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『隠された皇女』
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しおりを挟むリーシーの母は本が好きな人だ。家の中は、小難しい本から、子供向けのものもあるが、色んな事をよく知っている。
あまりによく知っているため、リーシーが寝物語に興奮し過ぎて、義父が代わったこともあったが、義父の話は、あー、その、物凄くつまらないわけではない。母と比べるのが、まずい。それだけだ。
厳つい身体付きと違い、淡々と朗読するのだ。察してほしい。座学で、お腹いっぱいになった昼食後に眠くなるのと一緒だ。
それはもういい感じで眠れる。安眠できたのは確かだ。
「あら、どうしたの?」
「……寝た」
「え? さっき寝かしつけたのに??」
「……」
義父の話は母に比べて、そんな感じだった。いや、母の話が面白すぎるせいだ。
でも、チョイスを間違えている。寝物語に冒険の話は、まずかった。
(私はお淑やかうんねんより、身体を動かす方が性にあっているわ)
そのせいで、義父は落ち込んでしまったが、よく寝れたとリーシーが、義父に笑顔で言うとそれはそれでありだなと思われたようだ。
(本当にチョロいな)
内心で、リーシーは義父のことをそう思っていた。まぁ、こんなんでも母にベタ惚れだから、他所の女に引っかからないのだろう。
なんてこと子供らしいことを考えていたのも、母にはバレていた気がしなくもないが、すぐに子供らしい顔をして隠しておいた。そう教わったからだ。
朝と夕の祈りと感謝を捧げながら、リーシーの心には街の人々が困っていることや悲しんでいることが気になってならなかった。
(こんな風にどこかで、困っているのかもしれない)
会ったこともないはずなのにリーシーは、その人のために存在している気がしてならなかった。
この国を救った方の幸せを願いながら、今生きている人たちが幸せになることをリーシーは考えずにはいられなかった。
それをしていれば、1番救われてほしい人が幸せになってくれる気がしてそうしていた。
だから、リーシーはそれを目に見える形で動くことにした。
「お嬢ちゃん、物乞いに施してたらたかられるよ」
「え?」
お腹を空かせている者に丁度持っていた食べ物を渡せば、そんなことを横から言われた。
その人は、物乞いに邪魔になると言いながら、どっか行けと言いがらいなくなったのは、リーシーの顔を見ていられなかったからのようだ。
(こんなことを言う人もいるのね)
日々、かつての皇女のために祈りと感謝を捧げながら、今は皇女が生まれ変わっているから、そんな心配無用かのようにしている。
だから、それ以外の者など邪魔でしかないかのように思うようだ。
(何が、幸せを願うだ。皇女がいれば、どうにかしてくれると思っている面々ばかり)
存在していると幸せにしてくれない連中ばかりなことにリーシーは、腹が立って仕方がなかった。
「……」
「ごめんなさい」
思わず謝ったのは、リーシーだ。
「?」
「私のせいで嫌な思いをさせてしまいました」
「っ、そんなことない」
食べ物を汚れた手に持たせて、その手を包み込んだ。いつから、ここに座っているのか。ここにいるしか、行き場のないのだろう。
それでも、その手は働き者の苦労をしてきた手をしていた。
(なんて、素敵な手をしているの。頑張った人の手をしているわ)
「っ、」
「ううん。そう見えてしまってはいけなかったの。気をつけなきゃ。施しなんかじゃない。きっと、言葉を知らないのね」
「え?」
薄汚れた男は、きょとんとした。その目は、濁っていなかった。澄み切った目をしていた。
(見る目のない人がいたものだわ。そんな人の言葉に傷ついてほしくない)
「だって、施しって、金品を意味する言葉だから違うのよ。これ、食べ物だもの。私、そんな持ち合わせないもの」
「……」
にっこりと笑えば、尚更、驚いていた。何をしているのかと周りに人がちらほらいる。
「施すって意味で言ってたんでしょうけど、それだって色んな意味があるわ」
「……」
そこから、リーシーはこう言った。母に教わったことだ。こんなところで使えるとは思わなかった。
施すとは……。
「恵まれない人や困っている人を助ける行為」
「効果や影響を期待して何かを行う」
「事態を改善するようなことを行う」
「種などをまく」
そんなことを指折り数えながら、他にも色々あるけどと言い、驚いている男ににっこりと笑った。
「効果を期待して、事態が善くなるように種をまいてる。それが、あなたの助けになれたらいいなって思ってるだけ。だから、これは施しではなく、施すことよ」
「っ、」
なんだなんだと人が集まってきた。
リーシーは、立ち上がった。そして、見上げてリーシーのことから目を離さない男に言った。
「変わりたいと思ったら、私のところに来て。一緒に考えるわ。私が、あなたがどうやったら幸せになれるかを考える」
「っ、!?」
そう言った彼女は、輝かんばかりの笑顔を見せた。その目は絶対に見捨てたりしないと物語っていた。まだ、あどけなさが残る顔をしているのにこれまで誰も、彼にそんな手を差し伸べなかった。
苦労ばかりの人生で、物乞いをするまでに落ちぶれた男は、その輝きに眩しそうにした。
でも、これまでの誰よりも彼女の側にいたら、ここから抜け出せる気がした。何をやっても駄目だったというのに。
そんな風に街で誰もが見て見ぬふりをする面々をリーシーは世話し続けた。
この国を救った皇女と生まれ変わった皇女に祈りと感謝がなされ、そして街ではリーシーに感謝する者も増えていった。
皇女は後宮で暮らしてばかりいて、下々の暮らしをどうにかしてくれるわけではない。
天変地異が起これば別だが、ファバン大国ではそれは他の国の頻度より少ない。
それに比べてリーシーは、街で暮らしている分、困っている人たちを笑顔にしながら、暮らしていた。それが身近に感じて親しみやすかったようだ。
「困ったことがあれば、あの店に行けばいい」
そんな風に考える安易な者にリーシーは優しさなんて向けはしなかったが、本当に真剣に悩み途方に暮れる者には、優しかった。
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