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告白
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思いきり抱きしめてしまった日の翌朝、彩葉の態度は驚くほど普通だった。
意識しているのは智樹だけのようで、彩葉は何事も無かったかのように朝食を食べ、執筆作業に勤しみ、昼食の後は買い物にまで付き合ってくれた。
昨夜のことを、何も覚えていないのだろうか。
それとも、覚えているからこそ普段通りに振る舞って、『智樹の気持ちに応えることは出来ない』という意思表示をしているのだろうか。
一人で悶々と悩みながら夕飯を作っていると、彩葉がキッチンに入ってきて冷蔵庫を開けた。
中からお茶のペットボトルを取り出し、すれ違いざまに智樹の首元へと当てる。
ひんやりとした感触に驚いて
「うわっ」
と声を上げると、彩葉がおかしそうに笑い出した。
「料理中にやめろよ! 危ないだろ!」
智樹が注意すると
「やっといつも通りの反応になったね。さっきまでずっと上の空だったから、どうしたのかなと思って」
と返された。
智樹が言葉に詰まっていると、彩葉はリビングに移動してソファへ座り、キッチンのカウンター越しに話を続けた。
「昨日さ、田中さんから智樹の話を色々と聞いちゃった」
「……どんな話?」
「たとえば『本人は運が悪いけど、一緒にいると何故か周りの人間は運が良くなる』っていう話とか、『おとなしい女の子から好かれやすいけど、いざ付き合い始めると毎回速攻で別れちゃう』っていう話とか」
「……別れるっていうか、振られちゃうんだよ。いつも相手から『別れたい』って言われる」
「なんで?」
「なんか……重くてウザいらしい。マメに連絡しちゃうし、デートの日に弁当を作って持って行ったり、クッキーを焼いてプレゼントしたり……そういうことするから、嫌なんだと思う。服のボタンが取れかけてるのを見て、『付け直してあげるよ』ってソーイングセットを取り出したらドン引きされたこともあるし」
智樹の話に、彩葉が笑い転げる。
「何それ、最高じゃん。そいつら見る目が無いなぁ。俺が女だったら、智樹みたいな相手と結婚して一生面倒を見てもらうのに」
冗談だと分かっていても、そんなふうに言われたら嬉しくなってしまう。
昨夜の熱い感情が、再び胸の奥から込み上げてきた。
「男でも……彩葉のことなら、一生面倒見たいって思うよ」
言いながら、智樹の声が震える。
彩葉は、笑うのをやめて真顔になった。
「どういう意味? 俺のこと、からかってんの?」
「違う。からかってなんかいない」
「じゃあ、なんなんだよ。昨日の夜だって、あんなことしてきて……」
「覚えてたんだ。酔い潰れてたから、記憶に無いのかと思った」
「あんなことされたら、酔いも醒めるだろ」
「ごめん」
「……謝るくらいなら、最初からするなよ」
「本当にごめん。これからは気を付ける。でも、からかったわけじゃない」
智樹は、意を決して想いを口にする。
「彩葉のこと、好きなんだ」
今まで生きてきた中で、一番緊張した瞬間だった。
智樹は、言葉を続ける。
「今まで男の人を好きになったことは無いし、この気持ちが何なのか、最初は自分でもよく分からなかった。でも今は、これが恋愛感情だってハッキリ分かる。彩葉が和葉さんのことを好きでも構わない。彩葉のそばにいたいんだ」
智樹の告白を受けて、彩葉は戸惑いの表情を浮かべた。
「なんで俺なの? 男だし、今までに智樹が付き合ってきたような、おとなしいタイプってわけでもないじゃん。好きになる要素なんて、なくない?」
「僕は別に、おとなしい子が好きってわけじゃないよ」
「じゃあ、なんで? 世話好きだから? だらしなくて手のかかる俺を放って置けなくて、面倒見てやらなくちゃって思うの?」
「……あのさ、僕だって誰彼かまわず世話を焼くわけじゃないよ。もし僕のことを都合よく利用するような相手だったら、絶対に手は貸さない。ひたむきで、自分の気持ちよりも相手の気持ちを尊重して、損ばっかりしているような……そういう相手だからこそ、力になりたいって思うんだよ」
