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しおりを挟む私は、イネス国に来てから学園の長期休暇の間に必死になって勉強しようとしたが……。
「ラウラ。そんなに必死にならなくとも大丈夫だ」
「そうよ。編入試験でもヴィルジニーと同じ学年でもいいくらいだと言われていたじゃない」
「ですが」
オージェ侯爵家の養子になった私は養生するのが、一番すべきことだと養父母から言われて、至れり尽くせりな日々に手持ち無沙汰になってしまっていた。
栄養失調と寝不足に精神的なものが見られるからと医者に色々言われて、部屋に閉じこもりがちになるのも、改善させようとリビングにいることが増えた。
でも、私はそれが落ち着かなくてストレスになっていた。医者は、どんな環境にあったのかを根気強く聞いてくれ、それをオージェ侯爵夫妻や義姉弟やら使用人に教えたようだ。守秘義務はどこにいったんだと思うところかもしれないが、元からそんなものなかった私はまた怒られるのではないかと思ってびくびくしていた。
それこそ、いつ追い出されても文句は言えないのだ。色々ありすぎて私は、ずっと必死になっていた。
「ラウラ!」
「っ、」
「ここは、あなたの家よ」
「?」
そこから、家族会議なるものが開かれて、私は血の繋がった家族からのけ者扱いされていた日々とは真逆の生活を送ることになった。いや、養子になってから真逆なことばかりだったが、より一層と言った方が正しいだろう。
それこそ、遠縁で血の繋がりがわからないくらいあるとしても、赤の他人と言ってもいいレベルなのに本当の家族のように私を心から心配してくれる人たち。でも、私が頑張れば頑張るほどに困らせてしまうようで、すっかり正解がわからなくなっていた。
そんな時に街に出かけた。この国に慣れるために外に出たが、やはり私にはハードルが高すぎたようで知恵熱を出してしまい、そのことでまたも無理をさせてしまったとしょぼくれる養母と義姉に申し訳なくて仕方がなかった。
だから、学園ではそうならないようにしなくてはと変な緊張があった。わからないことだらけで、やることなすことが迷惑に繋がっているようで、何が正解なのかが未だによくわかっていない私にとって、胃の痛いことだらけだった。
「まぁ、その方が、噂の方ね!」
「っ、」
ヴィルジニーが案内してくれるというので緊張しきって歩いているとそんな風に話しかけられた。それにびっくりした。噂なんてろくなことを言われたことがない。私がいようといまいと悪くしか言われない。きっと、そんな類いだろうと思っていた。
「えぇ、私の義妹で、ラウラというの」
「なんて、素敵な御髪かしら」
「え?」
私は、悪口を言われると思って身構えていたのに聞こえてきた言葉に目をパチクリさせていた。
「でしょ? でも、あの国は相変わらず、この良さがわからないみたいで、酷い目にあっていたのよ」
私は、義姉たちが盛り上がっているのを見聞きしていることに気づいた。街で色々と言われていたのがようやく自分の髪のことを言っていることに気づき始めたのだ。でも、何がそんなにいいのかがわからなかった。私が周りを見渡せば、暗い色合いの髪色が多いことに首を傾げたくなった。
イネス国は暗めの髪色ばかり見ている気がする。だが、魔法で髪色を変えることができるらしいから、ただの流行りかも知れないとあれこれと考えていた。
「あそこで、お産まれに? それは、ご苦労なさったのでしょうね」
「えっと」
どうやら、私のこの髪は先祖返りしたもののようで、イネス国ではこの髪色だけで、褒められたり、モテたりするようだ。
わからないことだらけで、私が途方に暮れていると子息たちが何かと話しかけて来ていたが、それがお近づきになりたいからだとは、最初の頃は全く気づかなかった。
ただ、親切な人たちが多いのかと思って感激していたのにそうではなかったのにちょっと、いや、かなりがっかりしたのは内緒だ。
色々とわかってからは、打算的な子息たちよりも令嬢たちといるようになった。義姉の友達がほとんどだ。
「その瞳も素敵ね」
「そう、なのですか?」
「えぇ、アデル国では真逆に言われて、迫害じみたことを未だにしているようですけど、他の国では違いますわ。今では滅多に生まれなくなっていますから」
そこから、昔は黒髪と黒目をした者が多かったが、次第にそうでない者が増え始め、アデル国でだけが未だ忌み嫌う者が根強くいるままとなっているらしい。あの国で、黒い髪と瞳を持つ者がどこより少ないせいもあったようだ。
何より黒髪と黒目をした令嬢のせいで、散々な目にあったと数十年おきにあの国では言われるほど、色々と因縁があったようで、あの家の両親もそれを幼い頃から聞かされでもして信じ込んでいたようだ。実際に何かされたわけでもないのに鵜呑みにして、私が何もしていなくとも何かしでかすと思っていたのかも知れないが、とんでもない言いがかりだ。
そんなことが続いている中で私は生まれた。自分たちを守るために両親が保身に走り、兄と妹も、周りに嫌われたくなくて、あぁしていたのたろうもようやくわかった。
いや、兄と妹は何があったかを知っていてやっていると言うより両親がしているのを見て、そういうものと思ってしていた気がする。学園の生徒たちも、そんな感じだ。大人たちが、そうしているから、同じようにしなくてはならないかのように目の敵にしていた。
あれこれと色々と聞くうちに過去に色々あった因縁の全てを私はぶつけられていたことがわかって、何とも言えない感覚に囚われずにはいられなかった。
そんなものを私に向けられても、向けている連中が何かされたわけでもないのだ。それを一身に受け続けて、あんな風に生きてきたかと思うと何とも言えない感情が渦巻いていた。
それこそ、普通は激怒していいところなのだろが、どうにも私は普通ではないようだ。
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