歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

文字の大きさ
14 / 50
『認められた皇女』

10

しおりを挟む

ディェリンは、普通の少女のような日常に憧れていた頃もなかったわけではない。

だけど、この大国からどこかに行くことになることに変な不安があった。

でも、ディェリンはなぜ不安に襲われるのかが分からなかった。そこに母との約束が関係していることを知らなかったのだ。

母は、ディェリンにその力は自分に使ってはならないと言った。その力は、この国のために使わねばならないとも。

母の願いは、ディェリンがこの国であなたを信じるものと生きることだと涙ながらに言った。

この大国が、以前よりどんなに素晴らしく変わったのかを見て、この国で共に生きてほしいのだと。それがディェリンに母として望むことだと言った。

それをディェリンは、母と約束したのだが、ディェリンが囚われることになるとは誰も思っていなかった。

現にディェリン自身が気づいていなかった。死ぬ間際に良い人間になろうとしたことで、娘を縛り付けたことに気づいていなかった。

ディェリンは、皇妃の相手をしながら思い知らされていた。自分の存在が、神に等しいような存在として扱われ方をしていることなど、夢まぼろしで、みんな心の奥底では皇妃のように信じていないのではないかと。

都合のよい生贄のように思っていて、この大国から居なくなっても、大して心配されることはない存在なのではないかと。

何より、この大国を救ったという者から、ディェリンは生まれ変わったという自覚がはっきり言ってなかった。


(生まれ変わったと言われているけど、それが本当なら、過去の私が凄いのであって、今の私が凄いわけではないのよね。だから、色々と頑張ってきたのに。皇帝は、何をしても、母と重ねて見てばかり。他は皇女なのだから、当たり前のように私を見てくる。それが、腹が立って仕方がない。私は、こんなにも努力しているのに)


認めてくれていないのだ。それに腹が立ってならなかった。そんなに認めてくれないのなら、ディェリンが自信を持ってできそうなことをしてやりたくなる。

ディェリンが得意だと思うのは、全てを壊すこと。それなら、難なくできる自信がある。

今まではチヤホヤされるのが当たり前だった。そうでなくなったら、己を抑えきれなくなって八つ当たりしそうだ。

母を助けようとした時も力を使おうとしていたとしても、助ける力ではなかった気がする。

そんなことを思って、ため息が出そうになっていた。そんな風に思うほど、疲れているのだ。いつもなら、そんなこと考えない。いつものディェリンは自信に満ち満ちている。不安に感じることなどない。

そもそも、皇帝が跡継ぎを兄皇子を選んだことが、腹ただしくて仕方がなかった。

この大国を任せるのにディェリンを選んではくれなかったのだ。

そのことで、ショックを受けていることを皇帝のみならず、周りの誰も気づいていない。

でも仕方がないことだ。皇太子の方が早く生まれたのだ。そして、物凄くいい人なのだ。母親が、あんなんでもそれなりの皇帝になるだろう。今の皇帝よりはマシなはずだ。

問題は、皇妃だ。


(……もう既にまずいことになりすぎているけど、何も言われないのよね。ここでも、皇太子には会えないし、本当にあんなのが、この大国の皇帝になれると思ってるのかしらね。私が、どうにかしてやらなきゃ、無理に決まっているじゃない。なんて手のかかる存在なのかしら)


嫌われているとは思っていないが、やはり皇太子になって、母親に感化され、周りに毒されてしまったのかもしれない。

ここで会えたら、王妃のことを言おうと思っていたが、皇太子となってから朝と夕の挨拶にも、忙しいからと来なくなってしまった。

それなのに応対しなくていい皇妃の相手をしているのは、皇太子のためではない。自分のためにしかディェリンは動いてはいない。

周りには皇子を気にかけて動いているように見せているだけだ。


「皇女殿下が、わざわざお相手なさることでは……」
「いいのよ。私にあたらせておけば他に被害が少なくて済むもの」
「……」


最もらしいことをジュエランに言っているが、それで更に図に乗って好き放題しているのだ。それはディェリンの思惑通りではない。そこまでのことをしてほしかったわけではない。

そっちは、とっくに皇太子にどうにかしろと言っているところだったのに会えなくなってしまったのだ。

そのせいで、茶番に付き合い続けるはめになってしまった。

それにディェリンは、この国の女帝になりたいと思い始めていた。馬鹿げた夢だが、そうなれば、この国からどこかに行くことはなくなるのだ。

だけど、皇帝は嫁に行くことしか考えていない。選んで良いとなっているのに全然選ばせてくれていないのだ。

みんなが理想とする皇女として、ディェリンは動かねばならないことに苛立ってきた。

本当にやりたいこととやらされること。やらなければいけないものとが、ディェリンの中でせめぎ合っているようで辛かった。

そんな風に感情が、ごちゃ混ぜになって、あれこれ考えていると……。


「やっと見つけた!」
「?」


それは、突然のことだった。そんなことを言われた時は、ぼんやりとし過ぎていた。ただですら、疲れが取れずにいるのだ。

風邪のひき始めのようで、そうではなさそうだが、いきなり声をかけられた。それだけでなく、他人に指をさされていたのだ。


「……」


そんなことをされるのは、彼女は生まれてこの方、一度もない。周りからどころか。親ですら、彼女にそんなことは決してしない。

その指を思わず、へし折ってやりたいと内心で彼女が思ってしまったせいか、側にいるが姿を滅多なことでは見せない影が動こうとしたのを咄嗟に手で制した。

この時、それをしていなかったら、この後のことは色々と変わっていたはずだった。それだけは間違いない。

ディェリンは、無礼な男に会うことで自分の存在が危ういものとなるとは思いもしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」  大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。  嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。  中学校の卒業式の日だった……。  あ~……。くだらない。  脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。  全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。  なぜ何も言わずに姿を消したのか。  蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。 ──────────────────── 現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。 20話以降は不定期になると思います。 初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

アクアリネアへようこそ

みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。 家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!? 可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ! やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。 私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ! 働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。

すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき
恋愛
サーラには秘密がある。 絶対に口にはできない秘密と、過去が。 ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。 両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。 事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。

【完結】赤い薔薇なんて、いらない。

花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。 ■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

恋が温まるまで

yuzu
恋愛
 失恋を引きずる32歳OLの美亜。 営業課のイケメン田上の別れ話をうっかり立ち聞きしてしまう。 自分とは人種が違うからと、避けようとする美亜に田上は好意を寄せて……。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

処理中です...