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Sorano: なんかもう色々やばい。
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なんかもう色々やばい。
空乃はガン見したい気持ちを抑えつけ、行人から目を逸らした。
眼鏡を取って素顔だし、頬はピンク色に上気しているし、何より全裸だ。
別にユキちゃんの裸見るんのなんて初めてじゃねーけど。
ヤバイっつーか、エロい。
同じ男なのに、肌の色や質感が空乃とは違う。色素が薄いし、滑らかだ。
細いのに貧弱なわけではなく、運動なんてしていなさそうなのに、腕にも腹にも綺麗に筋肉がついている。
けど、腰、やっぱ細え。
視線を彷徨わせていると、行人が不審そうに空乃を見た。
「何きょどってるんだよ」
「いや、ユキ、裸だし」
「当たり前だろ」
行人は意味が分からないというように首を傾げた。
「無理ゲー」
「何が」
「見てると勃ちそう」
白状すると行人は目を見開き、次いで真っ赤になった。
「空乃の変態」
「あんたがそんな色っぽいから悪いんだろ」
「人を猥褻物みたいに言うな」
じろりと睨んでくる視線すら愛おしい。のぼせそうだ。
空乃は湯から出ると、露天風呂の岩に腰かけた。
クラスメイトの泉田塔子に貰った東京お台場 大江戸温泉物語のチケット。
一緒に行こうと誘うと、行人はわざわざ有給を取ってくれた。
行人は東京国税局に勤務している。
国家公務員なんて定時退庁のルーティン業務だと思っていたのだが、行人の労働時間は長い。
深夜や明け方に帰ってきて、早朝に出勤することも珍しくない。
「公務員って9時5時じゃねえんだな」
以前そう言った時、
「9時5時の5時は朝の5時ってな。俺はまだマシな方で、霞が関なんてもっと酷いぞ。大蔵ホテルとか通常残業省とか言われてたくらい」
有給休暇を取る分仕事を前倒したのだろう。昨夜も行人が帰ってきたのは日付が変わってからだった。
大人の夏を目の当たりし、学生の間に夏休みを心底満喫しようと決意した空乃である。
平日午前中の温泉はまだ人もまばらで、露天風呂にも数名の客がいるだけだ。
行人は湯に身を沈めたまま、極楽にいるかのように目を細めている。
時折首を傾けているのは、肩が凝っているのだろう。湯から出たら揉んでやらねえと。
「気持ちいっすね」
「ん。日本人最高」
「ユキちゃん、寝そうになってね?」
「んー、気持ちよくて寝落ちしそ」
「溺れ死ぬぞ」
「おまえが助けてくれるだろ」
ちらりと視線を送られて、心臓が波打つ。
この人は、無意識に色気を駄々洩れさす節がある。困る。
「いや、その前に風呂で寝るなよ」
突っ込むと行人は楽しげに笑った。
何種類もある風呂を順番に巡りながら、ずっとお喋りをしていた。
何をそんなに話すことがあるのかと不思議になるほど話がつきなかった。
空乃は学校や料理教室や、最近担任の多田塚先生(ヅカセン)が彼女が出来て浮ついている話をし。
行人は普段は仕事の話をあまりしないのだが、リラックスして口が緩んだのか、上司の課長が気分屋で困ると愚痴っていた。
「ユキは、なんで国税専門官になったん?」
夏休み前に適当な大学名を書いて提出した進路希望調査のことを思い出して尋ねると、行人はもごもごと口淀んでから、「特に理由はない」と答えた。
「いや、何かあんじゃねえの」
「え、じゃあ。マルサの女に憧れて?」
「ぜってえ嘘だろ」
「嘘だよ」
行人はあっさり認めて続けた。
「本当にないんだよ、理由。なんとなく公務員かなとは思ってて。他の役所も色々受けたけど、職場の雰囲気とか人事担当者との相性が、一番合ってる気がしたからかな。まあでも、国税に入って良かったと思ってるし、仕事は楽しいよ」
行人はそんなふうに説明した。
誰もが納得できる志望理由をばしっと答えられる人の方が少ないのかもしれない。
来年の自分はまだ高校生で。再来年の自分はきっと大学生だ。
でもその先は、想像がつかない。
今の行人と同じ31歳になった時、何をしているのだろうか。さすがに金髪ポニーテールはやめてんだろうな。
