歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

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『認められた皇女』

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ファバン大国から他に移り住んだ面々も、自分たちがとんでもないことをしているなんて欠片も思ってはいなかった。

それを広めれば広めるほど、ファバン大国の周りの国々で天変地異が起こる頻度が、それまで以上に加速した。

その原因は、感謝と祈りを蔑ろにしただけでなく嘘を広めて、それを信じた面々もまた同じように悪く物事を捉えていき、当たり前のように不平不満を口にする者が増えたせいだった。

それを知って縋り付くように戻って来ようとする者もいたが、不満があって出て行った者にファバン大国は寛容ではなかった。

そのため、すっかり生き辛くなってしまい、篩いにかけられるかのようにディェリンが生まれた後は、益々存在を信じる者が増えたのは、ディェリンが数ヶ月で母に誓ったことを違えさせたいと国民が一層、祈りと感謝を強めたからにほかならなかった。

その想いに応えるようにディェリンは、皇女として色んなことを身につけるべき、勉学にも、皇族の女性としても、必要なことを全て覚えるために朝早くから夜遅くまで、寝る間も惜しんでいた。

いや、そう見えた。皇女の心を正しく理解してくれる者はほとんどいなかった。


「皇女殿下。少し、休憩にいたしませんか?」
「今日中に覚えたいの」
「……」


ディェリンは、皇女のためにあつらわれた後宮の皇妃の部屋よりも、豪華な部屋にこもりがちになっていた。

それを見かねて、ディェリン付きの女官のジュエランはあの手この手で休憩させようとしていた。ディェリンにとっては、乳母であり、母を早く亡くしたため、母親代わりのような女官も、この頑固さと集中力に手を焼いていた。

ディェリンの側付きの他の女官たちは、ディェリンが子供らしくなく、勉学、習い事、後宮でのあれこれと幼さがまだ残るというのに完璧であろうとする皇女に困っていた。

それを吸収していくスピードは、流石といえるが、側にいる者たちは倒れるのではないかと気が気ではなかった。

そんな息抜きに皇帝も訪れたりしていたが、皇帝も忙しい方のため、呼び寄せるわけにもいかず、いつ倒れてもおかしくないディェリンのことをどうしたら休んでくれるのかと頭を悩ませていた。

ディェリンの祖父が存命だったら、母に似たのだと言っていただろうが、ディェリンの母であるズーウェイに頼まれたが、彼は娘が皇女を産んだことと死ぬ間際まで皇妃に相応しい姿に感激して、頼まれていたことを真っ当しようとしていたが、それは叶わなかった。

娘を追うように病気で亡くなってしまい、母をよく知る者はディェリンの側にはいなかった。いても、後宮に入ってからの母で、あの亡くなった時のことを知る者は多かった。

だから、ディェリンはその話を周りに聞いて、そういう母なのだと思っていた。

腹黒いところのない。皇女を産むに相応しい人だとみんなと同じく、母はそういう人だと思っていた。


「これは?」
「あら、誰からでしょう?」
「あなたではないの?」
「いいえ。誰がしたのか」


ディェリンの机に花が飾られていた。でも、女官たちに聞いても、誰もしていないとわかり、薄気味悪いと女官は思っていたが……。


「皇女様。すぐに下げさせます」
「いいえ。このままにしておいて」
「ですが」
「これは、私にくれたのよ。だから、置いておく」
「はぁ」


ディェリンは、誰からのものかを何となくわかっていた。

皇帝が付けた影だ。話すことは許されていないようで、何を聞いても答えてくれたことはなかった。

なのにある日から、影はディェリンの机に花を活けるようになった。


「お前の取ってくれる花、私とても好きよ」


ディェリンは、誰もいない部屋でぽつりと呟いた。

豪華な庭には、ディェリンがいつでも楽しめるように咲く花が四季折々を飾るが、ディェリンはその花を見ても何とも思わなかった。

なぜか、自分のために誂えられた気がしなかったのだ。それにこの部屋もそうだ。ずっと居心地悪い場所でしかなかった。

まるで、自分が期待されている皇女ではないかのように思えて焦ってもいた。

だから、がむしゃらに皇女らしいことを必死していたが、それでも足りない気がしてならなかった。


「お前が、私と話をしては駄目なら、私が勝手に話しかけるわ。名前もつける。花影よ」


それにガタリと音がした。女官は、それに慌てて部屋にやって来た。


「今、音がしませんでしたか?」
「そう? ネズミかしらね」
「っ、すぐに人を呼んで掃除をさせます!」
「必要ないわ」
「ですが」
「お前、私を部屋から追い出すの?」
「い、いえ、そんな」


そんなやり取りをしていたこともあった。

それ以来、護衛をしている影に一方的に話しかけている。

それが、ディェリンの密かな楽しみだった。そこから、ディェリンが益々周りが期待する皇女となるために生き続けることになるのをちゃんと見ていたのは、名をもらった者だけになるとは思いもしなかった。


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