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ひだまりのような部屋
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鈴木兄弟の住む一軒家に到着し、和葉が玄関の扉を開けると、すらりとした長身の女性が奥から現れた。
「おかえり」
彼女は和葉と彩葉に声をかけた後
「初めまして、渡辺梨花です」
と挨拶しながら智樹の顔をまじまじと見つめ
「ふーん、ずいぶん幸薄そうな顔してる人だね」
と言い放った。
呆気に取られて言葉を失っている智樹の代わりに、彩葉がトゲのある声で梨花をなじる。
「お前、初対面の相手にそんなこと言うなよ。失礼過ぎるだろ」
「そう? 人のこと『お前』って呼ぶ彩葉の方がよっぽど失礼だと思うけど」
「はあ?」
険悪な雰囲気を醸し出す二人の間に、和葉が割って入る。
「二人ともやめてくれ。智樹くんが困ってるだろ。彩葉、智樹くんに使ってもらう部屋を案内してあげて。俺と梨花は向こうでお茶の用意をしとくから」
彩葉は返事もせずに靴を脱ぎ、廊下を進んで行く。
「どうぞ、智樹くんも上がって」
和葉に促され
「お邪魔します」
と言いながら靴を脱いで揃え、智樹は彩葉の後を追った。
階段を上がると扉が三つあり、そのうちの一つを開けながら彩葉が振り返る。
「ここだよ。どうぞ入って」
言われるままに部屋の中へ足を踏み入れると、埃っぽい匂いがした。
彩葉は窓を開け、壁際に置かれたベッドに腰を下ろした。マットレスから舞い上がった細かな塵が、窓から差し込む光の中で踊る。
「そのベッドって……」
智樹が最後まで言い終わらないうちに、彩葉が口を開く。
「前に住んでた奴が置いてった。そいつ、俺の元彼でさ。新しい彼氏と暮らすからって出て行ったんだよね」
「元カレ?」
思わず聞き返すと
「そう、元彼。俺、ゲイだから」
彩葉は涼しい顔で答える。
ということは、このベッドで前の住人と彩葉は……。
うろたえる智樹を見て、彩葉が笑い出す。
「嘘だよ、元彼じゃない。ただの同居人。結婚することになって出ていったんだけど、『ダブルベッド買うからこのベッド捨てといてくれ』って頼まれたんだ。でも、粗大ゴミに出すのが面倒でさ。もし良かったら使ってよ」
冗談だったと分かり、智樹が安堵したのも束の間、彩葉は悪戯っぽい笑みを浮かべながらこう付け加えた。
「まぁ、俺がゲイっていうのは本当だけどね」
再び顔を強張らせる智樹に、彩葉が真面目な表情で尋ねる。
「ゲイとの同居は無理? 言っておくけど、俺は好きな人がいるから他の男には興味が無いし、今までの同居人に対しても友達以上の感情を抱いたことはない。それでもゲイと暮らすなんて無理だと思うなら、仕方ないけど……」
彩葉の表情が、翳る。
それを見た智樹は、胸に痛みを覚えた。
黙っておくことだって、出来たのだ。
カミングアウトぜずに秘密にしておけば、お互いに気まずい思いをすることもなく、すんなりと話はまとまっていただろう。
でも、彩葉はそうしなかった。
出会ったばかりの相手に対しても、正直に、誠実に向き合おうとしている。
僕はこういう人間が、人として、とても好きだ。
智樹は彩葉の目を見つめながら、きっぱりと宣言した。
「無理じゃない。全然、問題ない」
それから、こう続けた。
「このベッドも、ありがたく使わせてもらうよ。今までずっと布団で寝る生活だったから、ベッドのある部屋って憧れだったんだよね」
智樹の言葉に、彩葉が目を細める。
「何それ、子供みたい」
ぶっきらぼうだけど、優しい声だった。
