歴史から消された皇女〜2人の皇女の願いが叶うまで終われない〜

珠宮さくら

文字の大きさ
29 / 50
『隠された皇女』

しおりを挟む

リーシーの母は本が好きな人だ。家の中は、小難しい本から、子供向けのものもあるが、色んな事をよく知っている。

あまりによく知っているため、リーシーが寝物語に興奮し過ぎて、義父が代わったこともあったが、義父の話は、あー、その、物凄くつまらないわけではない。母と比べるのが、まずい。それだけだ。

厳つい身体付きと違い、淡々と朗読するのだ。察してほしい。座学で、お腹いっぱいになった昼食後に眠くなるのと一緒だ。

それはもういい感じで眠れる。安眠できたのは確かだ。


「あら、どうしたの?」
「……寝た」
「え? さっき寝かしつけたのに??」
「……」


義父の話は母に比べて、そんな感じだった。いや、母の話が面白すぎるせいだ。

でも、チョイスを間違えている。寝物語に冒険の話は、まずかった。


(私はお淑やかうんねんより、身体を動かす方が性にあっているわ)


そのせいで、義父は落ち込んでしまったが、よく寝れたとリーシーが、義父に笑顔で言うとそれはそれでありだなと思われたようだ。


(本当にチョロいな)


内心で、リーシーは義父のことをそう思っていた。まぁ、こんなんでも母にベタ惚れだから、他所の女に引っかからないのだろう。

なんてこと子供らしいことを考えていたのも、母にはバレていた気がしなくもないが、すぐに子供らしい顔をして隠しておいた。そう教わったからだ。

朝と夕の祈りと感謝を捧げながら、リーシーの心には街の人々が困っていることや悲しんでいることが気になってならなかった。


(こんな風にどこかで、困っているのかもしれない)


会ったこともないはずなのにリーシーは、その人のために存在している気がしてならなかった。

この国を救った方の幸せを願いながら、今生きている人たちが幸せになることをリーシーは考えずにはいられなかった。

それをしていれば、1番救われてほしい人が幸せになってくれる気がしてそうしていた。

だから、リーシーはそれを目に見える形で動くことにした。


「お嬢ちゃん、物乞いに施してたらたかられるよ」
「え?」


お腹を空かせている者に丁度持っていた食べ物を渡せば、そんなことを横から言われた。

その人は、物乞いに邪魔になると言いながら、どっか行けと言いがらいなくなったのは、リーシーの顔を見ていられなかったからのようだ。


(こんなことを言う人もいるのね)


日々、かつての皇女のために祈りと感謝を捧げながら、今は皇女が生まれ変わっているから、そんな心配無用かのようにしている。

だから、それ以外の者など邪魔でしかないかのように思うようだ。


(何が、幸せを願うだ。皇女がいれば、どうにかしてくれると思っている面々ばかり)


存在していると幸せにしてくれない連中ばかりなことにリーシーは、腹が立って仕方がなかった。


「……」
「ごめんなさい」


思わず謝ったのは、リーシーだ。


「?」
「私のせいで嫌な思いをさせてしまいました」
「っ、そんなことない」


食べ物を汚れた手に持たせて、その手を包み込んだ。いつから、ここに座っているのか。ここにいるしか、行き場のないのだろう。

それでも、その手は働き者の苦労をしてきた手をしていた。


(なんて、素敵な手をしているの。頑張った人の手をしているわ)


「っ、」
「ううん。そう見えてしまってはいけなかったの。気をつけなきゃ。施しなんかじゃない。きっと、言葉を知らないのね」
「え?」


薄汚れた男は、きょとんとした。その目は、濁っていなかった。澄み切った目をしていた。


(見る目のない人がいたものだわ。そんな人の言葉に傷ついてほしくない)


