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第5話 絶対服従ゲーム
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素早くプレートを洗ってから、頼寿が俺を振り返って言った。
「まあ……今回旦那と交わした契約には『玉雪の体に傷や痣を付けない』っていうのがあったから、セーフワードは必要ねえけどな」
「……よ、良かった。お前にぶたれたら俺マジで泣くと思うから。頼むよ!」
椅子から降りて冷蔵庫の前へ行き、早速カフェオレを取り出してストローをさす。頼寿はシンクに寄りかかり、そんな俺を横目で見ていた。
「大体、俺SMとか全然興味ないし。マゾの気持ちなんて分からないよ。どっちかって言えば、俺はSだと思うけど」
「は」
馬鹿にしたように笑って、頼寿が腕組みをした。
「Mの気持ちが分からねえSなんていねえよ。それとも、ワガママで単に口が悪いことをSだと思ってるのか?」
そういう頼寿の言葉にいちいち腹が立つということは、やっぱり俺はマゾじゃないということだと思う。
基本的に見下されたり馬鹿にされるのは大嫌いだ。冷たくされるとこちらも冷めるし、殴られれば殴り返す。
痛いのが良いなんて俺には分からない。頼寿は分かると言うのだろうか。
「それにお前は、典型的なMだと思うがな」
「っ……!」
言われて、思わず飲んでいたカフェオレが変な所に入ってしまった。
「ぶはっ──は、はぁっ? 俺がM? 何でよ、その根拠はっ?」
「お前、昨日のこと覚えてねえのか」
「あ、あれは……頼寿が言うから、仕方なく……!」
「本気で嫌なら幾らでも逃げられただろ。それこそ俺をぶん殴ってでもな」
「今ぶん殴っていいか……」
「そこで、だ」
頼寿が腕組みを解き、体ごと俺の方へと向き直る。
「一つゲームをしねえか。今日一日、お前が俺の言うことに従うゲームだ」
「やだ」
「全部俺の言うことを聞けたら、お前の勝ちだ。明日一日何でもしてやる。欲しい物があるなら何でも買ってきてやるし、して欲しいことも全部してやる」
「………」
どういうことだろう。頼寿のことだからえげつない指示を出してくるに違いないが、その「対価」に何でも要求していいとは。
「本当に何でも? 出てって一人にしてくれる?」
「それは旦那との契約があるから無理だが、お前が気にならねえように一日一切の接触を断つことはできる」
待てよ。俺はカフェオレを啜りながら冷静に頭を働かせた。
頼寿からの接触が断たれるのは良いけど、そうなると食事も出なくなるということだ。頼寿の料理の腕だけは認めてる俺だからそれは困る。
となると、要求というよりは「仕返し」の方が面白いかもしれない。今までの怨みを全部注ぎ込んで、頼寿に一生消えない黒歴史を刻んでやれば──
「じゃあ俺が勝ったら、明日一日お前、ウサギちゃんになりきれよ。語尾に『ピョン』て付けて、頭にもウサ耳付けて、一人称は『ボクちん』な!」
「……構わねえけど、そんなくだらねえモノでいいのか?」
「もちろん! 当然仕草も言葉遣いも全部ウサギちゃんだからな!」
「ウサギちゃんの言葉遣いがよく分からねえが……まあいいだろう」
俺は鼻息を荒くさせて拳を握った。
今日一日我慢すればいいだけだ、簡単だ。
最高の「ご褒美」が待ってるなら、何だって耐えてやる。
「まあ……今回旦那と交わした契約には『玉雪の体に傷や痣を付けない』っていうのがあったから、セーフワードは必要ねえけどな」
「……よ、良かった。お前にぶたれたら俺マジで泣くと思うから。頼むよ!」
椅子から降りて冷蔵庫の前へ行き、早速カフェオレを取り出してストローをさす。頼寿はシンクに寄りかかり、そんな俺を横目で見ていた。
「大体、俺SMとか全然興味ないし。マゾの気持ちなんて分からないよ。どっちかって言えば、俺はSだと思うけど」
「は」
馬鹿にしたように笑って、頼寿が腕組みをした。
「Mの気持ちが分からねえSなんていねえよ。それとも、ワガママで単に口が悪いことをSだと思ってるのか?」
そういう頼寿の言葉にいちいち腹が立つということは、やっぱり俺はマゾじゃないということだと思う。
基本的に見下されたり馬鹿にされるのは大嫌いだ。冷たくされるとこちらも冷めるし、殴られれば殴り返す。
痛いのが良いなんて俺には分からない。頼寿は分かると言うのだろうか。
「それにお前は、典型的なMだと思うがな」
「っ……!」
言われて、思わず飲んでいたカフェオレが変な所に入ってしまった。
「ぶはっ──は、はぁっ? 俺がM? 何でよ、その根拠はっ?」
「お前、昨日のこと覚えてねえのか」
「あ、あれは……頼寿が言うから、仕方なく……!」
「本気で嫌なら幾らでも逃げられただろ。それこそ俺をぶん殴ってでもな」
「今ぶん殴っていいか……」
「そこで、だ」
頼寿が腕組みを解き、体ごと俺の方へと向き直る。
「一つゲームをしねえか。今日一日、お前が俺の言うことに従うゲームだ」
「やだ」
「全部俺の言うことを聞けたら、お前の勝ちだ。明日一日何でもしてやる。欲しい物があるなら何でも買ってきてやるし、して欲しいことも全部してやる」
「………」
どういうことだろう。頼寿のことだからえげつない指示を出してくるに違いないが、その「対価」に何でも要求していいとは。
「本当に何でも? 出てって一人にしてくれる?」
「それは旦那との契約があるから無理だが、お前が気にならねえように一日一切の接触を断つことはできる」
待てよ。俺はカフェオレを啜りながら冷静に頭を働かせた。
頼寿からの接触が断たれるのは良いけど、そうなると食事も出なくなるということだ。頼寿の料理の腕だけは認めてる俺だからそれは困る。
となると、要求というよりは「仕返し」の方が面白いかもしれない。今までの怨みを全部注ぎ込んで、頼寿に一生消えない黒歴史を刻んでやれば──
「じゃあ俺が勝ったら、明日一日お前、ウサギちゃんになりきれよ。語尾に『ピョン』て付けて、頭にもウサ耳付けて、一人称は『ボクちん』な!」
「……構わねえけど、そんなくだらねえモノでいいのか?」
「もちろん! 当然仕草も言葉遣いも全部ウサギちゃんだからな!」
「ウサギちゃんの言葉遣いがよく分からねえが……まあいいだろう」
俺は鼻息を荒くさせて拳を握った。
今日一日我慢すればいいだけだ、簡単だ。
最高の「ご褒美」が待ってるなら、何だって耐えてやる。
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