穏やかな午後の日差しに包まれた、ひだまりのような部屋の中。
やわらかな笑顔を浮かべる彩葉の姿が、なんだかやけに眩しく感じられて、智樹は思わず目を伏せた。
「おかえり」
彼女は和葉と彩葉に声をかけた後
「初めまして、渡辺梨花です」
と挨拶しながら智樹の顔をまじまじと見つめ
「ふーん、ずいぶん幸薄そうな顔してる人だね」
と言い放った。
呆気に取られて言葉を失っている智樹の代わりに、彩葉がトゲのある声で梨花をなじる。
「お前、初対面の相手にそんなこと言うなよ。失礼過ぎるだろ」
「そう? 人のこと『お前』って呼ぶ彩葉の方がよっぽど失礼だと思うけど」
「はあ?」
険悪な雰囲気を醸し出す二人の間に、和葉が割って入る。
「二人ともやめてくれ。智樹くんが困ってるだろ。彩葉、智樹くんに使ってもらう部屋を案内してあげて。俺と梨花は向こうでお茶の用意をしとくから」
彩葉は返事もせずに靴を脱ぎ、廊下を進んで行く。
「どうぞ、智樹くんも上がって」
和葉に促され
「お邪魔します」
と言いながら靴を脱いで揃え、智樹は彩葉の後を追った。
階段を上がると扉が三つあり、そのうちの一つを開けながら彩葉が振り返る。
「ここだよ。どうぞ入って」
言われるままに部屋の中へ足を踏み入れると、埃っぽい匂いがした。
彩葉は窓を開け、壁際に置かれたベッドに腰を下ろした。マットレスから舞い上がった細かな塵が、窓から差し込む光の中で踊る。
「そのベッドって……」
智樹が最後まで言い終わらないうちに、彩葉が口を開く。
「前に住んでた奴が置いてった。そいつ、俺の元彼でさ。新しい彼氏と暮らすからって出て行ったんだよね」
「元カレ?」
思わず聞き返すと
「そう、元彼。俺、ゲイだから」
彩葉は涼しい顔で答える。
ということは、このベッドで前の住人と彩葉は……。
うろたえる智樹を見て、彩葉が笑い出す。
「嘘だよ、元彼じゃない。ただの同居人。結婚することになって出ていったんだけど、『ダブルベッド買うからこのベッド捨てといてくれ』って頼まれたんだ。でも、粗大ゴミに出すのが面倒でさ。もし良かったら使ってよ」
冗談だったと分かり、智樹が安堵したのも束の間、彩葉は悪戯っぽい笑みを浮かべながらこう付け加えた。
「まぁ、俺がゲイっていうのは本当だけどね」
再び顔を強張らせる智樹に、彩葉が真面目な表情で尋ねる。
「ゲイとの同居は無理? 言っておくけど、俺は好きな人がいるから他の男には興味が無いし、今までの同居人に対しても友達以上の感情を抱いたことはない。それでもゲイと暮らすなんて無理だと思うなら、仕方ないけど……」
彩葉の表情が、翳る。
それを見た智樹は、胸に痛みを覚えた。
黙っておくことだって、出来たのだ。
カミングアウトぜずに秘密にしておけば、お互いに気まずい思いをすることもなく、すんなりと話はまとまっていただろう。
でも、彩葉はそうしなかった。
出会ったばかりの相手に対しても、正直に、誠実に向き合おうとしている。
僕はこういう人間が、人として、とても好きだ。
智樹は彩葉の目を見つめながら、きっぱりと宣言した。
「無理じゃない。全然、問題ない」
それから、こう続けた。
「このベッドも、ありがたく使わせてもらうよ。今までずっと布団で寝る生活だったから、ベッドのある部屋って憧れだったんだよね」
智樹の言葉に、彩葉が目を細める。
「何それ、子供みたい」
ぶっきらぼうだけど、優しい声だった。
穏やかな午後の日差しに包まれた、ひだまりのような部屋の中。
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