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第3話:シャナオウ現界
Act-01 平氏の貴公子
しおりを挟むウシワカが、マサキヨを討った襲撃部隊を殲滅し、同時に平氏討滅を決意した頃――
その相手である平氏のロクハラベースでは、棟梁である平ムネモリが、政庁でクラマ襲撃の報告を受けている最中であった。
「そうか、昨夜の賊の寝ぐらを燃やしてやったか。それは、なによりなにより」
そう言って、満面の笑みで報告官に応じるムネモリだったが、
「待て! クラマの整備場を破壊したという事だが、肝心の賊はどうしたのだ? 三人の娘だったという話だが、今の話では老いた男一人を討っただけではないか!」
と、傍らにいるトモモリが、その内容のまずさに顔を強張らせた。
「まあトモモリ、よいではないか。どうせ盗みに入るような貧しき者ども。棲み家を奪ってやれば、いずれ飢えて死ぬじゃろう。我らが手を下すまでもないわ」
そう言って笑う呑気な兄に、思わず食ってかかろうとするトモモリだったが――その袖を引いて彼を止めたのは、末弟のシゲヒラだった。
もはや何を言っても無駄です――そういう意味を込めての行動だったが、同時に、内心では賊といえども、少女を血祭りにするなど反対だったシゲヒラは、これ以上事を荒だてたくもなかったのである。
平氏の貴公子と呼ばれるシゲヒラ。彼はこの様に武辺だけではない、優しさを持った男であった。
「もはや都に、まともな兵は残っておらんのか……」
源氏への迎撃に主力のほとんどを投入したロクハラ軍の不甲斐なさに、生粋の武人であるトモモリは拳を握り、シゲヒラに向かって嘆息する。
「兄上、都は我らでなんとかしましょう」
憂いの心を胸に隠し、敬愛する兄に向かってシゲヒラは、つとめて明るく気丈に振る舞った。
そんな弟たちの苦心にも気付かず、
「そういえば都落ちの準備はどうなっておる? 早くゴシラカワをひっ捕らえてまいれ」
と、ムネモリがまた、その感情を逆撫でする言葉を吐いた瞬間――
ドドーン、という轟音と共に政庁に揺れが走った。
「な、何事だ⁉︎」
腰を抜かし、怯えた叫びを上げるムネモリを無視して、トモモリとシゲヒラは素早く窓に向かって走る。
その目に映ったものは、ロクハラベースの中で暴れている機甲武者――白いガシアルであった。
「源氏か!」
キョウトを目指し進軍している源氏軍が、もうここまで到達したのかと、トモモリは動揺を見せるが、
「どうやら単騎の様です。しかも、あのガシアルは源氏型でも相当な旧式……オウミのヨシナカの軍ではありますまい」
シゲヒラは冷静に状況を分析し、それが組織的な攻撃でない事をすぐさま看破した。
「くっ、浮かれた源氏の残党が、血迷うて蜂起でもしたか!」
「それにしてはあの機体……動きが良すぎます」
そう言われ、トモモリはしばし乱入してきたガシアルに注目していると、なるほどシゲヒラの指摘通り、その動きは旧式とは思えないほどの俊敏な動きで、迎撃に出た防衛部隊を次々と撃破している。
「おのれ……俺が出る!」
武人としての血が騒ぐのか、トモモリは自ら出撃するべく政庁を後にしようとするが、
「お待ちください――」
シゲヒラがその背中に声をかけ、
「私が討ち取ってまいります。兄上はここをお守りください」
と、兄に代わって、自らが討伐に出向く事を宣言した。
乱入した賊ごときに副将格のトモモリが出向くのを留めたのは、その立場を尊重したのと同時に、臆病な棟梁ムネモリの意向を先読みした一流の配慮でもあった。
「分かった。頼んだぞ、シゲヒラ」
トモモリも、この出来た弟の気持ちを無下にしないために、己の激情をひとたび抑え、その言葉に従った。
「よ、よし! シゲヒラ、行ってまいれ」
だが、愚兄賢弟という言葉が本当にあるのなら、その見本の様なムネモリは、トモモリ残留という自身の希望通りの展開に、この期に及んで大将面でシゲヒラに出撃を命令した。
「ははっ!」
それに律儀に拝命するとシゲヒラは、ムネモリに背を向けたまま憤怒の表情でいるトモモリに向かって――抑えてください――と、目配せすると足早に、自身の機甲武者のある格納庫に向け走っていった。
――そして、ロクハラベース内部はもはや乱戦の最中にあった。
それを演出しているのは、ウシワカが操るたった一機の機甲武者であり、昨夜忍び入ったゲートから乱入するや、当たるを幸いに、迎撃に出てきた平氏の兵を、戦闘車両だろうが砲台だろうが、手当たり次第に斬りつけ破壊し続けていた。
しかもその動きは素早く、地形をも巧みに利用しており、分別なく砲撃を繰り返すロクハラ軍は、同士討ちまで起こす有様であった。
平氏は弱い――これなら勝てる!
好調な戦況に、ウシワカが希望を抱いた瞬間、
「砲撃やめーい!」
という号令のもと、機甲武者の編隊が戦場に現れた。
整然と向かってくる赤い平氏型ガシアル。その先頭にいる機体は、頭部に琵琶形の前立てが飾られており――その特別仕様は、それが一軍の将であるという証であった。パイロットはもちろんシゲヒラである。
「大将……か?」
ウシワカもそれに、今までとは違う威圧感を感じ警戒するが、
――もし大将なら、そいつを討てば敵の士気は一気に下がる!
集団に単騎で当たる場合の、もっとも効率の良い戦術を導き出すと、すぐさまシゲヒラ機に向かって一直線に突撃していった。
Act-01 平氏の貴公子 END
NEXT Act-02 一騎討ち
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