神造のヨシツネ

ワナリ

文字の大きさ
33 / 97
第6話:源氏という家族(前編)

Act-06 モンガク絶唱

しおりを挟む

 一方マサコの方では、同じツクモ神であるベンケイが、神器で機甲武者を錬成した事実に、肩を震わせていた。

「神器を……『神造兵器』を解放したなんて……ベンケイ、アンタなにしてくれてんのよ!」

 怒りを隠さぬマサコの胸中には、ある『予感』があった。
 そしてそれをベンケイに追求するべく、身を乗り出そうとした時、

「いやはやー、源氏の御大将がキョウトに到着された! これはめでたい!」

 と、男の大音声が辺りに響き渡り――同時に本陣に向かって、機甲武者を積んだ一台のトレーラーが接近してきた事により、それは水入りとなった。

「あいや、儂は怪しい者ではない! 儂の名はモンガク。この度、上洛されたヨリトモ様に、祝いの品をお届けに参った次第だ!」

 警戒に出た兵たちの手前で、モンガクと名乗った僧形の男はトレーラーを停めると、そう叫びながら車体後方に飛び移るなり、荷台をリフトアップさせていく。
 そのあまりの手際の良さに、兵が呆気に取られているうちに、荷台の機甲武者が直立の姿勢となり、一同にその姿が披露された。

 それは白――源氏のカラーのガシアルG。しかも相当に旧型の、ウシワカの育ての親の鎌田マサキヨが所有していたものと同じ、マーク1であった。

「こんな旧型のガシアルを……」

 機甲武者開発者を祖父に持つヒロモトが、すぐにその型式を判別し、険しい目をする。
 その声を耳にしたモンガクは――頃合いよし、と――一同の前に両手を広げて、大きく息を吸い込むと、

「さあ各々方、ご覧あれ! このガシアルこそ、かの源氏の棟梁、みなもとのヨシトモ様がヘイジの乱の折にお乗りあそばした機体でござる! ああ無念にも、たいらのキヨモリに敗れしヨシトモ様が、お亡くなりになられてから十五年。いつの日か源氏再興の日が来ると信じ、このガシアルを平氏の目から隠し持っておりましたが……ああ、遂にその御子息にこの機体をお返しできる日が来ようとは。さあヨリトモ様、このガシアルにお乗りなされ! そしてヨシトモ様のご遺志を継ぎ、平氏追討の旗を掲げるのです!」

 と、まるで弁士の様な饒舌さで、長口上を一息でまくし立ててしまった。
 それに対する源氏陣営の対応は、冷ややか――というよりも、むしろシラけた空気が全体に漂っていた。

 確かにヨシトモはヘイジの乱の折に、ここキョウトで命を落とした。
 だが、その乗機が打ち捨てられていようと、それを一介の僧が戦時に回収できる訳もなく、仮に回収していたとしても、モンガクという僧が源氏にゆかりがあったという経歴はない。

 これこそ、たかりか、もしくは平氏に恨みを持つ政治的意思を、この機に乗じて源氏政権に加わって実行しようとする、破戒僧の類であろう――と、そう判断した。

 その空気を代表して――こういった際の汚れ役を自任する――梶原カゲトキが、モンガクを追い払うべく足を踏み出した時、

「ハハハ。モンガク殿、残念だったな――」

 と、豪快な笑い声が本陣に、こだました。

「我らが大将、ヨリトモ『殿』にはなあ……魔導適性がござらんのよ。せっかくのヨシトモ様の機体だが、乗りたくても乗れんのでな。ハハハッ、残念だがここはお引き取りあれ。ハーッハッハッハッ!」

 嘲る様な口調でそう言ってのけたのは、やはり上総かずさヒロツネであった。
 彼の言葉は、自分の意見を容れなかったヨリトモに対する意趣返しとばかりに、衆目の中で彼女をはずかしめてやろうという悪意に満ちていた。

 ――お姉ちゃんには、魔導適性がない⁉︎

 魔導適性――すなわち、大地に流れる太古の天使の霊脈とコンタクトする力を、ヨリトモが持っていないという事実に、ウシワカは驚愕した。

 太古の天使の鎧をベースとする機甲武者は、その天使の亡骸である『大地の霊脈』を動力源とする。
 すなわち惑星ヒノモトにおいて、その霊脈とコンタクトする力が無いという事は、機甲武者のパイロットである『魔導武者』としての資格が無い事を意味していた。

 神の時代より千年を経て――天使の末裔たる――この星の人間の魔導力も、『遺伝』という不確定要素を色濃くしていったが、それにしても源氏という家系のルーツは平氏同様に、天使の直系たる皇帝の支族であり、代々の当主は強い魔導力を保有しているのが常であった。

 それがこの乱世の極所において、その当主に魔導適性が無いという事態は、大きな問題といっても過言ではなかった。

 それをすでに熟知しているカゲトキ、ヒロモトら、源氏諸将は苦々しい顔で目を伏せる。
 幕下という立場ながら、上総かずさヒロツネがことさら尊大に振る舞っているのも、そういう事情が背景にあったのだ。

 ヨシナカもそのあたりの事情は知っているらしく――やれやれ、わざわざ口に出して言うかね、と言いたげな呆れた目でトモエと顔を見合わせる。

 そして、ツクモ神マサコは怒りに打ち震え、もはや我慢の限界を超え、今度こそヒロツネを殴殺せんと決意した瞬間――

「み、帝よりの御使者でございます!」

 という、前衛からの注進が飛び込んできた。

 ――来たか!

 ヨリトモ、そしてヨシナカの目が、妖しく光を放つ。同時に、これでモンガクの乱入による騒動も、一旦立ち消えとなった。

 そして本陣まで来た御所からの使者に、一同が恭しく拝礼をして、その言葉を待っていると、

「ゴシラカワ帝よりのお召しである。木曽ヨシナカ、みなもとのヨリトモ――」

 ここで一瞬、使者は間を置いてから、

みなもとのウシワカ。急ぎ参内せよ」

 なんと帝は、ヨシナカとヨリトモばかりか、ウシワカまでをも御前に召集する旨を通達してきた。
 それに朝廷のツクモ神、ベンケイはある種の覚悟を決めた様に、ギュッと目を閉じた。


 目まぐるしく動く状況。それにヨリトモ、ヨシナカの両雄は、いざ行かんと心を奮い立たせる中――もう一人の源氏、ウシワカは、まだ姉が魔導武者ではないという衝撃から心を動かせないままでいた。



Act-06 モンガク絶唱 END

NEXT  Act-07 告発
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...