歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

文字の大きさ
16 / 50
『認められた皇女』

12

しおりを挟む

よく回る口だと思いつつ、そんな風にしながらも、この男子生徒がディェリンの目の前にいる男に対して殺気を放っていたり、もっと怪しいところがあれば、ディェリンが許していたとしても、危険と判断すれば、花影が再び割って入って来るところだが、それはなかった。

そこまでではないと判断したのか。ディェリンが掴まえたのが、お気に召さなかったのか。ディェリンのしたことに困惑しているようだ。

その証拠にディェリンでもわかるところにいる。いつでも割って入ることのできるところに控えて、男子生徒を睨みつけていた。どこの子息かわからないが、彼は喋ることに夢中でそれにすら気づいていない。


(こんなに長く姿を見せるのは、初めてね。陛下に言ったら、くれないかしら)


滅多に姿を見せてはくれない。ディェリンと話すことを禁じられていて、皇帝の命で護衛しているから、それに従う義理がないから答えてくれないようだ。それでも、花をくれる彼をディェリンは気に入っていた。

一番欲しいものを聞かれたら、花影を自分のものにしたいと今なら答えてしまいそうだ。

決して望んでも、花影を選ぶことを誰も許してくれないし、認めてはくれない。だって、皇女らしくないことだから。


(なんか、思考が定まらないな)


そんな風に睨まれて平然としているのも中々いない。だが、ただ気づいていないように見えるのもあり、凄いと感心する気にはディェリンはなれなかった。

きっと、先ほどディェリンな花影の服を掴まえていたのも、気づいていなかったのだろう。何やら明々後日の方を向いて熱く語っていたから、見ていなかった気がする。

それよりも、ディェリンは体調が悪化した気がした。


(具合というか。気分が悪い。こんなのを相手にしているせい?)


ディェリンの記憶力はとてもいい。とてもいいが、こんな無礼者に会った記憶なんてない。

今が、こうなのだ。昔から、無礼なことをしているはずだ。決めつけることは良くないことだが、その辺にはとても自信がある。

それを珍獣でも見るかのようにディェリンは眺めてしまっていたが、そんなに時間は経っていなかったはずだ。

するとそこで、子息はこんなことを言った。


「婚約破棄の撤回をしてくれ!」
「……」


色々喋っていたかと思えば、それが一番子息が言いたかったことのようだ。そこだけで、良かった気がする。

ディェリンは、何とも言えない顔をしていた。観察しすぎて、最後まで聞いてしまったが、何のことはなかったのだ。

側で身構えていた者たちが、馬鹿らしく思えているのすらディェリンにはわかった。側にいる者たちすら、隠すこともせずに馬鹿にしているレベルだ。時間を無駄にした気がしている。

ディェリンも今まさにそう思っていた。

そう、この目の前の子息は、ただの馬鹿なのだ。いや、最後まで見届けなくとも、馬鹿だとは思っていたが、最初からその第1印象が変わることはなかった。つまらない。何か、ひねりがあるのかと期待していたが、ひねりなんて欠片もなかった。あまりに馬鹿馬鹿しさに遠くを見てしまった。

そこに烏が、カァーカァーと鳴いていた。アホーアホーと鳴いてくれたらよかったが、そうは鳴いてくれなかった。

いや、この場合、阿呆なのは自分だなと思い直し、ディェリンはようやく呆れた声でこう言った。言葉にした以上にしなかった方が凄かったが、誰も気づくことはないだろう。

ディェリンをよく知る者がいたら、ちょっとバレる可能性はあるが、今はいない。

それによく知っていても、ディェリンの気分の悪さになんて気づくとは思えない。そういうことに疎いのだ。


「……お前、婚約者の顔も知らないのね」
「は? お前だと? 随分と偉そうだな。一度、婚約を破棄したから、怒っているのか? ただの誤解だ。だから、こうして私自ら赴いて謝っているんだろうが」
「……」
 

