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第8話 玉雪、オンステージ!
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鉛色に曇った梅雨の空を見上げると同時に、俺の口から大きな溜息が洩れる。
考えると憂鬱だから考えないようにしていたのに、逃れられないカウントダウンは今日でゼロになってしまった。
カウントダウンゼロ。すなわち今日は、俺の「デビュー」の日。
六月二十一日。俺の誕生日から丁度一ヵ月経った今日、俺は……!
「先日までの寒さが嘘みてえだな。今年は春が来ねえとか言ってたけど、春を吹っ飛ばして冬から一気に夏か」
「……天気の話ばっかしてると、お爺さんに思われるよ」
「構わねえな別に」
俺の隣で空を見上げていた頼寿は、今日は朝から機嫌が良い。この一ヵ月は色々あったし全部思い出すと最低な気分になるけれど、頼寿自身は概ね満足しているらしいのだ。
俺は多分、何も変わっていない。頼寿に対しては未だに腹も立つしぶん殴りたくなる時もある。
力でもテクニックでも敵わないものの「ご主人様」に何の忠誠心も持っていない俺なのに、どうして頼寿がそんなに自信満々なのかいまいちよく分からなかった。
「でも、こんなお昼時からロッソ君の店行くの? ステージは夜なんじゃないの」
「衣装合わせだとか、打ち合わせもあるからな」
いつか頼寿と歩いた昼間の風俗街を再び歩きながら、俺は今日何度目か分からない溜息をついた。
泣いても笑っても、俺は今日デビューする。
頼寿とのあの恥ずかしい行為を、大勢の人達の前で──会長の前で、することになるんだ。
「ああぁっ、マジで心臓飛び出そう……!」
「それがステージに立つ前の『緊張感』てヤツだ。緊張感がデカい分、ドーパミンが放出した時の快感は凄まじい。良い兆候だぞ、タマ」
「……全然嬉しくない……」
そうして空と同じ灰色の気分のまま、とうとうロッソ君の店に着いてしまった。
あの時と同じように地下へ続く階段を降りて扉を開ければ、その先は見覚えのあるフロア──だけど今日は照明も明るく、客は誰もいない。
「あ、頼寿と玉くん! 待ってたよ」
炎のような頭のロッソ君がパタパタと駆けてきて、早速俺の頭をめちゃくちゃに撫で回してきた。
「ロ、ロッソ君。お久しぶり……や、やめて!」
「前より少し垢抜けた? 玉くん、ちょっと大人っぽくなったね!」
「背は伸びてねえけどな。あとガキ臭さも変わってねえ」
「あはは。その方が可愛いよ」
「や、やめ……!」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜられて困っているというのに、頼寿とロッソ君は平然と喋っている。これも前回と同じだった。
「三上会長から荷物届いてるよ。玉くんの衣装オーダメイドしたんだってね」
「っ……!」
ロッソ君の言葉に、俺は目を見開いて叫んだ。
「み、見せて! 衣装見せて、ロッソ君!」
「うん、いいよ。スタッフルームにあるからおいで」
会長が気合を入れて衣装を頼んでいたのは知っているし何着か候補も見せられたが、最終的にどれに決まったのか俺は知らされていない。当日までのお楽しみ、と会長は言っていたが──俺としては一刻も早く衣装がどんなデザインなのか知っておきたかった。
「こちらどうぞ玉くん。……おーい誰か、玉くんと頼寿に飲み物出してあげて!」
考えると憂鬱だから考えないようにしていたのに、逃れられないカウントダウンは今日でゼロになってしまった。
カウントダウンゼロ。すなわち今日は、俺の「デビュー」の日。
六月二十一日。俺の誕生日から丁度一ヵ月経った今日、俺は……!
「先日までの寒さが嘘みてえだな。今年は春が来ねえとか言ってたけど、春を吹っ飛ばして冬から一気に夏か」
「……天気の話ばっかしてると、お爺さんに思われるよ」
「構わねえな別に」
俺の隣で空を見上げていた頼寿は、今日は朝から機嫌が良い。この一ヵ月は色々あったし全部思い出すと最低な気分になるけれど、頼寿自身は概ね満足しているらしいのだ。
俺は多分、何も変わっていない。頼寿に対しては未だに腹も立つしぶん殴りたくなる時もある。
力でもテクニックでも敵わないものの「ご主人様」に何の忠誠心も持っていない俺なのに、どうして頼寿がそんなに自信満々なのかいまいちよく分からなかった。
「でも、こんなお昼時からロッソ君の店行くの? ステージは夜なんじゃないの」
「衣装合わせだとか、打ち合わせもあるからな」
いつか頼寿と歩いた昼間の風俗街を再び歩きながら、俺は今日何度目か分からない溜息をついた。
泣いても笑っても、俺は今日デビューする。
頼寿とのあの恥ずかしい行為を、大勢の人達の前で──会長の前で、することになるんだ。
「ああぁっ、マジで心臓飛び出そう……!」
「それがステージに立つ前の『緊張感』てヤツだ。緊張感がデカい分、ドーパミンが放出した時の快感は凄まじい。良い兆候だぞ、タマ」
「……全然嬉しくない……」
そうして空と同じ灰色の気分のまま、とうとうロッソ君の店に着いてしまった。
あの時と同じように地下へ続く階段を降りて扉を開ければ、その先は見覚えのあるフロア──だけど今日は照明も明るく、客は誰もいない。
「あ、頼寿と玉くん! 待ってたよ」
炎のような頭のロッソ君がパタパタと駆けてきて、早速俺の頭をめちゃくちゃに撫で回してきた。
「ロ、ロッソ君。お久しぶり……や、やめて!」
「前より少し垢抜けた? 玉くん、ちょっと大人っぽくなったね!」
「背は伸びてねえけどな。あとガキ臭さも変わってねえ」
「あはは。その方が可愛いよ」
「や、やめ……!」
わしゃわしゃと髪をかき混ぜられて困っているというのに、頼寿とロッソ君は平然と喋っている。これも前回と同じだった。
「三上会長から荷物届いてるよ。玉くんの衣装オーダメイドしたんだってね」
「っ……!」
ロッソ君の言葉に、俺は目を見開いて叫んだ。
「み、見せて! 衣装見せて、ロッソ君!」
「うん、いいよ。スタッフルームにあるからおいで」
会長が気合を入れて衣装を頼んでいたのは知っているし何着か候補も見せられたが、最終的にどれに決まったのか俺は知らされていない。当日までのお楽しみ、と会長は言っていたが──俺としては一刻も早く衣装がどんなデザインなのか知っておきたかった。
「こちらどうぞ玉くん。……おーい誰か、玉くんと頼寿に飲み物出してあげて!」
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