鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ

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おみくじ

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 彩葉いろはとの初デートに備えて、智樹ともきはリサーチを開始した。
 まずは、彩葉のことを一番良く知っているであろう和葉かずはに尋ねてみる。

「彩葉を連れて行ったら喜びそうな場所? うーん、そうだなぁ。本が好きだから図書館とか? あとは美術館とか博物館なんかもよく行くみたいだし、子供の頃は動物園が大好きだったよ。他にどこかあるかな……あっ、うちのホテルと提携してるテーマパークはどう? 父さんと母さんが生きてた頃に家族で行ったことがあるんだけど、楽しそうにしてたよ。連れて行ってあげたら喜ぶんじゃないかな」

 和葉のおかげで、かなり有益な情報が得られた。
 お礼を言って、次は田中に電話をかける。

 田中は彩葉とかなり仲が良さそうだし、協力してもらえたら心強いので、事情を話しておくことにした。

 電話に出た田中に、彩葉とデートすることになった経緯を伝えると、驚きながらも応援してくれた。

「えー! 凄い進展じゃん! 協力? いくらでもするよ! 外で食事するなら、おすすめの店があるぞ。熱帯魚を鑑賞しながら食事できるとこなんだけど、雰囲気が良い上に飯もうまくてさ。彩葉は和葉さん一筋ひとすじで彼氏つくったことないし、まともなデートなんてしたことないだろうから、いろいろ連れてってやりなよ。あとでカップル向けの店をリストアップして送るから」

「ありがとう」
 と告げて電話を切った三十分後には、田中からリストが届いた。仕事が早い。




 数日後、和葉と田中のアドバイスをもとにデートプランを立てた智樹は、彩葉の部屋へと向かった。
 作成した日程表を見せながら、おうかがいを立てる。

「彩葉の仕事が落ち着いたタイミングで、一緒に出かけられたら嬉しいんだけど……良かったら、これを見て検討してくれない?」

 彩葉は差し出された紙を受け取ると、軽く目を通してから顔を上げ、目をまたたいた。

「何これ」

「気に入らなかった? 具体的にダメ出ししてくれたら、練り直して再提出するけど」

「上司と部下かよ。いや、そうじゃなくて、なんでわざわざこんなもの作ったのかなと思って。今までの彼女とデートする時も、毎回こんなことしてたの?」

「まさか。他の人にはしたことないよ。今までは誘われた日に相手の行きたい場所へ行くって感じだったから、デートプランなんて考えたこともないし……」

「自分からデートに誘ったことが無いってこと?」

「うん。ただでさえ連絡マメだったり弁当作って行っちゃったり、いろいろやり過ぎちゃうから、その上『会いたい』なんて言ったら迷惑かなと思って……」

 智樹の話を聞いて、彩葉は呆れた声を出す。

「智樹が毎回すぐ振られちゃうのって、それが原因なんじゃないの? 一人で先回りして考え込んで、いろいろ行動する割には、どれも的外まとはずれっていうか……」

 そこまで言ってから、しょんぼりした智樹の様子に気付いたのか、彩葉は声のトーンをやわらげた。

「まぁ、そこが智樹のいいところでもあるんだけどさ」

「……いいよ、無理にフォローしなくて」

 いじけた表情になる智樹を前に、彩葉は笑いをこらえながら、再び日程表に目を落とした。

「ふーん、朝からテーマパークに行って一日遊んで、夜はアクアリウムレストランで食事して、そのあとは夜景の見えるバーに行くのか……。ていうか、アクアリウムレストランって何?」

「なんか、客席の横一面が水槽になってて、水族館の中にいる気分で食事が出来るレストランらしい」

「そこに行きたいの?」

「いや、なんかデートっぽいかなと思って」

「テーマパークと夜景の見えるバーは? 智樹が行きたい場所なの? それともデートっぽいから選んだだけ?」

「テーマパークは彩葉が好きな場所だって聞いたから……。夜景の見えるバーは雰囲気が良さそうだなと思っただけで、特に行きたいわけじゃない。彩葉が興味なければ、このプランはやめるよ。それ返して」