空乃には将来の夢がない。
器用なので大体何でもこなせるが、一芸に秀でているわけではないし、寝食忘れて夢中になれるものもない。
料理は好きだけれど、食べさせたい相手は行人だけなので、プロになりたいわけではない。
進学校だし成績は良い。祥英高校卒業生のテッパンは、東大や早慶に入って、官僚か法曹か銀行か商社か。
それは、楽しいのだろうか。行人のように、仕事が楽しいと言える大人になれるのだろうか。
珍しく考え込んでいると、ぱしゃんと、顔にお湯をかけられた。
「うわ、何すんだよ」
行人はぱしゃぱしゃと湯をかけてきながら、拗ねたような顔をしている。
「デート中に上の空になるの禁止」
デート中。って。
拗ねたような表情が可愛くて、思わず行人を抱きしめようとするが、直前でするりと避けられた。
「ぅわっ!」
勢いあまって、ばちゃっと湯船に飛び込んでしまう。
頭からずぶ濡れた空乃を見て、行人は笑う。
「こんなとこで抱き着こうとするからだろ」
「ユキちゃんが可愛い顔するからだろ」
「だから己の欲望を人のせいにするな」
人がいないのをいいことに、言いたい放題だ。
ひとしきりはしゃいで満足したのか、行人は再び肩まで湯に浸かった。濡れた顔を手のひらで拭い、手がしわしわだと笑う。可愛い人だ。
不意に、行人は空乃の前に泳ぐように回り込んできた。真正面から見つめてくる目は優しい光を宿している。
「空乃」
この人に名前を呼ばれるのが好きだ。
女みたいな名前で好きではなかったのに、行人に発音されるととても嬉しい。
「空乃。夢とか目標とかあってもなくても、大人になるってことは、それだけで楽しいことだと俺は思うよ」
「どしたん急に」
「あれ、進路に悩んで俺の志望動機聞いたんじゃなかった?」
見抜かれている。
空乃は濡れた前髪をくしゃりと掻き回した。
だよなー、可愛いっつっても、ユキは大人で社会人で。空乃より、物事がなんたるかを知っているのだ。
「悩んでまではない。普通に東大入るし」
「君が言うと最早嫌味にもならないな」
「何勉強するかとか、その先どうするかとかノープランだけど」
「だから面白いんだよ」
行人は微笑んで続けた。
「ゆっくり大人になればいいよ。見ててやるから」
空乃はガン見したい気持ちを抑えつけ、行人から目を逸らした。
眼鏡を取って素顔だし、頬はピンク色に上気しているし、何より全裸だ。
別にユキちゃんの裸見るんのなんて初めてじゃねーけど。
ヤバイっつーか、エロい。
同じ男なのに、肌の色や質感が空乃とは違う。色素が薄いし、滑らかだ。
細いのに貧弱なわけではなく、運動なんてしていなさそうなのに、腕にも腹にも綺麗に筋肉がついている。
けど、腰、やっぱ細え。
視線を彷徨わせていると、行人が不審そうに空乃を見た。
「何きょどってるんだよ」
「いや、ユキ、裸だし」
「当たり前だろ」
行人は意味が分からないというように首を傾げた。
「無理ゲー」
「何が」
「見てると勃ちそう」
白状すると行人は目を見開き、次いで真っ赤になった。
「空乃の変態」
「あんたがそんな色っぽいから悪いんだろ」
「人を猥褻物みたいに言うな」
じろりと睨んでくる視線すら愛おしい。のぼせそうだ。
空乃は湯から出ると、露天風呂の岩に腰かけた。
クラスメイトの泉田塔子に貰った東京お台場 大江戸温泉物語のチケット。
一緒に行こうと誘うと、行人はわざわざ有給を取ってくれた。
行人は東京国税局に勤務している。
国家公務員なんて定時退庁のルーティン業務だと思っていたのだが、行人の労働時間は長い。
深夜や明け方に帰ってきて、早朝に出勤することも珍しくない。
「公務員って9時5時じゃねえんだな」
以前そう言った時、
「9時5時の5時は朝の5時ってな。俺はまだマシな方で、霞が関なんてもっと酷いぞ。大蔵ホテルとか通常残業省とか言われてたくらい」
有給休暇を取る分仕事を前倒したのだろう。昨夜も行人が帰ってきたのは日付が変わってからだった。
大人の夏を目の当たりし、学生の間に夏休みを心底満喫しようと決意した空乃である。
