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『隠された皇女』
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しおりを挟む「リーシー。できたぞ。運んでくれ」
「はーい!」
ジンリーはあれから結婚をして本当の夫婦となって、その男性の趣味が講じた料理が美味いことから、街で料理屋を開くことになり、それは評判を呼んだ。
厳つい店主と美しい妻と可愛いらしい娘が営む料理屋。
見た目によらず、美味しいものが食べられるのと美しい女将さんと愛らしい娘を見たさに客は増えた。
ちょっかいかけすぎると厨房から、厳つい店主が出て来るから、おいたをする客は少ない。
リーシーは物心ついた頃から、そこで自然と働いていた。母が働くのを真似た。動き回れない時は、お客に笑顔を見せれば、それで喜ばれた。
そこから、店の中で注文を取って動く母や客の動きを見て、やるべきことを吸収していった。
隙を作りすぎたら、客に舐められる。だからといって媚はしない。明るく快活。不平不満を言わず、愚痴ることもない。人の悪口を言わない。
それを誰から教わったわけでもなく、自然と覚えていった。
リーシーは、義父とは血の繋がりがない事は知っているが、実父のことは母からは聞いていない。
母の祖父母のことも聞いていない。いや、聞いた時はあったが、あまり怒らない母の顔が般若のようになったのを見て以来、聞かないと密かに心に誓った。
あれは、駄目だ。時折、厨房から出て来る義父より遥かに怖い。
(あれは、しばらく夢に出るほど恐ろしかったのよね。一体、母の両親は何をしたのやら)
そこから、祖父母はいないと思うようになった。母の両親であって、リーシーの祖父母ではないのだ。
あんなものを見ることになり、しばらく悪夢に魘されることになって、母たちを心配させてしまったが、原因が母の形相だったことは言ってはいない。口が裂けても言えない。
(どんな怪談よりも、迫力があったもの。義父さんが、俺よりおっかないと言うのも無理ないわ)
それを見るまではおっかない理由が分からなかった。でも、もう学習したから、同じことはしない。
そんなリーシーは元気に育った。……元気が有り余るほどだった。それでも、店を手伝っていてくたくたになるから、他所で遊び回る子供たちよりも大人しく見えた。
それは、よかった。そうでなければ、とんでもなくお転婆な娘だと知られていたことだろう。
母と義父は、元貴族のようで、リーシーは他所にわざわざ習い事に出ることなく、仕事の合間や家で色々教わった。だから、リーシーは貴族の令嬢のような知識と品格、教養を自然と身につけることができた。
「違うわ。もう一度」
「……はい」
「ジンリー。今日は、そのくらいにしてやったらどうだ?」
「駄目よ」
「……」
「ジンリー。もう一度よ。不満そうにしない。それは、上手に隠しなさい」
「はい」
教えている時は、それはもう厳しかった。覚えて損はないという感じではない。覚えておかなければならないと言わんばかりだった。
それを見かねて義父が、助け舟を出そうとしてくれたが、大概助け舟は沈没する。
リーシーを乗せてどこかに行く前に義父のみを乗せて引き返してしまう。それでも、助けようとはしてくれる。
厳しすぎる時は、こっそりとお菓子をくれたりする。それがバレてないと思っているようだが、母にバレてないわけがないことを知らない。
とても、優しい義父だ。
だから、甘えすぎないようにリーシーは気をつけた。
リーシーを守らなくとも良いようにしなくてはならない。義父の一番は母でなくてはならない。
なぜか、昔から守ってもらって当たり前とは思わなかった。
何かを救ってみせる。守ってみせると思っているのだが、それが誰だったのかがわからない。
母は、強いし、義父がいる。他に思い当たる者は今のところいない。でも、どこかに必ずいる。
それでも、今は探し回っても何の力にもなれないから、ここにいる。
そんな不思議な感覚がしているのを誰にも話したことはない。
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