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しおりを挟む「ニヴェス……? 顔色、真っ青じゃない。どうしたのよ!?」
「マルチェッリーナ」
幼なじみのマルチェッリーナとアミールカレの姉も、心配そうにやって来た。彼女の名前は、アデーレ・コスタ。幼なじみと並ぶと美人同士なため、とても絵になる。2人共に未だに婚約者がいないのが、ニヴェスには不思議でならなかった。
幼なじみと婚約したがっている子息は多い。そして、アデーレとも婚約したがっている子息も多い。ニヴェスは、お近づきになりたがっている子息に2人のことを色々聞かれていたが、お眼鏡に叶う子息はいないようだ。
何気にアデーレとマルチェッリーナは仲良くなっていた。ニヴェスが何をしたかを聞かされて、そんなわけないと幼なじみは言っていないようだ。
その辺のことを幼なじみに何をしたのかと問い詰められたこともない。その代わりに何とも言えない顔をされた。
その時も、そっと顔をそらすことしかできなかった。
「……ニヴェスを悪く取らない人なのはよくわかったわ」
「マルチェッリーナ……?」
マルチェッリーナは、ニヴェスに何をしたかをは追求することなく、ぽつりとそんなことを言った。
「あなた、婚約者とその家族にとんでもなく好かれているわね」
「えっと」
「あなたが羨ましいわ」
「……」
しみじみと言われた。そこにはぐらかすものは何もなかった。
マルチェッリーナは本当に羨ましそうにしていて、ニヴェスは何とも言えない顔をしてしまった。
「それは置いといて、名前は覚えた?」
「えっと、え、何だっけ?」
「婚約者の名前は、流石に駄目よ」
「わ、わかってるんだけど……」
名前をど忘れするニヴェスに抜き打ちテストのように名前を聞いて来て、最初の頃はど忘れしすぎてマルチェッリーナに呆れられ続けたが、幼なじみがせっかくできた婚約者とその家族にバレないようにしてくれて、非常に助かっていた。本当にありがたい。
今回のやらかしも、隠そうとしてくれたのはマルチェッリーナだが、ニヴェスが学園に来ていなかったから幼なじみはあれこれ聞けなかったのだろう。
そんな風にあれこれ考えている顔色のいまいちよくないニヴェスを見るなり、アデーレはこう言った。
「もしかして、風邪?」
風邪に感染したのではとアデーレとアミールカレは、それを心配していたが、マルチェッリーナは幼なじみを見て、アダルジーザを見てピンときたようだ。
それこそ、数日前のことを知っているのだ。長い付き合いのため、風邪は滅多に引かないのも知っているのだ。
「アダルジーザ。何を言ったの?」
その声音は、低かった。怒っている時の声音だ。マルチェッリーナの顔など見なくてもわかる。幼なじみが、そう言う声を出す時は、大概ニヴェスに関することだ。
そして、ニヴェスがそう言う声を出す時は、マルチェッリーナのことで何かあって怒っている時だ。どちらかと言うとニヴェスとマルチェッリーナの方が姉妹のように仲良くしていた。
血の繋がった妹よりも、血の繋がりがあるかのようにお互いのことを気にかけていた。
「あら、大したこと言ってないわ。ニヴェスの婚約者と婚約するって言っただけよ」
「は? あなたが、私の弟と婚約? 変な冗談やめてよ」
マルチェッリーナも、アデーレと一緒になってあり得ないと言った。その声音は、物凄く嫌そうにしていた。
しかも、アミールカレがニヴェスの婚約者だと言っても全く信じようとしなかった。
「笑えもしないわ。こんな可愛らしい子息が、婚約者なわけないでしょ。ニヴェスより、可愛いじゃない」
アダルジーザは、馬鹿にした声を出していた。
それにアミールカレは冷めきった目を向けるだけで、マルチェッリーナとアデーレのように何か言うことはなかった。その目は、奇妙な生き物を見ているかのようにしていた。
アデーレは、射殺しそうなほどにアダルジーザを睨んでいたし、マルチェッリーナもあんたにそこまで言われたくないと言わんばかりの顔をしていた。
これが、ニヴェスの妹だったら全力でフォローをするところだが、アダルジーザのためにそれをやる気はなかった。そんな余裕がニヴェスにはなかった。
ニヴェスは、その状況で胃のあたりを抑えた。もう、帰りたくなってしまっていた。来たばかりだが、家に帰りたくなって仕方がなかった。
数日前の寝不足だった自分に言ってやりたい。変に頑張ることなく、休んでいた方が良かったと。じゃないとその後で大変なことになると伝えたくなってしまった。
「……あなた、ニヴェスの婚約者を誰だと思っているの?」
マルチェッリーナは、埒が明かないとばかりに聞き返していた。
ニヴェスは一番聞きたくないが、聞かねばならないことに何とも言えない顔をしていた。具合が悪いのを我慢しているとアミールカレが心配しているとは思っていなかった。
アミールカレは、おかしなことを言う令嬢より、ニヴェスが心配でならなかったようだ。
だが、そんな風に心配してくれていることにニヴェスは気づく余裕はなかった。
「誰って……、あ、あの方よ」
そう言って、アダルジーザは指を差した。それは、数日前にニヴェスがしたのと同じような感じだが、そこには1人の子息しかいなかったから、誰だと誤解することはなかった。
「「嘘でしょ」」
マルチェッリーナとアミールカレの姉は見事ハモった。
アミールカレも、2人が絶句しているため、そちらを見て言葉を失った。
ニヴェスは、頭痛を覚えた。
「あら、やっと認める気になったのね」
アダルジーザは、様々な反応を見てニヤニヤとしていた。ニヴェスは、その顔が実の妹にそっくりだと思って見ていた。
だが、目の前の令嬢がやらかしたことにそこまで自分が責任を感じることはないかも知れないとちょっと思い始めていた。
それこそ、この令嬢がこんなんでも、あの子息はそこまでではないはずだ。きっと、あちらはこの令嬢にあわせて面白がるだけに違いない。
ニヴェスは、そんなことを思っていた。
「あなた、正気なの?」
「何よ。そんな言い方することないじゃない」
マルチェッリーナは、呆れきった声音だった。そんな事言われたら、誰でもアダルジーザのように腹が立つのはわかる。
だが、マルチェッリーナが正気を疑うのはもっとわかる。アダルジーザが指さした子息が、誰なのかをニヴェスたちがみんな知っていたからだ。
知らないのは、アダルジーザだけのようだ。婚約する相手のことを知らないのも、どうかと思うが。
「あの子息は、隣国の王弟殿下のご令嬢と婚約されている方じゃない」
「そ、そんなわけないわ! そんな嘘をつかないでよ!」
アダルジーザは、そんなわけないと言い続けて、喚き散らしていた。
そんなことしても、何も変わりはしないのだが、アダルジーザは頑なにニヴェスの婚約者を奪ったと思いたいようだった。
なぜ、そこまで、ニヴェスの婚約者にこだわるのかはわからないが、彼女はニヴェスの婚約者だったから悔しがってほしかったのかもしれない。
だが、そんなことする以前に思っている以上に大物と婚約することになっていることを理解していなかったようだ。
「アダルジーザ。ここにいたのか。探したじゃないか。やっと、婚約破棄できたぞ」
子息は、やっと破棄できたと言っていた。それを聞いて、ニヴェスはついに意識を手放した。
自分がしでかしたことに変わりはないと思ったのが大きかったようだ。それを聞いて、意識が遠のいてしまった。
「ニヴェス!!」
「ニヴェス、しっかりして!」
婚約者だけでなくて、幼なじみや婚約者のお姉さんたちが心配して声をかけてくれていたようだが、ニヴェスは返事することなく意識は沈んだ。
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