 智樹が日程表を返してもらおうと手を差し出すと、彩葉はニッコリ笑って手帳を取り出し、そこへ日程表を挟んだ。

「せっかく考えてくれたんだから、このプランも実行しようよ。ただ、最初は違うところでもいい? 智樹を連れて行きたいところがあるんだ」

 ということで、初デートの行き先は彩葉に任せることになった。




「仕事が一段落ついたから、一緒に出かけようか」
 という彩葉の誘いに乗って電車を乗り継ぎ、たどり着いた場所は浅草だった。

 駅を出て少し歩くと、“雷門かみなりもん”と書かれた大きな赤い提灯ちょうちんが見えてくる。
 その下をくぐると、浅草寺せんそうじまで続く参道さんどうがあり、道の両側には飲食店や土産物屋みやげものやなどの商店が建ち並んでいる。
 平日にも関わらず観光客でにぎわっており、外国人も多い。
 彩葉は楽しそうに店を覗き込みながら、いつものように目についたものについて喋り続けている。

「あそこのジェラート屋さん、すっごく美味しいから食べていこうよ」

「見て! あの土産物屋のTシャツ、『忍者』って書いてある! ちょっと欲しい気もするけど、外で着るには勇気がいるよね。外国人の観光客向けに作ってるのかなぁ」

「さっき甘いものを食べたから、しょっぱいものが欲しくなってきた。あっ、焼きたて煎餅せんべいだって! 智樹も食べるでしょ? 俺、買ってくるね」

 こんな感じで、智樹と彩葉は旅行にでも来たかのような気分を味わいながら参道を通り抜け、浅草寺せんそうじ境内けいだいに到着した。

 参拝さんぱいを済ませた後、彩葉が
「おみくじを引こう」
 と言い出す。
 
「いいよ」
 と答えておみくじを引くと、二人とも凶だった。

「うわぁ」
 とヘコむ智樹の隣で
「さすが浅草寺。期待を裏切らないね」
 と彩葉がニコニコしている。

 不思議に思った智樹は
「凶が出たのに、なんでそんなに嬉しそうなの?」
 と尋ねる。

「浅草寺のおみくじって、凶が出やすいんだよ。まぁ、凶が入ってるのは三割くらいって話だから特別多いわけじゃないんだろうけど、他のところに比べると凶を引く人の割合が多いんだろうね」

「凶が出やすいって知ってたのに、なんで『おみくじ引こう』なんて言ったんだよ」

「凶が出るといいなって思ったからだよ」

 彩葉の答えに、智樹は首をかしげる。

「どういうこと?」

「俺が中三の頃の話なんだけど、入試の時期にインフルエンザにかかっちゃって、第一志望の高校を受験出来なかったんだ。あんなに勉強を頑張ってきたのに、なんて運が悪いんだろうってなげいて、しばらく引きずってたんだよね。そしたら父さんがここへ連れて来てくれて、一緒におみくじを引いたら二人とも凶だった。その時に父さんから言われたんだ。『俺達、運がいいぞ。今がどん底なら、あとはい上がるだけだからな』って」

「いいお父さんだね。凶が出やすいって知ってたのかな」

「知ってたんだと思うよ。口下手くちべた不器用ぶきような人だったけど、父さんなりに、遠回しなやり方で俺のことを励まそうとしてくれたんじゃないかな」

「もし彩葉が凶を引かなかったら、どうするつもりだったんだろう」

「そこはほら、『ここのおみくじは凶が出やすくて有名なのに、引かなくて済むなんて凄いぞ! 縁起がいいな!』とか言うつもりだったんじゃない?」

 そう言って彩葉は、おみくじ掛けの方へと歩いて行き、先ほど引いた凶のおみくじを結びつけた。
 智樹も、その隣に自分のおみくじを結ぶ。
 再び歩き出しながら、彩葉が口を開いた。

「この前、智樹は昔から運が悪いって田中さんが言ってたから、ここへ連れてきて父さんのことを話したかったんだ。おみくじと一緒に、今までの運の悪さも置いて行っちゃえばいいよ。これからはきっと、たくさん良いことがあるはずだから」

 それはとても、温かな声だった。
 彩葉への想いが、ますます深まっていく。
 智樹は胸の高鳴りを覚えながら、彩葉の後を追った。
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