「だって、施しって、金品を意味する言葉だから違うのよ。これ、食べ物だもの。私、そんな持ち合わせないもの」
「……」


にっこりと笑えば、尚更、驚いていた。何をしているのかと周りに人がちらほらいる。


「施すって意味で言ってたんでしょうけど、それだって色んな意味があるわ」
「……」


そこから、リーシーはこう言った。母に教わったことだ。こんなところで使えるとは思わなかった。

施すとは……。


「恵まれない人や困っている人を助ける行為」

「効果や影響を期待して何かを行う」

「事態を改善するようなことを行う」

「種などをまく」


そんなことを指折り数えながら、他にも色々あるけどと言い、驚いている男ににっこりと笑った。


「効果を期待して、事態が善くなるように種をまいてる。それが、あなたの助けになれたらいいなって思ってるだけ。だから、これは施しではなく、施すことよ」
「っ、」


なんだなんだと人が集まってきた。

リーシーは、立ち上がった。そして、見上げてリーシーのことから目を離さない男に言った。


「変わりたいと思ったら、私のところに来て。一緒に考えるわ。私が、あなたがどうやったら幸せになれるかを考える」
「っ、!?」


そう言った彼女は、輝かんばかりの笑顔を見せた。その目は絶対に見捨てたりしないと物語っていた。まだ、あどけなさが残る顔をしているのにこれまで誰も、彼にそんな手を差し伸べなかった。

苦労ばかりの人生で、物乞いをするまでに落ちぶれた男は、その輝きに眩しそうにした。

でも、これまでの誰よりも彼女の側にいたら、ここから抜け出せる気がした。何をやっても駄目だったというのに。

そんな風に街で誰もが見て見ぬふりをする面々をリーシーは世話し続けた。

この国を救った皇女と生まれ変わった皇女に祈りと感謝がなされ、そして街ではリーシーに感謝する者も増えていった。

皇女は後宮で暮らしてばかりいて、下々の暮らしをどうにかしてくれるわけではない。

天変地異が起これば別だが、ファバン大国ではそれは他の国の頻度より少ない。

それに比べてリーシーは、街で暮らしている分、困っている人たちを笑顔にしながら、暮らしていた。それが身近に感じて親しみやすかったようだ。


「困ったことがあれば、あの店に行けばいい」


そんな風に考える安易な者にリーシーは優しさなんて向けはしなかったが、本当に真剣に悩み途方に暮れる者には、優しかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。

専業プウタ
恋愛
中学2年の時、告白をクラスで馬鹿にされたことにより不登校になった橘茉莉花。そんな彼女を両親が心配し、高校からは海外で寮暮らしをしていた。日本の大学に進学する為に帰国したが、通学途中にトラックに轢かれてしまう。目覚めるとスグラ王国のルシア・ミエーダ侯爵令嬢に憑依していた。茉莉花はここが乙女ゲーム『誘惑の悪女』の世界で、自分が攻略対象たちを惑わす悪女ルシアだと気が付く。引きこもり時代に茉莉花はゲームをやり込み、中でも堂々としていて男を惑わす程の色気を持つルシアに憧れていた。海外生活で精神は鍛えられたが、男性不信はなおらなかった。それでも、神様が自分を憧れの悪役令嬢にしてくれたことに感謝し、必死に任務を遂行しようとする。

聖なる森と月の乙女

小春日和
恋愛
ティアリーゼは皇太子であるアルフレッドの幼馴染で婚約者候補の1人。趣味である薬草を愛でつつ、アルフレッドを幸せにしてくれる、アルフレッドの唯一の人を探して、令嬢方の人間観察に励むことを趣味としている。 これは皇太子殿下の幸せ至上主義である公爵令嬢と、そんな公爵令嬢の手綱を握る皇太子殿下の恋物語。

恋が温まるまで

yuzu
恋愛
 失恋を引きずる32歳OLの美亜。 営業課のイケメン田上の別れ話をうっかり立ち聞きしてしまう。 自分とは人種が違うからと、避けようとする美亜に田上は好意を寄せて……。

出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。 父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。 財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。 それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。 「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」 覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!

【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~

吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。 ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。 幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。 仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。 精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。 ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。 侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。 当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!? 本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。 +番外編があります。 11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。 11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

婚約者を喪った私が、二度目の恋に落ちるまで。

緋田鞠
恋愛
【完結】若き公爵ジークムントは、結婚直前の婚約者を亡くしてから八年、独身を貫いていた。だが、公爵家存続の為、王命により、結婚する事になる。相手は、侯爵令嬢であるレニ。彼女もまた、婚約者を喪っていた。互いに亡くした婚約者を想いながら、形ばかりの夫婦になればいいと考えていたジークムント。しかし、レニと言葉を交わした事をきっかけに、彼女の過去に疑問を抱くようになり、次第に自分自身の過去と向き合っていく。亡くした恋人を慕い続ける事が、愛なのか?他の人と幸せになるのは、裏切りなのか?孤独な二人が、希望を持つまでの物語。

処理中です...