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『認められた皇女』
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しおりを挟むよく回る口だと思いつつ、そんな風にしながらも、この男子生徒がディェリンの目の前にいる男に対して殺気を放っていたり、もっと怪しいところがあれば、ディェリンが許していたとしても、危険と判断すれば、花影が再び割って入って来るところだが、それはなかった。
そこまでではないと判断したのか。ディェリンが掴まえたのが、お気に召さなかったのか。ディェリンのしたことに困惑しているようだ。
その証拠にディェリンでもわかるところにいる。いつでも割って入ることのできるところに控えて、男子生徒を睨みつけていた。どこの子息かわからないが、彼は喋ることに夢中でそれにすら気づいていない。
(こんなに長く姿を見せるのは、初めてね。陛下に言ったら、くれないかしら)
滅多に姿を見せてはくれない。ディェリンと話すことを禁じられていて、皇帝の命で護衛しているから、それに従う義理がないから答えてくれないようだ。それでも、花をくれる彼をディェリンは気に入っていた。
一番欲しいものを聞かれたら、花影を自分のものにしたいと今なら答えてしまいそうだ。
決して望んでも、花影を選ぶことを誰も許してくれないし、認めてはくれない。だって、皇女らしくないことだから。
(なんか、思考が定まらないな)
そんな風に睨まれて平然としているのも中々いない。だが、ただ気づいていないように見えるのもあり、凄いと感心する気にはディェリンはなれなかった。
きっと、先ほどディェリンな花影の服を掴まえていたのも、気づいていなかったのだろう。何やら明々後日の方を向いて熱く語っていたから、見ていなかった気がする。
それよりも、ディェリンは体調が悪化した気がした。
(具合というか。気分が悪い。こんなのを相手にしているせい?)
ディェリンの記憶力はとてもいい。とてもいいが、こんな無礼者に会った記憶なんてない。
今が、こうなのだ。昔から、無礼なことをしているはずだ。決めつけることは良くないことだが、その辺にはとても自信がある。
それを珍獣でも見るかのようにディェリンは眺めてしまっていたが、そんなに時間は経っていなかったはずだ。
するとそこで、子息はこんなことを言った。
「婚約破棄の撤回をしてくれ!」
「……」
色々喋っていたかと思えば、それが一番子息が言いたかったことのようだ。そこだけで、良かった気がする。
ディェリンは、何とも言えない顔をしていた。観察しすぎて、最後まで聞いてしまったが、何のことはなかったのだ。
側で身構えていた者たちが、馬鹿らしく思えているのすらディェリンにはわかった。側にいる者たちすら、隠すこともせずに馬鹿にしているレベルだ。時間を無駄にした気がしている。
ディェリンも今まさにそう思っていた。
そう、この目の前の子息は、ただの馬鹿なのだ。いや、最後まで見届けなくとも、馬鹿だとは思っていたが、最初からその第1印象が変わることはなかった。つまらない。何か、ひねりがあるのかと期待していたが、ひねりなんて欠片もなかった。あまりに馬鹿馬鹿しさに遠くを見てしまった。
そこに烏が、カァーカァーと鳴いていた。アホーアホーと鳴いてくれたらよかったが、そうは鳴いてくれなかった。
いや、この場合、阿呆なのは自分だなと思い直し、ディェリンはようやく呆れた声でこう言った。言葉にした以上にしなかった方が凄かったが、誰も気づくことはないだろう。
ディェリンをよく知る者がいたら、ちょっとバレる可能性はあるが、今はいない。
それによく知っていても、ディェリンの気分の悪さになんて気づくとは思えない。そういうことに疎いのだ。
「……お前、婚約者の顔も知らないのね」
「は? お前だと? 随分と偉そうだな。一度、婚約を破棄したから、怒っているのか? ただの誤解だ。だから、こうして私自ら赴いて謝っているんだろうが」
「……」
ディェリンには、謝罪しているようには全く聞こえないし、見えなかった。この子息の頭は、駄目かもしれない。。
更に一度の婚約破棄って、なんだ??と思ってしまった。きっと、誰もがそう思うはずだ。女性にとって、破棄されることがどれほどのことか。まるでわかっていないのが、これだけでもよくわかる。
相手にするのも面倒になった。わかったことは、目の前にいる子息は底なしの阿呆だということくらいだ。相手にするだけ無駄だ。
こんなのと婚約していた令嬢が、可哀想だと思い始めていた。破棄になって喜んでいても、後悔なんてしてはいないはずだ。
ディェリンなら、喜ぶ。というか、こんなのと婚約させられたら、すぐさま家出する。そんな両親に幻滅すらする。よほどの事情がない限りは、親ですら選びはしないのではなかろうか。
そんなことをディェリンは、あれこれ考えてしまっていた。
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