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第12話 金曜日のふたり
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恥ずかしくて、照れくさくて……だけど小さな子供みたいにわくわくしてしまって、体は疲れているはずなのに眠気なんて吹っ飛んでしまったみたいだ。
「……へへ」
俺は頼寿の胸板に頭を預け、込み上げてくる笑いを噛み殺しながらギュッと目をつぶった。
初めてのセックスの後って、皆こんな気分になるんだろうか。意味なく頼寿の寝顔を覗いたり、肌に触れてみたり、さっきまでのことを思い出して叫び出したくなったり。
自分のテンションの高さに驚いた。この調子なら朝までずっと幸せな気分のまま起きていられそうだ……。
*
「んあ……」
目が覚めた時、隣に頼寿はいなかった。
いつの間に眠ってしまったのか。窓からはさんさんと陽射しが差し込んでいて、だいぶ寝坊してしまったらしい。
涎を拭いながら身を起こすと、隣のリビングから声が聞こえた──頼寿と、三上会長の声だ。
会長が来ている。恐らくは秋津さんとの話し合いの結果を伝えに。
「か、会長っ……?」
慌ててパンツ一丁のままリビングに駆け込むと、紅茶を啜っていた会長が俺を見るなり泣きそうな顔になって言った。
「……玉雪……。済まなかったな、本当に……怖い思いをさせて申し訳なかった」
「だ、大丈夫ですよ。無事だったし、それに会長のせいじゃないです」
「いや、俺の責任だ。玉雪を見せびらかしたいがために、先方の提示した衣装をそのまま承諾してしまった」
「か、会長は悪くないです! そういうパーティーでもあったんだし、アイツが無礼だっただけで……」
「秋津社長と話をつけてきた。今後一切、あの男はお前に近付かない。その上で秋津グループとの契約を打切りに……」
一番恐れていたことが現実になってしまい、俺は焦って会長の隣へ腰を下ろした。その顔は一晩でだいぶやつれてしまっている。服も昨日のスーツだし、恐らく一睡もしていないのだろう。
「会長、この件は俺と良若の問題ですよ。秋津さんは良若に怒っていたし、悪い人じゃないんでしょ? 俺のために秋津さんと縁を切るつもりなら考え直してください。三上グループの不利益になるようなことはしないで」
「良若の後ろ盾である社長と仕事はできんよ。利益優先にして万が一また良若がお前に近付いたら……」
不安要素の排除。会長が言っているのはそういうことだ。……たかが俺のために。会長が寝ずに悩んでいる間、頼寿とセックスして浮かれていた俺なんかのために。
「会長」
ふいに、これまで黙っていた頼寿が会長のカップに新しい紅茶を注ぎながら言った。
「間に合うようなら秋津グループとの契約は続行すべきです。いや、一度切って新たに契約し直すと言うべきか」
「どういうことだ、頼寿?」
会長が力なく頼寿に視線を向ける。頼寿はいつもと変わらない涼し気な顔で、説明を続けた。
「今回の件で罰せられるべきは良若ですが、愛人の管理ができていなかった秋津氏にも責任があるでしょう。責任を取らせる意味でも、三上グループが優位に立てるような条件の契約を提示してみてはどうですか。向こうも大手三上グループに切られるのは痛手でしょうし、ある程度の条件なら飲むと思いますが」
「……ううむ……しかし関係を保ったままだと、玉雪の身の安全と精神的ケアが……」
俺と会長が座るソファの前まで来た頼寿が、その場で床に片膝をつく。
「あの件は俺が玉雪の傍を離れたことが原因でもあります。護衛を任されていた俺の責任です」
「いや、頼寿そんなことは──」
「二度と同じ失敗はしません。俺にチャンスを与えるためにも、──秋津氏と和解し再契約をお願いします」
「っ、……」
思わず息を飲んでしまった。
……何故ならお願いしているのに、頼寿のその目が猛獣のごとくギラついていたからだ。
「……へへ」
俺は頼寿の胸板に頭を預け、込み上げてくる笑いを噛み殺しながらギュッと目をつぶった。
初めてのセックスの後って、皆こんな気分になるんだろうか。意味なく頼寿の寝顔を覗いたり、肌に触れてみたり、さっきまでのことを思い出して叫び出したくなったり。
自分のテンションの高さに驚いた。この調子なら朝までずっと幸せな気分のまま起きていられそうだ……。
*
「んあ……」
目が覚めた時、隣に頼寿はいなかった。
いつの間に眠ってしまったのか。窓からはさんさんと陽射しが差し込んでいて、だいぶ寝坊してしまったらしい。
涎を拭いながら身を起こすと、隣のリビングから声が聞こえた──頼寿と、三上会長の声だ。
会長が来ている。恐らくは秋津さんとの話し合いの結果を伝えに。
「か、会長っ……?」
慌ててパンツ一丁のままリビングに駆け込むと、紅茶を啜っていた会長が俺を見るなり泣きそうな顔になって言った。
「……玉雪……。済まなかったな、本当に……怖い思いをさせて申し訳なかった」
「だ、大丈夫ですよ。無事だったし、それに会長のせいじゃないです」
「いや、俺の責任だ。玉雪を見せびらかしたいがために、先方の提示した衣装をそのまま承諾してしまった」
「か、会長は悪くないです! そういうパーティーでもあったんだし、アイツが無礼だっただけで……」
「秋津社長と話をつけてきた。今後一切、あの男はお前に近付かない。その上で秋津グループとの契約を打切りに……」
一番恐れていたことが現実になってしまい、俺は焦って会長の隣へ腰を下ろした。その顔は一晩でだいぶやつれてしまっている。服も昨日のスーツだし、恐らく一睡もしていないのだろう。
「会長、この件は俺と良若の問題ですよ。秋津さんは良若に怒っていたし、悪い人じゃないんでしょ? 俺のために秋津さんと縁を切るつもりなら考え直してください。三上グループの不利益になるようなことはしないで」
「良若の後ろ盾である社長と仕事はできんよ。利益優先にして万が一また良若がお前に近付いたら……」
不安要素の排除。会長が言っているのはそういうことだ。……たかが俺のために。会長が寝ずに悩んでいる間、頼寿とセックスして浮かれていた俺なんかのために。
「会長」
ふいに、これまで黙っていた頼寿が会長のカップに新しい紅茶を注ぎながら言った。
「間に合うようなら秋津グループとの契約は続行すべきです。いや、一度切って新たに契約し直すと言うべきか」
「どういうことだ、頼寿?」
会長が力なく頼寿に視線を向ける。頼寿はいつもと変わらない涼し気な顔で、説明を続けた。
「今回の件で罰せられるべきは良若ですが、愛人の管理ができていなかった秋津氏にも責任があるでしょう。責任を取らせる意味でも、三上グループが優位に立てるような条件の契約を提示してみてはどうですか。向こうも大手三上グループに切られるのは痛手でしょうし、ある程度の条件なら飲むと思いますが」
「……ううむ……しかし関係を保ったままだと、玉雪の身の安全と精神的ケアが……」
俺と会長が座るソファの前まで来た頼寿が、その場で床に片膝をつく。
「あの件は俺が玉雪の傍を離れたことが原因でもあります。護衛を任されていた俺の責任です」
「いや、頼寿そんなことは──」
「二度と同じ失敗はしません。俺にチャンスを与えるためにも、──秋津氏と和解し再契約をお願いします」
「っ、……」
思わず息を飲んでしまった。
……何故ならお願いしているのに、頼寿のその目が猛獣のごとくギラついていたからだ。
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