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第15話 プール合宿開始!
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「ああ、疲れた……」
その日の夜九時頃になって、夕食後の食器洗いをしていたらダイニングに頼政さんがフラフラ入ってきた。
「頼政さんお疲れ様です。すいません俺達だけご飯を……」
「ああ、気にしないでくれ。俺はいつも食事の時間は決まってないんだ。……こいつは決まった時間に食べてるがな」
そう言って、頼政さんが抱いていたハーレーを床に下ろす。シンクの前に立つ俺の脚にまとわりついてくるハーレー……可愛い。
「だが、今日は腹が減ったな。俺も夕飯を食べるとしよう」
「あ、それならビーフシチューが残ってますから良かったら食べてください」
「凄いな、玉雪が作ったのか?」
「いえ、頼寿が」
「そうか……頼寿が」
まだ温かさの残っているシチューの鍋を覗き込みながら、頼政さんが口元を弛めて嬉しそうに笑った。よほど空腹なのだろうか。肉も野菜もたっぷりの美味いビーフシチューだ、無理もない。
「座っててくださいね。いま用意しますから」
「ありがとう、玉雪」
ここぞとばかりに気の利く男を装いながら、俺は新しい皿にシチューをよそった。ちなみに頼寿は俺のすぐ隣にいる。が、さっきから一言も話そうとしない。
「どうぞ」
「美味そうだ、頂くぞ頼寿」
「ん」
……愛想が悪い。まあそれでも頼政さんの分も余るほど多めに作ったということは、頼寿だって兄貴に食べてもらいたかったに違いない。
「うん、美味い。頼寿は子供の頃から料理が得意だったな」
「そうなんですかっ?」
「ああ。母親が料理下手だったもので、料理は父親と頼寿が担当していたんだ」
へえぇ、と思わず感心してしまう。子供の頃の頼寿なんて想像できなくて、何だか新鮮な気分だ。
「余計なこと言うなよ兄貴」
「料理もできて成績も優秀、女子からも大人気だった。俺の自慢の弟だったよ」
「そっかぁ……頼政さんと頼寿って、美男子兄弟で有名だったんだろうなぁ」
うっとりしながら妄想していると、頼政さんが突然真剣な顔になって「違うぞ」と俺に視線を向けた。
「俺なんかは頼寿の足元にも及ばない。外見も内面も……。俺も以前はステージに立つ身だったから分かるが、頼寿のプレイは他の追随を許さぬ完璧なショーだった。溶けるほど妖しく、恐ろしいほど美しい……俺がステージを降りたのは、弟に全てを託せると思ったからなんだ」
「……えっと」
「絵を描くようになったのも頼寿に刺激を受けたからなんだ。写真では表現できない頼寿の美しさを──」
「兄貴っ!」
頼寿がテーブルを拳で叩いた瞬間、頼政さんがビクリと体を震わせた。
「自重しろ」
「す、すまない頼寿。久しぶりに会えて嬉しくて、つい……」
溜息をつく頼寿に、スプーンを握ったまま慌てる頼政さん。
俺は何となく理解した。
頼寿がなぜ頼政さんに素っ気ないのか、なぜ頼政さんに構うなと言ったのか、なぜ俺を頼政さんから遠ざけたかったのか。
「……ああ、しかし相変わらず美しいな俺の弟は」
「まだ言うかてめえ」
「すまない、お前の顔を見て今日は昼間からインスピレーションが止まらないんだ。今夜は徹夜になるぞ、気合いを入れなければ!」
堂島頼政さん。
彼はきっと、極度のブラコンお兄さんなのだろう。
その日の夜九時頃になって、夕食後の食器洗いをしていたらダイニングに頼政さんがフラフラ入ってきた。
「頼政さんお疲れ様です。すいません俺達だけご飯を……」
「ああ、気にしないでくれ。俺はいつも食事の時間は決まってないんだ。……こいつは決まった時間に食べてるがな」
そう言って、頼政さんが抱いていたハーレーを床に下ろす。シンクの前に立つ俺の脚にまとわりついてくるハーレー……可愛い。
「だが、今日は腹が減ったな。俺も夕飯を食べるとしよう」
「あ、それならビーフシチューが残ってますから良かったら食べてください」
「凄いな、玉雪が作ったのか?」
「いえ、頼寿が」
「そうか……頼寿が」
まだ温かさの残っているシチューの鍋を覗き込みながら、頼政さんが口元を弛めて嬉しそうに笑った。よほど空腹なのだろうか。肉も野菜もたっぷりの美味いビーフシチューだ、無理もない。
「座っててくださいね。いま用意しますから」
「ありがとう、玉雪」
ここぞとばかりに気の利く男を装いながら、俺は新しい皿にシチューをよそった。ちなみに頼寿は俺のすぐ隣にいる。が、さっきから一言も話そうとしない。
「どうぞ」
「美味そうだ、頂くぞ頼寿」
「ん」
……愛想が悪い。まあそれでも頼政さんの分も余るほど多めに作ったということは、頼寿だって兄貴に食べてもらいたかったに違いない。
「うん、美味い。頼寿は子供の頃から料理が得意だったな」
「そうなんですかっ?」
「ああ。母親が料理下手だったもので、料理は父親と頼寿が担当していたんだ」
へえぇ、と思わず感心してしまう。子供の頃の頼寿なんて想像できなくて、何だか新鮮な気分だ。
「余計なこと言うなよ兄貴」
「料理もできて成績も優秀、女子からも大人気だった。俺の自慢の弟だったよ」
「そっかぁ……頼政さんと頼寿って、美男子兄弟で有名だったんだろうなぁ」
うっとりしながら妄想していると、頼政さんが突然真剣な顔になって「違うぞ」と俺に視線を向けた。
「俺なんかは頼寿の足元にも及ばない。外見も内面も……。俺も以前はステージに立つ身だったから分かるが、頼寿のプレイは他の追随を許さぬ完璧なショーだった。溶けるほど妖しく、恐ろしいほど美しい……俺がステージを降りたのは、弟に全てを託せると思ったからなんだ」
「……えっと」
「絵を描くようになったのも頼寿に刺激を受けたからなんだ。写真では表現できない頼寿の美しさを──」
「兄貴っ!」
頼寿がテーブルを拳で叩いた瞬間、頼政さんがビクリと体を震わせた。
「自重しろ」
「す、すまない頼寿。久しぶりに会えて嬉しくて、つい……」
溜息をつく頼寿に、スプーンを握ったまま慌てる頼政さん。
俺は何となく理解した。
頼寿がなぜ頼政さんに素っ気ないのか、なぜ頼政さんに構うなと言ったのか、なぜ俺を頼政さんから遠ざけたかったのか。
「……ああ、しかし相変わらず美しいな俺の弟は」
「まだ言うかてめえ」
「すまない、お前の顔を見て今日は昼間からインスピレーションが止まらないんだ。今夜は徹夜になるぞ、気合いを入れなければ!」
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彼はきっと、極度のブラコンお兄さんなのだろう。
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