようなことをいたしました。申し訳ありません」
「ううん。いいのよ。……そう、他に親戚は?」
「いても、頼れません」
「……」


それを聞いて、アンネリースは察した。自分の側に仕えているせいだ。しかも、親子2代で。


(置いて行ったら、大変でしょうね。でも……)


「……私、行ったら戻って来ないわよ? 国王にそう言われているから」
「構いません」
「なら、ついて来てくれる?」
「アンネリース様。そこは、命令してくださってよいのですよ」
「私には、無理よ」
「いいえ。無理なことでもなさってください。あなたは、別の国に行くのです。この国の王女として、それをなさるようにしなければ」
「一国の王女。……面倒くさい」


心底、どうでもよかった。そんなことを言うアンネリースに乳母と同じ目をした。その目に身体が震えそうになるのを知られるわけにはいかない。


(怒ると物凄く怖かったのよね。……それが懐かしいと思うのも変よね)


「アンネリース様」
「わかった。ついて来て」
「はい。喜んで」


そう言って嬉しそうに笑う顔を見てアンネリースは苦笑した。

乳母は、滅多に名前を呼ばなかった。でも、この侍女は負けじと名前を呼ぶようになった。その辺は乳母より無謀なようで、変な根性がある。


(乳母に似て来たわね。……そこは似なくても良かったのに。乳母を超えられたら、困るわ)


心残りがあるなら、ただ一つ見つかった。乳母の墓参りをしなければ、この国からは出て行けない。

それ以外のことにアンネリースは何の未練もないとは言えなかった。

気がかりなのは、仮面を付けている人たちだ。

でも、彼らはアンネリースが留学生としてこの国から他所に行くのを引き止めようとはしなかった。


「姫様。私たちなら、大丈夫ですよ」
「そうです。いざという時のために姫様が色々教えてくれたんですから」
「私たちのことは気にしないでください」


みんな、この地獄のようなところからいなくなることを妬ましく言うことも思うこともなかった。

それにアンネリースはどれほど感激したことか。


「あの国からの物資がなくなって困るのは、あいつらだけですよ」
「そうそう」


自給自足をしている面々は、物資が来なくとも生きていける。何なら、仮面を付けてない面々が来られない山奥で隠れて生活できる場所まで確保している。

アンネリースが王宮にいなくなれば、そちらに籠る気のようだ。

曲がりなりにも王女が、そちらに住み着くわけにはいかなかった。乳母が必死にあそこで守り続けてくれたのだ。簡単に捨てられるものではなかった。

認めてくれている者が極わずかでも、アンネリースはそれでも王女なのだ。


(まさか、私が王族として義務を果たすことになるなんて、とんでもない皮肉よね)


そんなことを思ってため息をつきたくなってしまったが、あまりにもあっさりと留学しに行くことになった。


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