ペンと羅針盤

ナムラケイ

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20:車中の告白

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 夜の首都高速は空いていて、東京まで1時間足らずだった。
 航平のアパートの前で車を停め、有馬は言った。

「航平、今日は連れて行ってくれてありがとう。すごく楽しかったし、美津子さんに会えてよかった」

 航平はシートベルトを外し、けれどドアは開けずに膝の上の拳を握りしめた。

「航平? 降りないの?」
「有馬、来週も、一緒にどこかに行こう」

 車内は暗くて表情は見えないが、有馬は微笑んだようだった。

「いいよ。行きたいところ考えておいて」
「再来週も、その次の週も会おう」
「うん、喜んで」
「また巻き寿司を作るから、家飲みもしよう」
「うん。どうしたの、航平」
「それで、旅行行ったりもしよう。泊まりで」

 有馬が息を飲む気配がした。

「航平。それって」

 ルームランプがついた。車内が明るくなる。
 航平は顔を逸らした。多分、今、顔が赤い。

「航平、こっち向いて」

 有馬を見ると、その頬にも朱が指している。

「分かってる? それ、付き合うってことだよ」
「分かってる」
「じゃあ、ちゃんと言って」

 何をとは言われなかったが、ほかに言うべきことなんてない。
 羞恥と衒いと緊張で俯きそうになるが、目を見ていうべきことだ。
 有馬の真剣な目を真正面から見つめた。

「俺はゲイじゃないし、あんたは男で俺も男で。でも、それでも、俺はあんたが好きだ」

 有馬は、航平の告白を噛み締めるように黙って、

「ありがとう。僕も航平が大好きだよ」

 と微笑んだ。それから、航平の頬をするりと撫でた。

「でもひとつだけ。セックスは、君から誘ってくれるまでしない」
「どういうことだ?」
「性別関係なく、身体の関係は大事だからね。君、身持ちが堅そうに見えて、案外流されるタイプでしょう。僕が強引に押し切ったら君は絆されて、セックスでもマニアなプレイでもさせてくれそうだけど、それは僕の本望ではないから」
「ちょっと待て。俺、すごいこと言われてないか?」
「だって、キスも掻きっこも流されたでしょ」
「言い方!」

 確かに流されてしまったが、だってそれは有馬がフェロモン全開で誘ってくるからだろう。
 有馬は航平の頬と髪をするすると撫でた。乾いた指先が気持ちよくて、思わず頬を寄せた。

「僕に抱かれる覚悟が出来たら、君から誘ってほしい。こっちの世界は厳しいことも多いからね。家族に親族、職場に友達。世間の人々。特に君みたいなノンケの場合は、やっぱり女の子がいいって思うかもしれないし、子供が欲しいって思うかもしれない。男に抱いて欲しいって言う勇気もないようじゃ、付き合ったとしてもこの先うまくなんていかないから」

 有馬が打ち明けた真意に、航平は彼の不安を思い知る。
 ああ、そうか。こいつも不安なのか。
 怖いのは未知の世界に踏み入る自分だけではない。航平が有馬の立場だったら、一瞬の迷いではないだろうか、いつ心変わりされるだろうかと気が気ではないだろう。
 不安にさせないようにしよう。嘘はつかずに、誠実に向き合おう。

 そう決意して、航平は頷いた。

「分かった。正直、全く心の準備とかできてないから、結構時間かかるかもしれねえけど。ちゃんと考えるって約束する。だから、今はこれで勘弁しろよ」

 そう言って、航平はルームランプを消した。
 再び暗くなった車内で、身を乗り出して、有馬の唇に口づけた。有馬がするように深く唇と舌を重ねていく。
 薄闇のキスは甘く長く、唇が腫れるまで止まらなかった。
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