鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ

文字の大きさ
4 / 27

ひだまりのような部屋

しおりを挟む
 鈴木兄弟の住む一軒家に到着し、和葉が玄関の扉を開けると、すらりとした長身の女性が奥から現れた。

「おかえり」
 彼女は和葉と彩葉に声をかけた後
「初めまして、渡辺梨花です」
 と挨拶しながら智樹の顔をまじまじと見つめ
「ふーん、ずいぶん幸薄さちうすそうな顔してる人だね」
 と言い放った。

 呆気あっけに取られて言葉を失っている智樹の代わりに、彩葉がトゲのある声で梨花をなじる。

「お前、初対面の相手にそんなこと言うなよ。失礼過ぎるだろ」

「そう? 人のこと『お前』って呼ぶ彩葉の方がよっぽど失礼だと思うけど」

「はあ?」

 険悪な雰囲気をかもし出す二人の間に、和葉が割って入る。

「二人ともやめてくれ。智樹くんが困ってるだろ。彩葉、智樹くんに使ってもらう部屋を案内してあげて。俺と梨花は向こうでお茶の用意をしとくから」

 彩葉は返事もせずに靴を脱ぎ、廊下を進んで行く。

「どうぞ、智樹くんも上がって」
 和葉に促され
「お邪魔します」
 と言いながら靴を脱いで揃え、智樹は彩葉の後を追った。

 階段を上がると扉が三つあり、そのうちの一つを開けながら彩葉が振り返る。

「ここだよ。どうぞ入って」

 言われるままに部屋の中へ足を踏み入れると、ほこりっぽい匂いがした。

 彩葉は窓を開け、壁際に置かれたベッドに腰を下ろした。マットレスから舞い上がった細かなちりが、窓から差し込む光の中で踊る。

「そのベッドって……」
 智樹が最後まで言い終わらないうちに、彩葉が口を開く。
「前に住んでた奴が置いてった。そいつ、俺の元彼でさ。新しい彼氏と暮らすからって出て行ったんだよね」

「元カレ?」
 思わず聞き返すと
「そう、元彼。俺、ゲイだから」
 彩葉は涼しい顔で答える。


 ということは、このベッドで前の住人と彩葉は……。


 うろたえる智樹を見て、彩葉が笑い出す。

「嘘だよ、元彼じゃない。ただの同居人。結婚することになって出ていったんだけど、『ダブルベッド買うからこのベッド捨てといてくれ』って頼まれたんだ。でも、粗大ゴミに出すのが面倒でさ。もし良かったら使ってよ」

 冗談だったと分かり、智樹が安堵したのも束の間、彩葉は悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべながらこう付け加えた。

「まぁ、俺がゲイっていうのは本当だけどね」

 再び顔を強張こわばらせる智樹に、彩葉が真面目な表情で尋ねる。

「ゲイとの同居は無理? 言っておくけど、俺は好きな人がいるから他の男には興味が無いし、今までの同居人に対しても友達以上の感情を抱いたことはない。それでもゲイと暮らすなんて無理だと思うなら、仕方ないけど……」

 彩葉の表情が、かげる。
 それを見た智樹は、胸に痛みを覚えた。


 黙っておくことだって、出来たのだ。
 カミングアウトぜずに秘密にしておけば、お互いに気まずい思いをすることもなく、すんなりと話はまとまっていただろう。
 でも、彩葉はそうしなかった。
 出会ったばかりの相手に対しても、正直に、誠実に向き合おうとしている。

 僕はこういう人間が、人として、とても好きだ。


 智樹は彩葉の目を見つめながら、きっぱりと宣言した。
「無理じゃない。全然、問題ない」
 それから、こう続けた。
「このベッドも、ありがたく使わせてもらうよ。今までずっと布団で寝る生活だったから、ベッドのある部屋って憧れだったんだよね」

 智樹の言葉に、彩葉が目を細める。
「何それ、子供みたい」
 ぶっきらぼうだけど、優しい声だった。

 穏やかな午後の日差しに包まれた、ひだまりのような部屋の中。
 やわらかな笑顔を浮かべる彩葉の姿が、なんだかやけに眩しく感じられて、智樹は思わず目を伏せた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

先輩のことが好きなのに、

未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。 何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?   切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。 《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。 要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。 陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。 夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。 5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。

処理中です...