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似たもの同士
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彩葉の部屋の片付けを手伝った後、昼食を挟んで水回りの掃除にとりかかり、乾燥機から取り出した洗濯物を畳み終えた頃には、午後三時をまわっていた。
急いで干していた布団を取り込み、彩葉の部屋へ持って行きがてら、スーパーの場所を尋ねる。
「そろそろ夕飯の買い物に行こうと思うんだけど、この辺にスーパーってある?」
智樹の問いかけに、パソコンに向かっていた彩葉は顔を上げた。
「買い物に行くの? 俺も一緒に行こうかな」
「えっ、でも仕事中でしょ?」
「キリのいいところまで書き終わったから大丈夫。締め切りまでまだ余裕あるし」
そう言って立ち上がると、彩葉は大きく伸びをした。
細くしなやかな体躯に妙な色気を感じて、智樹は慌てて目を逸らす。
「それじゃ、下で待ってる」
廊下に出て、深呼吸をする。
どうしてこんなにも彩葉のことを意識してしまうのか、自分でもよく分からない。
智樹は、自分の部屋から財布とトートバッグを持ってきて玄関へと向かう。
靴を履いて待っていると、やけに大きなリュックを背負った彩葉が階段を降りてきた。
「なにそれ、山登りでもするの?」
「そんなわけないだろ。ビールを箱買いするんだよ」
「それなら自転車に乗って行けば?」
「それじゃトレーニングにならないだろ」
「トレーニング?」
「ずっと座って仕事してると運動不足になるから、外に出る時はなるべく歩くようにしてるんだよ。ランニングするのはハードルが高いけど、ウォーキングなら無理なくできるし」
彩葉は話しながらスニーカーを履き、玄関の扉を開けた。智樹も一緒に外へ出て、鍵を閉める。
歩きながら、彩葉は目に入るさまざまなものについて喋り続けた。
「あそこの公園は、秋になるとドングリがたくさん拾えるんだ」
「あのパン屋、見かけは古臭いけど惣菜パンが美味しいんだよ」
「ここの家の犬、やたら人懐っこくてさ。通りすがりの人みんなに尻尾ふるんだよね。それがまた可愛くって!」
「あっ、ヒガンバナが咲いてる。俺、この花好きなんだよなぁ。でもさ、球根には毒があるらしいよ」
智樹が相槌を打ちながら耳を傾けていると、彩葉は途中でハッと気付いたように
「俺、さっきから一人で喋り過ぎだね。ごめん」
と口を閉ざしてしまった。
智樹は彩葉の話を聞いているのが楽しかったので
「大丈夫だよ。むしろ、もっといろいろ聞きたい」
と伝えたが、彩葉は半信半疑の様子で智樹の顔色を窺っている。
「でもさ、嫌じゃない?」
「なんで?」
「会話っていうより、俺が一方的に話してるだけだから、聞いてるだけだとつまらないんじゃないかなと思って」
「僕は話すより聞く方が好きだから、楽しいよ」
「智樹って変わってるね」
「そうかな。彩葉の方こそ、僕みたいにあまり喋らない相手だと、つまらないんじゃない?」
「俺は聞くより話す方が好きだし、智樹と一緒にいるのは、すげー楽しい」
彩葉から“一緒にいると楽しい”と言ってもらえたことに、心が浮き立つ。
こんな日々が、ずっと続けばいいな。
安心したように再び話し出す彩葉の横顔を見ながら、智樹はそんなふうに考えていた。
スーパーで買い物を済ませた帰り道、行きとは打って変わって、彩葉は無口になってしまった。
その理由はたぶん、背負ったリュックの中身が重すぎるからだ。
足を動かすのが精一杯で、喋る余裕など無いのだろう。
荒い息を吐きながら、黙々と歩いている。
「あのさ、かなり辛そうだから荷物を交換しない?」
という智樹の申し出を
「大丈夫。これもトレーニングだから」
と断って、彩葉は口を引き結んだ。
本人がそう言うなら……と引き下がろうとしたが、やはりどうしても気になってしまう。
少しでも彩葉の負担が軽くなるように、智樹は背後へ回ってリュックの底を持ち上げた。
「あっ、めちゃくちゃ軽くなった!」
智樹の方を振り返りながら、彩葉が無邪気な笑顔を見せる。
「余計なお世話かもしれないけど、手伝わせてよ」
智樹が言うと
「さすが、世話焼きのオカン」
と彩葉が茶化す。
それから、弾んだ声でこう続けた。
「さっきは智樹に迷惑をかけるのが嫌で断ったけど、本当は結構キツかったから、手伝ってくれて助かるよ。ありがとう」
お礼を言われて、智樹は胸を撫で下ろす。
「よかった。お節介なことして迷惑だったかなって、心配だったから……」
智樹の言葉に、彩葉がはにかむ。
「そっか、俺達どっちも『相手に迷惑かけたくない』って考えるタイプなんだね。似たもの同士じゃん」
“似たもの同士”と言われて、なんだか嬉しい気持ちになる。
だが、そのすぐ後に
「智樹とは、ずっと仲の良い友達でいられそう」
と彩葉から告げられて、喜びは切なさへと変わる。
友達。
そりゃそうだ、彩葉には好きな人がいるんだから。
僕に対して、特別な感情を抱くわけがない。
「そうだね、僕も彩葉とは仲良くやってけそうだなって思うよ。これからもよろしくね」
智樹は芽生えかけた淡い想いを心の奥底に閉じ込め、気持ちを悟られることがないように、出来る限り明るい声で答えた。
急いで干していた布団を取り込み、彩葉の部屋へ持って行きがてら、スーパーの場所を尋ねる。
「そろそろ夕飯の買い物に行こうと思うんだけど、この辺にスーパーってある?」
智樹の問いかけに、パソコンに向かっていた彩葉は顔を上げた。
「買い物に行くの? 俺も一緒に行こうかな」
「えっ、でも仕事中でしょ?」
「キリのいいところまで書き終わったから大丈夫。締め切りまでまだ余裕あるし」
そう言って立ち上がると、彩葉は大きく伸びをした。
細くしなやかな体躯に妙な色気を感じて、智樹は慌てて目を逸らす。
「それじゃ、下で待ってる」
廊下に出て、深呼吸をする。
どうしてこんなにも彩葉のことを意識してしまうのか、自分でもよく分からない。
智樹は、自分の部屋から財布とトートバッグを持ってきて玄関へと向かう。
靴を履いて待っていると、やけに大きなリュックを背負った彩葉が階段を降りてきた。
「なにそれ、山登りでもするの?」
「そんなわけないだろ。ビールを箱買いするんだよ」
「それなら自転車に乗って行けば?」
「それじゃトレーニングにならないだろ」
「トレーニング?」
「ずっと座って仕事してると運動不足になるから、外に出る時はなるべく歩くようにしてるんだよ。ランニングするのはハードルが高いけど、ウォーキングなら無理なくできるし」
彩葉は話しながらスニーカーを履き、玄関の扉を開けた。智樹も一緒に外へ出て、鍵を閉める。
歩きながら、彩葉は目に入るさまざまなものについて喋り続けた。
「あそこの公園は、秋になるとドングリがたくさん拾えるんだ」
「あのパン屋、見かけは古臭いけど惣菜パンが美味しいんだよ」
「ここの家の犬、やたら人懐っこくてさ。通りすがりの人みんなに尻尾ふるんだよね。それがまた可愛くって!」
「あっ、ヒガンバナが咲いてる。俺、この花好きなんだよなぁ。でもさ、球根には毒があるらしいよ」
智樹が相槌を打ちながら耳を傾けていると、彩葉は途中でハッと気付いたように
「俺、さっきから一人で喋り過ぎだね。ごめん」
と口を閉ざしてしまった。
智樹は彩葉の話を聞いているのが楽しかったので
「大丈夫だよ。むしろ、もっといろいろ聞きたい」
と伝えたが、彩葉は半信半疑の様子で智樹の顔色を窺っている。
「でもさ、嫌じゃない?」
「なんで?」
「会話っていうより、俺が一方的に話してるだけだから、聞いてるだけだとつまらないんじゃないかなと思って」
「僕は話すより聞く方が好きだから、楽しいよ」
「智樹って変わってるね」
「そうかな。彩葉の方こそ、僕みたいにあまり喋らない相手だと、つまらないんじゃない?」
「俺は聞くより話す方が好きだし、智樹と一緒にいるのは、すげー楽しい」
彩葉から“一緒にいると楽しい”と言ってもらえたことに、心が浮き立つ。
こんな日々が、ずっと続けばいいな。
安心したように再び話し出す彩葉の横顔を見ながら、智樹はそんなふうに考えていた。
スーパーで買い物を済ませた帰り道、行きとは打って変わって、彩葉は無口になってしまった。
その理由はたぶん、背負ったリュックの中身が重すぎるからだ。
足を動かすのが精一杯で、喋る余裕など無いのだろう。
荒い息を吐きながら、黙々と歩いている。
「あのさ、かなり辛そうだから荷物を交換しない?」
という智樹の申し出を
「大丈夫。これもトレーニングだから」
と断って、彩葉は口を引き結んだ。
本人がそう言うなら……と引き下がろうとしたが、やはりどうしても気になってしまう。
少しでも彩葉の負担が軽くなるように、智樹は背後へ回ってリュックの底を持ち上げた。
「あっ、めちゃくちゃ軽くなった!」
智樹の方を振り返りながら、彩葉が無邪気な笑顔を見せる。
「余計なお世話かもしれないけど、手伝わせてよ」
智樹が言うと
「さすが、世話焼きのオカン」
と彩葉が茶化す。
それから、弾んだ声でこう続けた。
「さっきは智樹に迷惑をかけるのが嫌で断ったけど、本当は結構キツかったから、手伝ってくれて助かるよ。ありがとう」
お礼を言われて、智樹は胸を撫で下ろす。
「よかった。お節介なことして迷惑だったかなって、心配だったから……」
智樹の言葉に、彩葉がはにかむ。
「そっか、俺達どっちも『相手に迷惑かけたくない』って考えるタイプなんだね。似たもの同士じゃん」
“似たもの同士”と言われて、なんだか嬉しい気持ちになる。
だが、そのすぐ後に
「智樹とは、ずっと仲の良い友達でいられそう」
と彩葉から告げられて、喜びは切なさへと変わる。
友達。
そりゃそうだ、彩葉には好きな人がいるんだから。
僕に対して、特別な感情を抱くわけがない。
「そうだね、僕も彩葉とは仲良くやってけそうだなって思うよ。これからもよろしくね」
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