平日午前中の温泉はまだ人もまばらで、露天風呂にも数名の客がいるだけだ。
行人は湯に身を沈めたまま、極楽にいるかのように目を細めている。
時折首を傾けているのは、肩が凝っているのだろう。湯から出たら揉んでやらねえと。
「気持ちいっすね」
「ん。日本人最高」
「ユキちゃん、寝そうになってね?」
「んー、気持ちよくて寝落ちしそ」
「溺れ死ぬぞ」
「おまえが助けてくれるだろ」
ちらりと視線を送られて、心臓が波打つ。
この人は、無意識に色気を駄々洩れさす節がある。困る。
「いや、その前に風呂で寝るなよ」
突っ込むと行人は楽しげに笑った。
何種類もある風呂を順番に巡りながら、ずっとお喋りをしていた。
何をそんなに話すことがあるのかと不思議になるほど話がつきなかった。
空乃は学校や料理教室や、最近担任の多田塚先生(ヅカセン)が彼女が出来て浮ついている話をし。
行人は普段は仕事の話をあまりしないのだが、リラックスして口が緩んだのか、上司の課長が気分屋で困ると愚痴っていた。
「ユキは、なんで国税専門官になったん?」
夏休み前に適当な大学名を書いて提出した進路希望調査のことを思い出して尋ねると、行人はもごもごと口淀んでから、「特に理由はない」と答えた。
「いや、何かあんじゃねえの」
「え、じゃあ。マルサの女に憧れて?」
「ぜってえ嘘だろ」
「嘘だよ」
行人はあっさり認めて続けた。
「本当にないんだよ、理由。なんとなく公務員かなとは思ってて。他の役所も色々受けたけど、職場の雰囲気とか人事担当者との相性が、一番合ってる気がしたからかな。まあでも、国税に入って良かったと思ってるし、仕事は楽しいよ」
行人はそんなふうに説明した。
誰もが納得できる志望理由をばしっと答えられる人の方が少ないのかもしれない。
来年の自分はまだ高校生で。再来年の自分はきっと大学生だ。
でもその先は、想像がつかない。
今の行人と同じ31歳になった時、何をしているのだろうか。さすがに金髪ポニーテールはやめてんだろうな。
空乃には将来の夢がない。
器用なので大体何でもこなせるが、一芸に秀でているわけではないし、寝食忘れて夢中になれるものもない。
料理は好きだけれど、食べさせたい相手は行人だけなので、プロになりたいわけではない。
進学校だし成績は良い。祥英高校卒業生のテッパンは、東大や早慶に入って、官僚か法曹か銀行か商社か。
それは、楽しいのだろうか。行人のように、仕事が楽しいと言える大人になれるのだろうか。
珍しく考え込んでいると、ぱしゃんと、顔にお湯をかけられた。
「うわ、何すんだよ」
行人はぱしゃぱしゃと湯をかけてきながら、拗ねたような顔をしている。
「デート中に上の空になるの禁止」
デート中。って。
拗ねたような表情が可愛くて、思わず行人を抱きしめようとするが、直前でするりと避けられた。
「ぅわっ!」
勢いあまって、ばちゃっと湯船に飛び込んでしまう。
頭からずぶ濡れた空乃を見て、行人は笑う。
「こんなとこで抱き着こうとするからだろ」
「ユキちゃんが可愛い顔するからだろ」
「だから己の欲望を人のせいにするな」
人がいないのをいいことに、言いたい放題だ。
ひとしきりはしゃいで満足したのか、行人は再び肩まで湯に浸かった。濡れた顔を手のひらで拭い、手がしわしわだと笑う。可愛い人だ。
不意に、行人は空乃の前に泳ぐように回り込んできた。真正面から見つめてくる目は優しい光を宿している。
「空乃」
この人に名前を呼ばれるのが好きだ。
女みたいな名前で好きではなかったのに、行人に発音されるととても嬉しい。
「空乃。夢とか目標とかあってもなくても、大人になるってことは、それだけで楽しいことだと俺は思うよ」
「どしたん急に」
「あれ、進路に悩んで俺の志望動機聞いたんじゃなかった?」
見抜かれている。
空乃は濡れた前髪をくしゃりと掻き回した。
だよなー、可愛いっつっても、ユキは大人で社会人で。空乃より、物事がなんたるかを知っているのだ。
「悩んでまではない。普通に東大入るし」
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