31 / 50
『隠された皇女』
7
しおりを挟む「旦那。リーシーちゃん、強ぇな」
「おぅ。お前らも、嘘つくなよ。あの、笑顔で説教するぞ」
「……ちょっといいかも」
「あ゛? お前は、こっちで説教するか?」
ボキボキと指を鳴らすのを聞いて、客は震え上がった。
「っ、いや、何でもない、です」
まぁ、そんなこんなで、その時にリーシーがにっこりと笑って何事もなく、たくさん食べて頑張ってね!と言われた強面は本気で頑張って職を見つけて、それ以来、ここに通い詰めている。
何気にリーシーに変な虫がつくどころか。寄り付くのすら、威嚇するほどで、その効力は十分だ。
(ちょっと、十分すぎるかもしれない)
今も、その迫力は確かなもので、見慣れない者が、ひっ!?と悲鳴をあげていた。
それを見聞きしていないかのように別の客にリーシーは答えた。
「そんなことないわ。みんな、皇女様のことで持ちきりだもの」
「なんだ。そうか。……見る目のねぇ奴らばっかだな」
(小さい声でも、バッチリ聞こえてるわよ。そんなのに見初められても迷惑なだけよ)
ぼそっと強面がそんなことを言って聞こえた面々は頷いた。
だが、リーシーは気づかないふりをした。ここは、やり過ごすのが一番だ。
(噂でしか聞いたことないけど、本当にかすりもしないのよね。私は会わないようにしているわけでもないのに。まるで、何かに会わないようにされているみたい。……まぁ、そんなわけないわよね)
男女の学び舎は本来別々だが、皇女は特例でどちらにも通えることになっている。
それは、数百年前にこの国を命を賭してまで救ったからこそだ。皇女には、幸せになってほしいから、伴侶は自分で選んでいいことになっている。
だからなのか。もっぱら皇女は男子の方にいるとリーシーは聞いていた。どうやら、本気で伴侶を探しているようだ。確かに学び舎くらいしか、皇女には出会いの場がないのだから、仕方がない。
(でも、そんなところで猫被った男なんか、大したことないに決まってるのに。お忍びで、街にでも来ればいいのに)
そんなことをリーシーは考えてしまった。
「タイミングが悪かったね。数年違えば、リーシーちゃんが求婚されて大変だったろうに」
「いや、リーシーが気づいてないだけだと思うぜ」
「あぁ、確かに」
常連たちは、たまたま入って来た若者が顔を赤らめながら、リーシーに注文を聞いてもらって嬉しそうにしているのを見ていた。
それを強面がギロッと睨めば、赤くしていた頬が、真っ青になっていく。
(全く、客が来なくなったら、どうするのよ)
「あの、大丈夫ですか?」
「っ、」
リーシーは、この通り鈍い女の子を演じている。いつもこんな感じだ。強面のやることなすことで、鈍い女の子をやらざるおえない。
気の弱い連中は、それで逃げてくか。話せなくなって今みたいに頷くだけだ。
強面にやんのか!?と喧嘩を売った者をみたことがない。
「おい、やりすぎんな。金づるがいなくなったら、この店が傾くだろ」
「金づる言ってる、あんたが一番まずいだろ」
そんなことを常連はいいから、やるなとは言わなかった。更に店主が、これだ。
(何か。真面目に働いている私が馬鹿みたいよね)
リーシーは、そんなことを思わずにはいられなかった。
30
あなたにおすすめの小説
アクアリネアへようこそ
みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。
家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!?
可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ!
やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。
私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ!
働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。
【完結】呪いのせいで無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになりました。
里海慧
恋愛
わたくしが愛してやまない婚約者ライオネル様は、どうやらわたくしを嫌っているようだ。
でもそんなクールなライオネル様も素敵ですわ——!!
超前向きすぎる伯爵令嬢ハーミリアには、ハイスペイケメンの婚約者ライオネルがいる。
しかしライオネルはいつもハーミリアにはそっけなく冷たい態度だった。
ところがある日、突然ハーミリアの歯が強烈に痛み口も聞けなくなってしまった。
いつもなら一方的に話しかけるのに、無言のまま過ごしていると婚約者の様子がおかしくなり——?
明るく楽しいラブコメ風です!
頭を空っぽにして、ゆるい感じで読んでいただけると嬉しいです★
※激甘注意 お砂糖吐きたい人だけ呼んでください。
※2022.12.13 女性向けHOTランキング1位になりました!!
みなさまの応援のおかげです。本当にありがとうございます(*´꒳`*)
※タイトル変更しました。
旧タイトル『歯が痛すぎて無言になったら、冷たかった婚約者が溺愛モードになった件』
【完結】赤い薔薇なんて、いらない。
花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。
■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
婚約者を喪った私が、二度目の恋に落ちるまで。
緋田鞠
恋愛
【完結】若き公爵ジークムントは、結婚直前の婚約者を亡くしてから八年、独身を貫いていた。だが、公爵家存続の為、王命により、結婚する事になる。相手は、侯爵令嬢であるレニ。彼女もまた、婚約者を喪っていた。互いに亡くした婚約者を想いながら、形ばかりの夫婦になればいいと考えていたジークムント。しかし、レニと言葉を交わした事をきっかけに、彼女の過去に疑問を抱くようになり、次第に自分自身の過去と向き合っていく。亡くした恋人を慕い続ける事が、愛なのか?他の人と幸せになるのは、裏切りなのか?孤独な二人が、希望を持つまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる