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第6話 あめ欲しい!
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「タマちゃん、アメ食うか?」
「いらない」
頼寿を見もせずに即答すると、昨日からウチで期間限定の家政夫をすることになった快晴が、ダンボール箱いっぱいのアメを抱えて苦笑した。
「海外で製菓会社やってる僕んとこのオヤジが、大量に甘いモン送ってきたんですよ。坊ちゃんの口には合わないですかね?」
「………」
甘い匂いに誘われて、ついついそちらを見てしまう。「ほら、こんなのも」と快晴が取り出したのは、うずまき模様の棒付きアメ──俗にいうペロペロキャンディだ。しかもデカい。ロクな子供時代を送ってこなかった俺にとって、それは初めて目にするシロモノだった。
「じゃ、じゃあ貰おうかな」
「はいどうぞ。虫歯になるから食べたら歯を磨いてくださいね」
ピンクと白がマーブル状に混ざって渦を巻くキャンディ。包み紙には英文字で「ポップスピン」と印刷されていた。
包みを剥がして、ベロンと舐めてみる。ほっぺたが落ちそうなほど甘くて美味しくて、俺は無意識に目を輝かせていたらしい。その様子を見た快晴がホッとしたように笑っていた。
「そんなに喜んでもらえたら僕も嬉しいです。たくさんあるので召し上がってください、坊ちゃん」
「あ、ありがとう快晴……!」
「あまり甘やかすな。──タマ、いっぺんに食い過ぎるなよ」
頼寿の小言は聞き流して、俺はひたすらポップスピンを舐め続けた。
「頼寿さん、僕そろそろ夕食の買い物に行ってきます」
「ああ、頼む。領収書貰い忘れるなよ」
快晴が部屋を出て行き、俺は床に置かれたダンボール箱に視線を落とした。
ブルーやグリーンのポップスピン。それとはまた違う七色のペロペロキャンディ。一口サイズの飴玉が詰まったビンに、可愛い動物の形をした小さな棒付きキャンディ。
他にも袋入りの物や洒落た缶の物もあり、しばらくは甘い物に困らなそうだ。
「そんなデカいアメ全部食ったら吐くぞ」
「羨ましそうに見ないでくれる。これは俺が快晴に貰った物だから」
「お前はムカつくこと言わせたら天才的だな。SMのステージじゃなく口喧嘩大会にでも出ればいいんじゃねえの」
「俺だってそうしたいんですけど」
換気扇下で煙草を吸っていた頼寿が吸殻を処理し、こちらに近付いてくる。
そうしてヒョイと箱を抱え、俺のアメ達を自分の部屋へ持って行ってしまった。
「何すんだよ? 子供じゃないんだし、アメなんか暴食しないってば」
「子供だろ、中身は。欲しい時は俺に言え。余程のことがない限りちゃんと渡してやる。お前の部屋に置いてたら夜な夜な食うだろ絶対」
保護者ぶって、何様だ。
「俺のアメなのに」
「そんなにアメが好きか」
手ぶらでリビングに戻ってきた頼寿が、俺の隣にどっかりと腰を下ろす。
「……お菓子とかそういうの、会長と出会う前は滅多に食べれなかったから」
むくれながら言うと、頼寿がクックと笑って俺の頭を撫でてきた。
「そういやタマ、昨日は『ご奉仕』ご苦労だったな」
「そうだよ! マジでもうあんなのやらないからな!」
先日の服従ゲームに負けた俺が受けた罰──一日ご奉仕。
てっきりエロいことをされるかと身構えていたけれど、意外にも頼寿は俺に手は出さなかった。
その代わり料理以外殆どの雑用と、風呂で背中を流すこと、寝る前に頼寿のマッサージまでやらされた。……あれはかつてないほどの屈辱だった。
「文句は出てたが、昨日お前が良い働きをしてくれたのは確かだ。ああやって素直に言うことを聞くなら、たまには褒美だってやるんだぞ」
「ご褒美って」
「本物の『飴』をな」
「……それって、飴と鞭の飴ってこと?」
「いらない」
頼寿を見もせずに即答すると、昨日からウチで期間限定の家政夫をすることになった快晴が、ダンボール箱いっぱいのアメを抱えて苦笑した。
「海外で製菓会社やってる僕んとこのオヤジが、大量に甘いモン送ってきたんですよ。坊ちゃんの口には合わないですかね?」
「………」
甘い匂いに誘われて、ついついそちらを見てしまう。「ほら、こんなのも」と快晴が取り出したのは、うずまき模様の棒付きアメ──俗にいうペロペロキャンディだ。しかもデカい。ロクな子供時代を送ってこなかった俺にとって、それは初めて目にするシロモノだった。
「じゃ、じゃあ貰おうかな」
「はいどうぞ。虫歯になるから食べたら歯を磨いてくださいね」
ピンクと白がマーブル状に混ざって渦を巻くキャンディ。包み紙には英文字で「ポップスピン」と印刷されていた。
包みを剥がして、ベロンと舐めてみる。ほっぺたが落ちそうなほど甘くて美味しくて、俺は無意識に目を輝かせていたらしい。その様子を見た快晴がホッとしたように笑っていた。
「そんなに喜んでもらえたら僕も嬉しいです。たくさんあるので召し上がってください、坊ちゃん」
「あ、ありがとう快晴……!」
「あまり甘やかすな。──タマ、いっぺんに食い過ぎるなよ」
頼寿の小言は聞き流して、俺はひたすらポップスピンを舐め続けた。
「頼寿さん、僕そろそろ夕食の買い物に行ってきます」
「ああ、頼む。領収書貰い忘れるなよ」
快晴が部屋を出て行き、俺は床に置かれたダンボール箱に視線を落とした。
ブルーやグリーンのポップスピン。それとはまた違う七色のペロペロキャンディ。一口サイズの飴玉が詰まったビンに、可愛い動物の形をした小さな棒付きキャンディ。
他にも袋入りの物や洒落た缶の物もあり、しばらくは甘い物に困らなそうだ。
「そんなデカいアメ全部食ったら吐くぞ」
「羨ましそうに見ないでくれる。これは俺が快晴に貰った物だから」
「お前はムカつくこと言わせたら天才的だな。SMのステージじゃなく口喧嘩大会にでも出ればいいんじゃねえの」
「俺だってそうしたいんですけど」
換気扇下で煙草を吸っていた頼寿が吸殻を処理し、こちらに近付いてくる。
そうしてヒョイと箱を抱え、俺のアメ達を自分の部屋へ持って行ってしまった。
「何すんだよ? 子供じゃないんだし、アメなんか暴食しないってば」
「子供だろ、中身は。欲しい時は俺に言え。余程のことがない限りちゃんと渡してやる。お前の部屋に置いてたら夜な夜な食うだろ絶対」
保護者ぶって、何様だ。
「俺のアメなのに」
「そんなにアメが好きか」
手ぶらでリビングに戻ってきた頼寿が、俺の隣にどっかりと腰を下ろす。
「……お菓子とかそういうの、会長と出会う前は滅多に食べれなかったから」
むくれながら言うと、頼寿がクックと笑って俺の頭を撫でてきた。
「そういやタマ、昨日は『ご奉仕』ご苦労だったな」
「そうだよ! マジでもうあんなのやらないからな!」
先日の服従ゲームに負けた俺が受けた罰──一日ご奉仕。
てっきりエロいことをされるかと身構えていたけれど、意外にも頼寿は俺に手は出さなかった。
その代わり料理以外殆どの雑用と、風呂で背中を流すこと、寝る前に頼寿のマッサージまでやらされた。……あれはかつてないほどの屈辱だった。
「文句は出てたが、昨日お前が良い働きをしてくれたのは確かだ。ああやって素直に言うことを聞くなら、たまには褒美だってやるんだぞ」
「ご褒美って」
「本物の『飴』をな」
「……それって、飴と鞭の飴ってこと?」
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