「でも、その“力になりたい”って気持ちと恋愛感情って、全然違うものじゃない?」
「そうだね。彩葉以外の人達に対しては、恋愛感情で動いてるわけじゃなくて、友情とか尊敬とか、そういう感情で動いているんだと思う」
「……なんで俺のことだけは恋愛感情だって分かるの?」
「だって……彩葉と一緒にいると、わけもなく幸せな気持ちになるから。時々、苦しくなることもあるけどね。でもそのたびに、こんなに苦しいのは好きだからなんだなって実感する」
そこまで話したところで、火にかけていた味噌汁が吹きこぼれそうになり、智樹は慌てて火を止めに行く。
間に合って良かったと一息ついていると、彩葉がキッチンに入ってきた。
「ごめん、俺——」
彩葉の言葉を、智樹が途中で遮る。
「分かってる。可能性がゼロなら諦めるし、出て行ってほしいならそうする。だけど、もし少しでも可能性があるなら、頑張ってみてもいい?」
「頑張るって……何を?」
「好きになってもらえるように、一緒に出かけたりご飯を食べに行ったりして、お互いをもっと知れたらなって」
「いつも一緒に飯食ってるし、今日だって二人でスーパーに行ったじゃん」
「そういうのじゃなくて、もっとこう……デートっぽい雰囲気でってことだよ。何回かそうやって二人で遊びに行って、その上で僕のことを恋愛対象として見られるかどうか、もう一度考えて欲しいんだ」
智樹の提案を聞いた彩葉は、黙って考え込んでいる。
そしてしばらく悩んだ後、ようやく口を開いた。
「分かった。やってみる。でも、もし智樹の気持ちに応えられなかったとしても、この家から出て行かないで欲しい。俺から追い出すようなことは絶対にしないから、できれば家政夫を続けてくれると嬉しい」
「……振られた後も、この家に居ていいってこと?」
智樹が尋ねると
「うん。智樹さえ嫌じゃなければ」
彩葉は優しい声で答える。
振られたとしても彩葉のそばに居られると分かり、智樹は安堵の息をつく。
でも、できることなら彩葉の気持ちを自分に向けさせて、恋愛対象として見てもらえるようになりたい。
智樹は、早速頭の中で彩葉とのデートプランを練り始めた。
意識しているのは智樹だけのようで、彩葉は何事も無かったかのように朝食を食べ、執筆作業に勤しみ、昼食の後は買い物にまで付き合ってくれた。
昨夜のことを、何も覚えていないのだろうか。
それとも、覚えているからこそ普段通りに振る舞って、『智樹の気持ちに応えることは出来ない』という意思表示をしているのだろうか。
一人で悶々と悩みながら夕飯を作っていると、彩葉がキッチンに入ってきて冷蔵庫を開けた。
中からお茶のペットボトルを取り出し、すれ違いざまに智樹の首元へと当てる。
ひんやりとした感触に驚いて
「うわっ」
と声を上げると、彩葉がおかしそうに笑い出した。
「料理中にやめろよ! 危ないだろ!」
智樹が注意すると
「やっといつも通りの反応になったね。さっきまでずっと上の空だったから、どうしたのかなと思って」
と返された。
智樹が言葉に詰まっていると、彩葉はリビングに移動してソファへ座り、キッチンのカウンター越しに話を続けた。
「昨日さ、田中さんから智樹の話を色々と聞いちゃった」
「……どんな話?」
「たとえば『本人は運が悪いけど、一緒にいると何故か周りの人間は運が良くなる』っていう話とか、『おとなしい女の子から好かれやすいけど、いざ付き合い始めると毎回速攻で別れちゃう』っていう話とか」
「……別れるっていうか、振られちゃうんだよ。いつも相手から『別れたい』って言われる」
「なんで?」
「なんか……重くてウザいらしい。マメに連絡しちゃうし、デートの日に弁当を作って持って行ったり、クッキーを焼いてプレゼントしたり……そういうことするから、嫌なんだと思う。服のボタンが取れかけてるのを見て、『付け直してあげるよ』ってソーイングセットを取り出したらドン引きされたこともあるし」
智樹の話に、彩葉が笑い転げる。
「何それ、最高じゃん。そいつら見る目が無いなぁ。俺が女だったら、智樹みたいな相手と結婚して一生面倒を見てもらうのに」
