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第8話 玉雪、オンステージ!
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そうして、午後十時。
「はい! 玉くん、ヘアメイク完了!」
「……あ、ありがと」
鏡の中の俺は情けない顔で茫然としているが、頭はロッソ君のテクによって完璧に仕上がっていた。
普段なかなかまとまらない猫っ毛がヘアアイロンとスプレーだけで、毛先ツンツンの若干ワイルドな髪型になっている。いつもと髪型が違うだけで印象もだいぶ変わるなと、思わず鏡を見て感心してしまう。
「あと、ちょっとだけお顔のメイクもするね。Mの子っぽくというか……様式美が大事だからねこういうのは」
「Mっぽいメイクって何?」
閉じた目蓋や目尻に何かが塗られ、続いてロッソ君の指で軽く伸ばされてゆく。何だか心地好くて眠ってしまいそうだ。
「アイシャドウで少しタレ目にするよ。玉くん基本がツリ目だから。こうするとね、泣きそうになった時の表情が倍可愛くなるんだよ」
「泣きそうになんかならない!」
「あはは。後は唇もグロスでつやつやにするね。こうすると垂れた涎が映えるから」
「涎なんか垂らさないっ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺達の横では、頼寿が黙って酒を飲んでいた。昼間からどれだけ飲んでるのか知らないが、全く酔っている様子はない。
ちなみに頼寿はスーツに着替えていた。ホストのようなセクシー系ではなく、誕生日の夜、俺の前に現れた時のようなかっちりとした洒落たブランド物のスーツだ。そのハンサムぶりに腹が立つ。
「うんうん、衣装もメイクもばっちり。玉くんカッコいいよ!」
スマホで俺を撮影するロッソ君にむくれた顔を向けるも、心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
普段と違う衣装を着て、初めての化粧をして、ヘアメイクまでして──何だかこれから演劇の舞台にでも立つみたいだ。もちろんやることは全然違うけれど、こうして準備が整っていくのを実感すると少しだけ……ほんの少しだけ、ワクワクしてくる。
「店長、そろそろです」
スタッフルームに顔を出した従業員の言葉を受けて、ロッソ君が手を叩いた。
「よし! それじゃよろしくね頼寿、玉くん!」
「え? も、もう……?」
「行くぞ玉雪」
「え、ほんとに……もうちょっと心の準備を……」
「つべこべ言うな」
立ち上がった頼寿が俺の腕を掴んで、スタッフルームのドアを開ける。
前言撤回。ワクワクなんてしない。怖くて、怖くて仕方ない──
*
「大変長らくお待たせしました。これよりスペシャルゲストによるエクストラステージを行ないます。皆様、中央円形ステージにご注目下さい」
スピーカーから流れるロッソ君の声と共に、眩しいくらいのスポットライトが顔面に当たる。
「それでは三上グループ秘蔵の美青年・玉雪のデビューステージをご堪能下さい!」
「あ、あ、ぅ……」
逆光で客の顔は見えないが、ざわつき声でかなりの人数がこちらを見ているのが分かる。俺は中央のポールをぎゅっと握りしめ、どうすることもできずに頼寿の指示を待った。
「……ど、どうするの。どうしたらいい、よりひさ」
極度の緊張から無表情になってしまう。そのまま小声で問うと、背後に立つ頼寿が俺の体に両腕を絡ませてきた。
「ひゃっ……」
後ろから顎を捕らえられ、首筋に唇が押し付けられ、それからゆっくりと舐められる……。
「言っただろ。お前は俺に従っていればいい」
「でも、……」
客がざわめいているのは、俺を抱いている男が頼寿だと気付いたからだ。あちこちから「頼寿?」「頼寿だ」という声が小さく聞こえてくる。
──こいつ、本当にこの業界で生きてきたんだな。
思った瞬間、フロア中に爆音のロックが流れ始めた。
「はい! 玉くん、ヘアメイク完了!」
「……あ、ありがと」
鏡の中の俺は情けない顔で茫然としているが、頭はロッソ君のテクによって完璧に仕上がっていた。
普段なかなかまとまらない猫っ毛がヘアアイロンとスプレーだけで、毛先ツンツンの若干ワイルドな髪型になっている。いつもと髪型が違うだけで印象もだいぶ変わるなと、思わず鏡を見て感心してしまう。
「あと、ちょっとだけお顔のメイクもするね。Mの子っぽくというか……様式美が大事だからねこういうのは」
「Mっぽいメイクって何?」
閉じた目蓋や目尻に何かが塗られ、続いてロッソ君の指で軽く伸ばされてゆく。何だか心地好くて眠ってしまいそうだ。
「アイシャドウで少しタレ目にするよ。玉くん基本がツリ目だから。こうするとね、泣きそうになった時の表情が倍可愛くなるんだよ」
「泣きそうになんかならない!」
「あはは。後は唇もグロスでつやつやにするね。こうすると垂れた涎が映えるから」
「涎なんか垂らさないっ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺達の横では、頼寿が黙って酒を飲んでいた。昼間からどれだけ飲んでるのか知らないが、全く酔っている様子はない。
ちなみに頼寿はスーツに着替えていた。ホストのようなセクシー系ではなく、誕生日の夜、俺の前に現れた時のようなかっちりとした洒落たブランド物のスーツだ。そのハンサムぶりに腹が立つ。
「うんうん、衣装もメイクもばっちり。玉くんカッコいいよ!」
スマホで俺を撮影するロッソ君にむくれた顔を向けるも、心臓は張り裂けそうなほど高鳴っていた。
普段と違う衣装を着て、初めての化粧をして、ヘアメイクまでして──何だかこれから演劇の舞台にでも立つみたいだ。もちろんやることは全然違うけれど、こうして準備が整っていくのを実感すると少しだけ……ほんの少しだけ、ワクワクしてくる。
「店長、そろそろです」
スタッフルームに顔を出した従業員の言葉を受けて、ロッソ君が手を叩いた。
「よし! それじゃよろしくね頼寿、玉くん!」
「え? も、もう……?」
「行くぞ玉雪」
「え、ほんとに……もうちょっと心の準備を……」
「つべこべ言うな」
立ち上がった頼寿が俺の腕を掴んで、スタッフルームのドアを開ける。
前言撤回。ワクワクなんてしない。怖くて、怖くて仕方ない──
*
「大変長らくお待たせしました。これよりスペシャルゲストによるエクストラステージを行ないます。皆様、中央円形ステージにご注目下さい」
スピーカーから流れるロッソ君の声と共に、眩しいくらいのスポットライトが顔面に当たる。
「それでは三上グループ秘蔵の美青年・玉雪のデビューステージをご堪能下さい!」
「あ、あ、ぅ……」
逆光で客の顔は見えないが、ざわつき声でかなりの人数がこちらを見ているのが分かる。俺は中央のポールをぎゅっと握りしめ、どうすることもできずに頼寿の指示を待った。
「……ど、どうするの。どうしたらいい、よりひさ」
極度の緊張から無表情になってしまう。そのまま小声で問うと、背後に立つ頼寿が俺の体に両腕を絡ませてきた。
「ひゃっ……」
後ろから顎を捕らえられ、首筋に唇が押し付けられ、それからゆっくりと舐められる……。
「言っただろ。お前は俺に従っていればいい」
「でも、……」
客がざわめいているのは、俺を抱いている男が頼寿だと気付いたからだ。あちこちから「頼寿?」「頼寿だ」という声が小さく聞こえてくる。
──こいつ、本当にこの業界で生きてきたんだな。
思った瞬間、フロア中に爆音のロックが流れ始めた。
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