6 / 50
『認められた皇女』
2
しおりを挟むファバン大国から他に移り住んだ面々も、自分たちがとんでもないことをしているなんて欠片も思ってはいなかった。
それを広めれば広めるほど、ファバン大国の周りの国々で天変地異が起こる頻度が、それまで以上に加速した。
その原因は、感謝と祈りを蔑ろにしただけでなく嘘を広めて、それを信じた面々もまた同じように悪く物事を捉えていき、当たり前のように不平不満を口にする者が増えたせいだった。
それを知って縋り付くように戻って来ようとする者もいたが、不満があって出て行った者にファバン大国は寛容ではなかった。
そのため、すっかり生き辛くなってしまい、篩いにかけられるかのようにディェリンが生まれた後は、益々存在を信じる者が増えたのは、ディェリンが数ヶ月で母に誓ったことを違えさせたいと国民が一層、祈りと感謝を強めたからにほかならなかった。
その想いに応えるようにディェリンは、皇女として色んなことを身につけるべき、勉学にも、皇族の女性としても、必要なことを全て覚えるために朝早くから夜遅くまで、寝る間も惜しんでいた。
いや、そう見えた。皇女の心を正しく理解してくれる者はほとんどいなかった。
「皇女殿下。少し、休憩にいたしませんか?」
「今日中に覚えたいの」
「……」
ディェリンは、皇女のためにあつらわれた後宮の皇妃の部屋よりも、豪華な部屋にこもりがちになっていた。
それを見かねて、ディェリン付きの女官のジュエランはあの手この手で休憩させようとしていた。ディェリンにとっては、乳母であり、母を早く亡くしたため、母親代わりのような女官も、この頑固さと集中力に手を焼いていた。
ディェリンの側付きの他の女官たちは、ディェリンが子供らしくなく、勉学、習い事、後宮でのあれこれと幼さがまだ残るというのに完璧であろうとする皇女に困っていた。
それを吸収していくスピードは、流石といえるが、側にいる者たちは倒れるのではないかと気が気ではなかった。
そんな息抜きに皇帝も訪れたりしていたが、皇帝も忙しい方のため、呼び寄せるわけにもいかず、いつ倒れてもおかしくないディェリンのことをどうしたら休んでくれるのかと頭を悩ませていた。
ディェリンの祖父が存命だったら、母に似たのだと言っていただろうが、ディェリンの母であるズーウェイに頼まれたが、彼は娘が皇女を産んだことと死ぬ間際まで皇妃に相応しい姿に感激して、頼まれていたことを真っ当しようとしていたが、それは叶わなかった。
娘を追うように病気で亡くなってしまい、母をよく知る者はディェリンの側にはいなかった。いても、後宮に入ってからの母で、あの亡くなった時のことを知る者は多かった。
だから、ディェリンはその話を周りに聞いて、そういう母なのだと思っていた。
腹黒いところのない。皇女を産むに相応しい人だとみんなと同じく、母はそういう人だと思っていた。
「これは?」
「あら、誰からでしょう?」
「あなたではないの?」
「いいえ。誰がしたのか」
ディェリンの机に花が飾られていた。でも、女官たちに聞いても、誰もしていないとわかり、薄気味悪いと女官は思っていたが……。
「皇女様。すぐに下げさせます」
「いいえ。このままにしておいて」
「ですが」
「これは、私にくれたのよ。だから、置いておく」
「はぁ」
ディェリンは、誰からのものかを何となくわかっていた。
皇帝が付けた影だ。話すことは許されていないようで、何を聞いても答えてくれたことはなかった。
なのにある日から、影はディェリンの机に花を活けるようになった。
「お前の取ってくれる花、私とても好きよ」
ディェリンは、誰もいない部屋でぽつりと呟いた。
豪華な庭には、ディェリンがいつでも楽しめるように咲く花が四季折々を飾るが、ディェリンはその花を見ても何とも思わなかった。
なぜか、自分のために誂えられた気がしなかったのだ。それにこの部屋もそうだ。ずっと居心地悪い場所でしかなかった。
まるで、自分が期待されている皇女ではないかのように思えて焦ってもいた。
だから、がむしゃらに皇女らしいことを必死していたが、それでも足りない気がしてならなかった。
「お前が、私と話をしては駄目なら、私が勝手に話しかけるわ。名前もつける。花影よ」
それにガタリと音がした。女官は、それに慌てて部屋にやって来た。
「今、音がしませんでしたか?」
「そう? ネズミかしらね」
「っ、すぐに人を呼んで掃除をさせます!」
「必要ないわ」
「ですが」
「お前、私を部屋から追い出すの?」
「い、いえ、そんな」
そんなやり取りをしていたこともあった。
それ以来、護衛をしている影に一方的に話しかけている。
それが、ディェリンの密かな楽しみだった。そこから、ディェリンが益々周りが期待する皇女となるために生き続けることになるのをちゃんと見ていたのは、名をもらった者だけになるとは思いもしなかった。
50
あなたにおすすめの小説
聖なる森と月の乙女
小春日和
恋愛
ティアリーゼは皇太子であるアルフレッドの幼馴染で婚約者候補の1人。趣味である薬草を愛でつつ、アルフレッドを幸せにしてくれる、アルフレッドの唯一の人を探して、令嬢方の人間観察に励むことを趣味としている。
これは皇太子殿下の幸せ至上主義である公爵令嬢と、そんな公爵令嬢の手綱を握る皇太子殿下の恋物語。
すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
狭山ひびき
恋愛
サーラには秘密がある。
絶対に口にはできない秘密と、過去が。
ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。
両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。
事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー
これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
アクアリネアへようこそ
みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。
家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!?
可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ!
やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。
私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ!
働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる