他人の婚約者を誘惑せずにはいられない令嬢に目をつけられましたが、私の婚約者を馬鹿にし過ぎだと思います

珠宮さくら

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ニヴェスが自室のベッドで目が覚めたら、あれから数日が過ぎていた。

ニヴェスがまず焦ったことと言えば、アダルジーザが婚約しようとしている子息の婚約破棄うんねんのことよりも、別のことだった。

小説の新刊が、発売になっている。この間の本ではない。別の本だ。すぐにでも買いに行かなきゃとそんなことを思っていたのだが、両親がニヴェスが目を覚めたことを喜んでくれ、婚約者が連絡を聞いてすぐさま駆けつけてくれて、それどころではなくなった。

それでも、頭の片隅に新刊のことが離れることはなかった。

マルチェッリーナなら、別のことを考えているのが手に取るようにわかっただろうが、それをわかってくれる人はいなかった。ニヴェスとしては、その辺に複雑なものがあった。わかってくれたら、今はありがたいと思うだろうが、後々大変なことになるだろうことは目に見えている。

アミールカレは、ニヴェスの顔を見るなりホッとした顔をした。かなり慌てて来たのがよくわかる。

それを見て、ニヴェスは申し訳ない気持ちでいっぱいになって、新刊のことを考えるのをようやくやめた。


「よかった。突然、倒れたから姉と心配していたんだ」
「ご迷惑をおかけしました。えっと、あ、あの後って、どうなったんですか?」
「2人とも、勘当されました」
「……え?」


ニヴェスは、即答されて目をパチクリさせてしまった。

展開が早すぎないか??


「あの子息、バッティスタという名前らしいが、自分の婚約者が隣国の王弟殿下のご息女だと知らなかったようなんだ」
「……知ってたら、破棄しようとしないでしょうね。だって、アダルジーザは男爵令嬢ですし」
「それも、知らなかったようなんだ」
「……」


何なら知っていたんだろうかとニヴェスは考えずにはいられなかった。

男爵令嬢だというのに人の婚約者を狙うことで有名だった。もっとも、見た目だけなら、とてもいいから、そこでコロッと子息が騙されるのだ。

そんなのにコロッといくような子息と婚約していたいわけがない。まぁ、大概男爵令嬢だと聞いて、何事もなく戻って来ようとする子息に令嬢の方が愛想を尽かして婚約者が破棄になるのだが。

そう言う令嬢たちは、アダルジーザに感謝していたりする。もっと素敵な子息と婚約できているのだ。もっとも、わざわざ本人に礼をのべる令嬢は1人もいないが。

そのせいで、アダルジーザはすっかり自分には魔性の魅力があると思っているようだ。そのため、婚約したと聞きつけると婚約者を聞き出して、しつこくちょっかいかけるのだ。

……というか。婚約破棄する時に両親にその辺のことを確認されなかったのだろうか??

謎すぎる。でも、追求しても馬鹿馬鹿しいことになりそうで、そんなことをするならニヴェスは本屋に駆け込みたかった。

新刊のことを考えないのは、ニヴェスには無理だったようだ。


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