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『認められた皇女』
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しおりを挟むファバン国が大国となる前に建国してすぐに彼女は不思議な力を持って生まれた。
彼女のことは、今も色褪せることなく、伝説のように語り継がれ続けている。その美しさだけではない。
天変地異を鎮めることのできる皇族の女性であり、彼女が自らがその清らかな命と引き換えにして国を守りきったことで、多くの者が救われることになった。
その彼女には、最愛の者がいた。でも、愛する人と生きる未来よりも、国民の未来のために犠牲となることを選んだ。
それにファバン国の者たちは、自分たちが生き残ったことを喜ぶ者たちと彼女1人を犠牲にして生き残ったことを嘆き悲しむ者たちとに分かれた。
最愛の人は特に彼女の死を嘆き悲しみ続けた。なぜ、彼女1人が犠牲にならなければならないのかと憤慨した。
その怒りに揺れ動く者も多かった。それほどまでに皇女は愛されていた。
それに一度、亡くなった皇女は、姿を現した。
「もう、嘆き悲しまないで」
「だが、私は、自分が許せない」
「ならば、私のために許して」
「っ、」
「お願い。私は、必ず生まれ変わる。その時に私を悲しませないで」
「っ、わかった。あなたが、生まれ変わって、喜ぶ世界となるように祈りと感謝を捧げ続ける」
「ありがとう」
彼女が、再び生まれ変わることを約束したのを聞くことのできた者たちは、彼女が今度こそ幸せになることを願わずにいられなかった。
それを聞いて、国民は嘆き悲しむのをやめた。
「全く、折角生き残ったのに変な連中だよな」
「本当よ」
そんな風に生き残ったことを喜んだ連中には、嘆き悲しんでいた者たちが、全く理解できなかった。
そういった面々は、ファバン国から別の国に移り住む者が多かった。そんな過去もあるせいで、ファバン国は昔は小国だったが、命を賭して守った皇女を信じて、集まる者たちが多くいて、いつの間にか大国となっていた。
周りの小国の国々には、生まれ変わりうんねんのことを信じている者はあまりいなかった。みんな、不平不満をもっている者が移り住んで好き勝手なことを話したせいだ。
もっとも、そう語られている全てが真実なのではない。流石に全部が嘘ではないが、よく知る者がいたら、嘘しかないと言いそうなものがまことしやかに語り継がれ続けることになるとは誰も思わなかった。
月日が流れて、大国の面々が見栄のため、そんなことを言って威張っているかのように言う者まで小国の国々では言われるまでになっていた。
小国の国々は、大国に比べて天変地異がかなりの頻度で起こった。それでも一時的に大国の皇女に縋るだけで、自分たちに被害がなければ、悪く言う連中ばかりだった。
そんな世界に彼女の生まれ変わりとして、存在することになった皇女がいた。彼女の名前は、ディェリン。
かつて皇女に救われたことから、ありとあらゆる特権を与えられることになり、久方ぶりに生まれる皇族の娘として、彼女は後宮に住んでいた。
彼女の誕生をファバン大国の者たちは、こぞって祝福した。何なら、その前に生まれた皇子の時よりも、盛大に祝われた。
「何なのよ! 私は、皇子を産んだというのに!!」
皇子の母親は他国から嫁いで来ていて、ファバン大国のことを何も知ろうとせずにいたせいで、皇女がいかに敬われる存在なのかを全く知らなかったことで、自分の子を蔑ろにされている気がしてならなかった。
もっとも、知っていたとしても、そんなの迷信だと思っていて、信じるなんてことをするような女ではなかった。
そんな女性が、皇子を産んだのだ。子供がいなければ、そこまでにはならなかったのだが、彼女は憤慨した。
「あの女が、産んだからって、こんなのあんまりだわ!」
あの女。皇帝が、気に入ったとかで何かと寵愛を受けているのを知っていて、そのせいで皇子を産んだ自分は、こんな目にあっていると思い込むようになった。
その後も、彼女はこの大国のことを知ろうともしなかった。知ったところで、頭のイカれた連中に合わせることになると思ってすらいた。
そのせいで、息子である皇太子が肩身の狭い思いをすることになっていくことにも気づくことはなかった。
少しでも皇子のためにと謙虚な姿勢があれば、違ったのだが、そんな女性ではなかった。
だが、数ヶ月後に女児を産んだ母親が病気によって亡くなり、ディェリンはその時に力を使って母を助けようとしたことを諭したことが、国中に広まった。
それに涙する者は多かった。
「ズーウェイ様」
「あの方こそ、国母様だ!」
その話は、またたく間にファバン大国の民の耳に入った。皇女のやることなすことで、沸き上がるのはかなり異常なことになっていたが、国民はほとんど気にしていなかった。
そして、その誓いを幼いながらも、必死に約束したディェリンに感激して、殆どの者が涙した。
感激しなかった者もいた。特に皇子を産んだ側妃も酷かったが、国民の中にこんなことを言う者が現れ出したのだ。
「はっ、数ヶ月のガキがんなことできるわけねぇだろ」
「そうだよな。どうせ、皇城の連中が話を盛ったんだ」
それを信じないで、そんなことを言うのは、生まれてから、祈りも、感謝も、必要ないかのようにし始めた連中だ。
嫌味なことばかりを言うようになってからは、顔つきも意地悪い顔となった。
そういう連中が集まるところは、どこかほの暗く、目は濁り始めていて、それを周りは気味悪がっていたが、それにすら気づいていなかった。
「それにしても、前にした話のことのせいで、どこも雇いたくないとか言いやがっていい迷惑だぜ」
「本当だな」
そんな面々は、ファバン大国で大した稼ぎがないと小国の方に言って、そこであることないことを言い広めるせいで、伝説を誇張して見栄を張っていると周りの国々が思うことに繋がるとは、誰も思いもしなかった。
でも、それがあながち間違いではないことを知りもしなかった。
だって、正しい歴史を語ってはいなかったのだ。そのせいで、認められた皇女が数奇な運命を歩む道を進んでいることに誰も気づいていなかった。
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