神造のヨシツネ

ワナリ

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第6話:源氏という家族(前編)

Act-07 告発

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 ヘイアン宮――すなわち皇帝の御所。その最深部にあるゴシラカワ帝の御座所に、今回の平氏排撃の立役者たちが、すべて集められた。

 御簾がかけられた女帝ゴシラカワの玉座の前に――向かって右側に木曽ヨシナカ、中央にみなもとのヨリトモ、その左側にウシワカと、源氏一族が横一線に立ち並ぶ。

 その後ろには、各陣営の配下たちもいる。
 ヨシナカにはトモエ。ヨリトモには、大江おおえのヒロモト、梶原カゲトキ、上総かずさヒロツネ。ウシワカにはなぜか――ただの町娘にすぎない――伊勢サブローと常陸坊ひたちぼうカイソンが付き添っており、このあたりの破天荒な慣例無視が、今回の招集に関してゴシラカワの作為がはたらいていると、御簾の前に控える僧形の摂政シンゼイは顔を歪める。

 もちろんヨリトモの傍らには『源氏のツクモ神』であるマサコ、そしてウシワカの傍らには『朝廷のツクモ神』であるベンケイが、共に宙に浮きながら控えていた。

 だが両者とも、その顔色はすぐれない。マサコはベンケイと接触してから、何か言いたげにイライラしているし、反対にベンケイは、何かを言われたくないといった風に――表面上は平静を装っているものの――その所作が、やけにオドオドとしていた。

 その証拠にベンケイは、すがる様にウシワカの両肩をギュッと掴み、不安気な目は、まだ下げられたままの御簾に釘付けになっていた。
 その時、彼女は思っていた――このまま御簾が上がらなければいい、と。

 そして、そのツクモ神たちの様子を横目で見ながら、何かを確信したヨシナカはニヤリとほくそ笑む。そんな夫を見て、トモエはその美しい顔に、憂いの影を落とした。

 ウシワカの方では、ベンケイのらしくない雰囲気に違和感を感じつつも、今は源氏一族が打ち揃った高揚感と、それ以上に姉が魔導武者ではないという事実の方が気がかりで、ヨリトモの方をチラチラと見るのだが、姉は正面を見据えたまま微動だにしなかった。

 そのヨリトモはヨリトモで、彼女の処世術である『無表情』を貫いていたに過ぎない。
 まずは相手の出方を見る――それが彼女の戦略の基本であり、それはこの皇帝謁見の場でもブレる事なく貫かれていた。

 そんな源氏各陣営の、様々な思いが絡み合う御座所。その主である、皇帝ゴシラカワの玉座にかかった御簾が、ゆっくりと上がり始めた。それは惑星ヒノモトの、新たなる動乱の幕開けを意味していた。

「皆の者、控えいーっ!」

 まずは皇帝に対しての、低頭を促すシンゼイの声が響き渡る。
 それに従い、一同が深々と頭を下げて、次のシンゼイの言葉を待つ――はずであったが、

「やっぱり……やっぱり、そうだったのね……」

 という、怒りに震える声が一同の耳に届くと、思わず皆がその方向に顔を上げた。

「やっぱり、アンタは源氏の疫病神だったわ……」

 声の主はツクモ神マサコであり、その彼女はただ一人、身を屈する事もなく宙に浮いたまま、御簾の半分開いた玉座を憤怒の形相で睨みつけていた。

 一同は呆気に取られたまま、この場を制したマサコの次の言葉を待つ。
 そして、玉座におわす帝と対峙するマサコは、

「なにが皇帝よ……なにがゴシラカワよ……ふざけるんじゃないわよ――トキワ!」

 と、この場において皆が知る、ある女の名前を口にした。

 トキワ――それはウシワカにとって母であり、ヨリトモにとって父の後添えだった女。
 それが、目の前にいる皇帝の正体だという『告発』に、誰もが衝撃を受けた。

 そしてその内容が、惑星ヒノモトの頂点として君臨する皇統を揺るがす、スキャンダラスなものである事が理解できると、一同は次第に動揺し始めた。

 かつて源氏の棟梁を夫に持ち、さらにその間に『隠し子』と言ってもいい存在まで作っていた女帝の過去――それは、おそらく朝廷の秘事だったのだろうが、源氏のツクモ神はそれを憎しみを込めて暴き立ててしまった。