ディェリンには、謝罪しているようには全く聞こえないし、見えなかった。この子息の頭は、駄目かもしれない。。

更に一度の婚約破棄って、なんだ??と思ってしまった。きっと、誰もがそう思うはずだ。女性にとって、破棄されることがどれほどのことか。まるでわかっていないのが、これだけでもよくわかる。

相手にするのも面倒になった。わかったことは、目の前にいる子息は底なしの阿呆だということくらいだ。相手にするだけ無駄だ。

こんなのと婚約していた令嬢が、可哀想だと思い始めていた。破棄になって喜んでいても、後悔なんてしてはいないはずだ。

ディェリンなら、喜ぶ。というか、こんなのと婚約させられたら、すぐさま家出する。そんな両親に幻滅すらする。よほどの事情がない限りは、親ですら選びはしないのではなかろうか。

そんなことをディェリンは、あれこれ考えてしまっていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。

専業プウタ
恋愛
中学2年の時、告白をクラスで馬鹿にされたことにより不登校になった橘茉莉花。そんな彼女を両親が心配し、高校からは海外で寮暮らしをしていた。日本の大学に進学する為に帰国したが、通学途中にトラックに轢かれてしまう。目覚めるとスグラ王国のルシア・ミエーダ侯爵令嬢に憑依していた。茉莉花はここが乙女ゲーム『誘惑の悪女』の世界で、自分が攻略対象たちを惑わす悪女ルシアだと気が付く。引きこもり時代に茉莉花はゲームをやり込み、中でも堂々としていて男を惑わす程の色気を持つルシアに憧れていた。海外生活で精神は鍛えられたが、男性不信はなおらなかった。それでも、神様が自分を憧れの悪役令嬢にしてくれたことに感謝し、必死に任務を遂行しようとする。

恋が温まるまで

yuzu
恋愛
 失恋を引きずる32歳OLの美亜。 営業課のイケメン田上の別れ話をうっかり立ち聞きしてしまう。 自分とは人種が違うからと、避けようとする美亜に田上は好意を寄せて……。

【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。

里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。 でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!! 超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。 しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。 ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。 いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——? 明るく楽しいラブコメ風です! 頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★ ※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。 ※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!! みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*) ※タイトル変更しました。 旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』

置き去りにされた恋をもう一度

ともどーも
恋愛
「好きです。付き合ってください!」  大きな桜の木に花が咲き始めた頃、その木の下で、彼は真っ赤な顔をして告げてきた。  嬉しさに胸が熱くなり、なかなか返事ができなかった。その間、彼はまっすぐ緊張した面持ちで私を見ていた。そして、私が「はい」と答えると、お互い花が咲いたような笑顔で笑い合った。  中学校の卒業式の日だった……。  あ~……。くだらない。  脳味噌花畑の学生の恋愛ごっこだったわ。  全ての情熱を学生時代に置いてきた立花美咲(24)の前に、突然音信不通になった元カレ橘蓮(24)が現れた。  なぜ何も言わずに姿を消したのか。  蓮に起こったことを知り、美咲はあの頃に置き去りにした心を徐々に取り戻していく。 ──────────────────── 現時点でプロローグ+20話まで執筆ができていますが、まだ完結していません。 20話以降は不定期になると思います。 初の現代版の恋愛ストーリーなので、遅い執筆がさらに遅くなっていますが、必ず最後まで書き上げます! 少しでも楽しんでいただければ幸いです。

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

婚約者を喪った私が、二度目の恋に落ちるまで。

緋田鞠
恋愛
【完結】若き公爵ジークムントは、結婚直前の婚約者を亡くしてから八年、独身を貫いていた。だが、公爵家存続の為、王命により、結婚する事になる。相手は、侯爵令嬢であるレニ。彼女もまた、婚約者を喪っていた。互いに亡くした婚約者を想いながら、形ばかりの夫婦になればいいと考えていたジークムント。しかし、レニと言葉を交わした事をきっかけに、彼女の過去に疑問を抱くようになり、次第に自分自身の過去と向き合っていく。亡くした恋人を慕い続ける事が、愛なのか?他の人と幸せになるのは、裏切りなのか?孤独な二人が、希望を持つまでの物語。

処理中です...