冗談だと分かっていても、そんなふうに言われたら嬉しくなってしまう。
昨夜の熱い感情が、再び胸の奥から込み上げてきた。
「男でも……彩葉のことなら、一生面倒見たいって思うよ」
言いながら、智樹の声が震える。
彩葉は、笑うのをやめて真顔になった。
「どういう意味? 俺のこと、からかってんの?」
「違う。からかってなんかいない」
「じゃあ、なんなんだよ。昨日の夜だって、あんなことしてきて……」
「覚えてたんだ。酔い潰れてたから、記憶に無いのかと思った」
「あんなことされたら、酔いも醒めるだろ」
「ごめん」
「……謝るくらいなら、最初からするなよ」
「本当にごめん。これからは気を付ける。でも、からかったわけじゃない」
智樹は、意を決して想いを口にする。
「彩葉のこと、好きなんだ」
今まで生きてきた中で、一番緊張した瞬間だった。
智樹は、言葉を続ける。
「今まで男の人を好きになったことは無いし、この気持ちが何なのか、最初は自分でもよく分からなかった。でも今は、これが恋愛感情だってハッキリ分かる。彩葉が和葉さんのことを好きでも構わない。彩葉のそばにいたいんだ」
智樹の告白を受けて、彩葉は戸惑いの表情を浮かべた。
「なんで俺なの? 男だし、今までに智樹が付き合ってきたような、おとなしいタイプってわけでもないじゃん。好きになる要素なんて、なくない?」
「僕は別に、おとなしい子が好きってわけじゃないよ」
「じゃあ、なんで? 世話好きだから? だらしなくて手のかかる俺を放って置けなくて、面倒見てやらなくちゃって思うの?」
「……あのさ、僕だって誰彼かまわず世話を焼くわけじゃないよ。もし僕のことを都合よく利用するような相手だったら、絶対に手は貸さない。ひたむきで、自分の気持ちよりも相手の気持ちを尊重して、損ばっかりしているような……そういう相手だからこそ、力になりたいって思うんだよ」
「でも、その“力になりたい”って気持ちと恋愛感情って、全然違うものじゃない?」
「そうだね。彩葉以外の人達に対しては、恋愛感情で動いてるわけじゃなくて、友情とか尊敬とか、そういう感情で動いているんだと思う」
「……なんで俺のことだけは恋愛感情だって分かるの?」
「だって……彩葉と一緒にいると、わけもなく幸せな気持ちになるから。時々、苦しくなることもあるけどね。でもそのたびに、こんなに苦しいのは好きだからなんだなって実感する」
そこまで話したところで、火にかけていた味噌汁が吹きこぼれそうになり、智樹は慌てて火を止めに行く。
間に合って良かったと一息ついていると、彩葉がキッチンに入ってきた。
「ごめん、俺——」
彩葉の言葉を、智樹が途中で遮る。
「分かってる。可能性がゼロなら諦めるし、出て行ってほしいならそうする。だけど、もし少しでも可能性があるなら、頑張ってみてもいい?」
「頑張るって……何を?」
「好きになってもらえるように、一緒に出かけたりご飯を食べに行ったりして、お互いをもっと知れたらなって」
「いつも一緒に飯食ってるし、今日だって二人でスーパーに行ったじゃん」
「そういうのじゃなくて、もっとこう……デートっぽい雰囲気でってことだよ。何回かそうやって二人で遊びに行って、その上で僕のことを恋愛対象として見られるかどうか、もう一度考えて欲しいんだ」
智樹の提案を聞いた彩葉は、黙って考え込んでいる。
そしてしばらく悩んだ後、ようやく口を開いた。
「分かった。やってみる。でも、もし智樹の気持ちに応えられなかったとしても、この家から出て行かないで欲しい。俺から追い出すようなことは絶対にしないから、できれば家政夫を続けてくれると嬉しい」
「……振られた後も、この家に居ていいってこと?」
智樹が尋ねると
「うん。智樹さえ嫌じゃなければ」
彩葉は優しい声で答える。
振られたとしても彩葉のそばに居られると分かり、智樹は安堵の息をつく。
でも、できることなら彩葉の気持ちを自分に向けさせて、恋愛対象として見てもらえるようになりたい。
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