 だが、当のゴシラカワには、別段それに動揺する気配は見られない。むしろ、この流れが予定通りと言いたげな、不敵な笑みを浮かべている女帝に、これらの事情を把握していたシンゼイは、苦々しげにギリリと歯を鳴らした。

「み、帝がトキワ……私の母さん?」

 あまりの事に、しばし茫然自失となっていたウシワカが、ようやく口を開く。その肩をベンケイは、まだギュッと握りしめていた――彼女にしてみれば、真実を隠していた後ろめたさ、そして弁解もできない状況に、ただそうする事しかできなかったのだ。

 ベンケイは、ゴシラカワとの打ち合わせ通りに、ここまで事を運んできた。もちろん真実は、段階を踏みながら明かすつもりであった。
 だが不測の展開と、むしろそれに便乗しようとする『策深き女帝』の意向で、結果的にベンケイはウシワカを騙していた立場となってしまった。

 それが朝廷に仕える身として、汚れ役を担うのが使命であっても、ベンケイは無念であった。
 まだ出会って数日だが――共に死線を越えて歩んできた――ウシワカという少女を、ベンケイはもう心から好いていた。

 ――その絆が消えていく。

 それは、人間を超越したツクモ神としては、あまりにセンチメンタルな感情であったが、事実ベンケイはウシワカに嫌われるのが怖かった。

 だが――

「私は源氏の子……みなもとのヨシトモの娘」

 そう言って、ウシワカは自分の肩に置かれたベンケイの手に、そっと自分の手を重ねた。
 人間の感情の機微に疎い、ウシワカらしからぬ行動であったが――シャナオウを通じて一心同体となった――このツクモ神の不安は、痛いほどその手から伝わってきた。

 重ねた手は、ウシワカからの無言の――大丈夫だよ、という――返答であった。
 二人の間には、もはや何事にも揺るがぬ、強い絆が築かれていたのである。

 そしてウシワカの発言を受けて、

「帝がトキワ様という事なら、ヨシトモ様のヒザマルを、ウシワカ殿が帝から授かったという件も、辻褄が合います……」

 まずはヨリトモ陣営から大江おおえのヒロモトが、ウシワカへの疑念が晴れた事を表明する。

 続けて木曽ヨシナカからは、

「なるほどな。『朝廷の神器』を依り代とする機甲武者を、ウシワカが操れるっていうのも、これで納得だな――」

 と、なぜ源氏のウシワカが――皇族用にプログラムが組まれている――シャナオウのパイロットになり得たのかを、思わせぶりな口調で述べてから、少し間を置き、

「――て事は、ウシワカは帝の実の娘。血縁からいえば先帝の娘のアントクよりも、皇位に近い……って事だな」

 と、誰もが冷静になれば気付いたであろう事実を、ことさら効果的なタイミングで、呟く様に――しかし誰の耳にも届く様な、ハッキリとした声音で明らかにした。

「き、貴様、口を慎め!」

 すかさずシンゼイが、ヨシナカを叱責する。居並ぶ廷臣たちにも動揺が広がっており、シンゼイとしては摂政の立場と共に、アントク擁立を企む自身の野望のためにも、ヨシナカの発言は看過できなかったのだ。

 ウシワカが皇女。そして皇位継承権がある――その事実に、御座所がさらなる混迷に陥りそうになったその時、

「我が源氏のツクモ神の無礼、お詫び申し上げまする! 何卒、ご容赦のほどを――」

 突然、貫く様な声で、高々とそう申し述べたのは、これまで沈黙を続けていた源氏の棟梁――みなもとのヨリトモであった。
 続けて彼女は胸に手を置き、ゴシラカワに向かって最上級の敬意を示すと、

此度こたび我ら源氏一同、陛下の治世を乱さんとする平氏を追討するべく、上洛いたした次第でございます。そして今、陛下のご尊顔を拝する栄誉を賜り、恐悦至極に存じまする。つきましては我ら陛下の御沙汰のもと、このヒノモトに安寧をもたらさんと立ち働く所存でございますれば、なんなりとお申し付けくださいませ!」

 と、一気にこの場をリセットする勢いで――源氏の棟梁としての務めである、『上洛の口上』を一息に言ってのけてしまった。



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