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『認められた皇女』
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しおりを挟むディェリンは、普通の少女のような日常に憧れていた頃もなかったわけではない。
だけど、この大国からどこかに行くことになることに変な不安があった。
でも、ディェリンはなぜ不安に襲われるのかが分からなかった。そこに母との約束が関係していることを知らなかったのだ。
母は、ディェリンにその力は自分に使ってはならないと言った。その力は、この国のために使わねばならないとも。
母の願いは、ディェリンがこの国であなたを信じるものと生きることだと涙ながらに言った。
この大国が、以前よりどんなに素晴らしく変わったのかを見て、この国で共に生きてほしいのだと。それがディェリンに母として望むことだと言った。
それをディェリンは、母と約束したのだが、ディェリンが囚われることになるとは誰も思っていなかった。
現にディェリン自身が気づいていなかった。死ぬ間際に良い人間になろうとしたことで、娘を縛り付けたことに気づいていなかった。
ディェリンは、皇妃の相手をしながら思い知らされていた。自分の存在が、神に等しいような存在として扱われ方をしていることなど、夢まぼろしで、みんな心の奥底では皇妃のように信じていないのではないかと。
都合のよい生贄のように思っていて、この大国から居なくなっても、大して心配されることはない存在なのではないかと。
何より、この大国を救ったという者から、ディェリンは生まれ変わったという自覚がはっきり言ってなかった。
(生まれ変わったと言われているけど、それが本当なら、過去の私が凄いのであって、今の私が凄いわけではないのよね。だから、色々と頑張ってきたのに。皇帝は、何をしても、母と重ねて見てばかり。他は皇女なのだから、当たり前のように私を見てくる。それが、腹が立って仕方がない。私は、こんなにも努力しているのに)
認めてくれていないのだ。それに腹が立ってならなかった。そんなに認めてくれないのなら、ディェリンが自信を持ってできそうなことをしてやりたくなる。
ディェリンが得意だと思うのは、全てを壊すこと。それなら、難なくできる自信がある。
今まではチヤホヤされるのが当たり前だった。そうでなくなったら、己を抑えきれなくなって八つ当たりしそうだ。
母を助けようとした時も力を使おうとしていたとしても、助ける力ではなかった気がする。
そんなことを思って、ため息が出そうになっていた。そんな風に思うほど、疲れているのだ。いつもなら、そんなこと考えない。いつものディェリンは自信に満ち満ちている。不安に感じることなどない。
そもそも、皇帝が跡継ぎを兄皇子を選んだことが、腹ただしくて仕方がなかった。
この大国を任せるのにディェリンを選んではくれなかったのだ。
そのことで、ショックを受けていることを皇帝のみならず、周りの誰も気づいていない。
でも仕方がないことだ。皇太子の方が早く生まれたのだ。そして、物凄くいい人なのだ。母親が、あんなんでもそれなりの皇帝になるだろう。今の皇帝よりはマシなはずだ。
問題は、皇妃だ。
(……もう既にまずいことになりすぎているけど、何も言われないのよね。ここでも、皇太子には会えないし、本当にあんなのが、この大国の皇帝になれると思ってるのかしらね。私が、どうにかしてやらなきゃ、無理に決まっているじゃない。なんて手のかかる存在なのかしら)
嫌われているとは思っていないが、やはり皇太子になって、母親に感化され、周りに毒されてしまったのかもしれない。
ここで会えたら、王妃のことを言おうと思っていたが、皇太子となってから朝と夕の挨拶にも、忙しいからと来なくなってしまった。
それなのに応対しなくていい皇妃の相手をしているのは、皇太子のためではない。自分のためにしかディェリンは動いてはいない。
周りには皇子を気にかけて動いているように見せているだけだ。
「皇女殿下が、わざわざお相手なさることでは……」
「いいのよ。私にあたらせておけば他に被害が少なくて済むもの」
「……」
最もらしいことをジュエランに言っているが、それで更に図に乗って好き放題しているのだ。それはディェリンの思惑通りではない。そこまでのことをしてほしかったわけではない。
そっちは、とっくに皇太子にどうにかしろと言っているところだったのに会えなくなってしまったのだ。
そのせいで、茶番に付き合い続けるはめになってしまった。
それにディェリンは、この国の女帝になりたいと思い始めていた。馬鹿げた夢だが、そうなれば、この国からどこかに行くことはなくなるのだ。
だけど、皇帝は嫁に行くことしか考えていない。選んで良いとなっているのに全然選ばせてくれていないのだ。
みんなが理想とする皇女として、ディェリンは動かねばならないことに苛立ってきた。
本当にやりたいこととやらされること。やらなければいけないものとが、ディェリンの中でせめぎ合っているようで辛かった。
そんな風に感情が、ごちゃ混ぜになって、あれこれ考えていると……。
「やっと見つけた!」
「?」
それは、突然のことだった。そんなことを言われた時は、ぼんやりとし過ぎていた。ただですら、疲れが取れずにいるのだ。
風邪のひき始めのようで、そうではなさそうだが、いきなり声をかけられた。それだけでなく、他人に指をさされていたのだ。
「……」
そんなことをされるのは、彼女は生まれてこの方、一度もない。周りからどころか。親ですら、彼女にそんなことは決してしない。
その指を思わず、へし折ってやりたいと内心で彼女が思ってしまったせいか、側にいるが姿を滅多なことでは見せない影が動こうとしたのを咄嗟に手で制した。
この時、それをしていなかったら、この後のことは色々と変わっていたはずだった。それだけは間違いない。
ディェリンは、無礼な男に会うことで自分の存在が危ういものとなるとは思いもしなかった。
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