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第12話:決戦ダンノウラ
Act-07 八艘飛び
しおりを挟む御座船に乗り込んだウシワカが、平氏の機甲武者と格闘戦を始めた頃――ダンノウラ全体の戦局も、次の段階に移行しようとしていた。
源平両軍の間で展開された序盤の機甲武者戦。それは結局、痛み分けという形で終わった。
だが海戦を得意とする平氏相手に、この後の艦隊戦を左右するそれを、五分の結果で終わらせられた事は、源氏軍にとって大きな収穫だった。
加えて潮の流れも変わり、今度は源氏軍側に追い潮である。残った機甲武者はそれに乗って、敵艦に優位な状況で遊撃を加える事ができるのである。
その機を逃さんと、源氏軍の艦隊が先に動いた。
戦艦の数はヨリトモの東王即位の威光により、今や互角となっている。
その主砲が次々と火を噴いた。
平氏軍に向け撃ち込まれる徹甲弾。広範囲の敵を狙う榴弾と違い、それは目標の装甲を破壊する事を目的としている。
ほとんどの弾丸は目標から逸れ、海面に大きな水柱を立てたが、何発かは見事に平氏軍の戦艦に命中し、今度は空中に大きな火柱を立てながら、艦体を傾かせ海に沈めていった。
もちろん平氏軍も主砲を撃ち応戦する。
だが向かい潮が災いし、目標までの仰角設定がうまく合わず、源氏軍よりも精度の低い砲撃となった。
こうなると距離を詰めるしかない。
開戦時、一万メートルの距離をとっていた平氏軍の艦隊が、源氏軍に向け前進してきた。
だが、そこに追い潮に乗った源氏軍の機甲武者が、艦体の横っ面から攻撃を加えてくるため、平氏軍は思う様に状況を好転させられない。
平氏軍にとって序盤の機甲武者戦を、ウシワカのシャナオウによる上空攻撃のため、圧勝に持ち込めなかった事が、ここにきて大きな痛手となってきたのである。
そのウシワカは戦域の最深部、平氏の御座船である空母の甲板で、近衛部隊のガシアルやカイトを相手に、シャナオウを縦横無尽に躍動させていた。
機甲武者同士の斬撃戦で、ウシワカにかなう者などいない。
シャナオウの固有兵装であるセイバー『ハチヨウ』により、平氏軍の機甲武者は次々と撫で斬りにされていった。
そして最後の一機を撃破すると、ウシワカは温存していたシャナオウの両肩に搭載されたキャノン砲を、空母の司令室ともいえる艦橋に撃ち込んだ。
爆炎を上げ吹き飛ぶ艦橋。そこに平ムネモリがいれば、これで戦は終わりなのだろうが、当然もう安全な艦内に移動しているだろう。
ならばこの空母を徹底的に破壊し、轟沈させれば結果は同じ事になる。
ウシワカはまず、空母としての機能を停止させるため、カタパルトをはじめ甲板上をズタズタに斬り裂くと、艦のバランスを崩すため、その穴に向けキャノン砲を撃ち込んでいった。
キャノン砲の数発程度で沈むほど、空母は脆弱ではない。
狙いは艦内の弾薬及び、推進機関の燃料への着弾であり、そうなれば誘爆が起こり艦は内部から崩壊していくはずであった。
――終わる。これで終わらせる!
決着へのウシワカの思い。だがそれを阻む存在が、御座船の甲板に現れた。
「ウシワカ、来るわよ!」
ベンケイの警告に反応したウシワカが、素早くその方向に機体を向ける。
そこに立っていたのは、赤字に金色の装飾が施されたカイト――皇女アントクの機体であった。
両軍の機甲武者戦の最中に、見切りをつけられ戦域に放置されたアントクは、機体全体からその屈辱に震える怒りを放ち、ウシワカを滅殺せんとの意気をシャナオウに向けている。
「クソッ、あともう少しなのに」
「ウシワカ、仕切り直しましょ。もう弾丸もないし、機体の霊力も限界よ」
ここまでの激闘ですべてを消耗し尽くした現状を、ベンケイはナビゲーターとしてウシワカに通告する。
無念の思いはベンケイとて同じである。それをウシワカも理解しているので、彼女の言葉に反論する事なく思考を次に切りかえた。
弾丸と霊力の補給のため、自軍の空母に戻らなければならない。
問題は目の前に現れたアントクが、帰艦への障害となった事である。
「ウシワカーーーっ!」
憎悪の叫びを上げ、カイトの両腕にセイバーを持たせ、突進してくるアントク。
――ああ、不愉快だ。
アントクは戦争をしていない。ただ私怨だけで兵器を弄んでいる。ウシワカの戦術的思考は、聖なる怒りに燃える皇女をそう切り捨てた。
もうこれ以上、無駄な力は使えない。
ウシワカはシャナオウに残った、最後のキャノン砲をカイトの足元に放った。
甲板はウシワカが斬り裂いたため、足場の悪い状況である。必然的にそれを避けるカイトの跳躍は、無理な体勢のものとなった。
そこにウシワカは、セイバーから団扇形態に戻したハチヨウのワイヤー付き八枚羽を放つ――それにカイトは空中で、いとも簡単に絡め取られた。
「甘いんだよ!」
そのままウシワカは、カイトをささくれ立った甲板に、シャナオウのフルパワーで叩きつけた。
グシャ、という音と共に無残に潰れるカイト。
金色に飾られた美しい機体は、もはやただの鉄塊と成り果ててしまった。
アントクの生死は分からない。
本当なら機関砲なりを撃ち込んで、確かなとどめを刺しておきたいところだったが、もうシャナオウの武装はハチヨウひとつだけである。
加えて状況も悪化していた。
今の戦闘でさらに機体の霊力が失われた事と、御座船周辺に平氏の護衛艦と機甲武者が接近してきたのである。
戦域離脱と、自軍空母への帰艦を優先させなければならない。
御座船の甲板を、シャナオウは倒れたカイトを無視する様に、海へと駆け出した。
「ベンケイ、飛べる⁉︎」
「とてもじゃないけど無理ね!」
飛行形態という選択肢はなくなった。ならばとウシワカは、全天周囲モニター全域に目を凝らす。
「リフターがある!」
船首の前方五十メートルに浮く、主を失った機甲武者用リフターを見つけたウシワカが声を上げる。
だが距離がありすぎる。いくらシャナオウでも飛行機能なしで、そこまで一息に跳躍するのは不可能であった。
――どうすればいい。
さすがにウシワカも、状況のまずさに顔をしかめる。
するとベンケイはキッと前方を見据えると、突然シャナオウのコクピットハッチを開き、スルリと機体の外に飛び出した。
「ベンケイ、なにしてるの⁉︎」
機体前方を単独で飛ぶベンケイに、ウシワカが叫ぶ。
「いい、ウシワカ――跳ぶのよ!」
それだけ言うと、ベンケイは速度を上げて海上にすれすれに身を躍らせた。
「――――!」
ウシワカの目に飛び込んできたのは、ベンケイが海上に展開した魔法陣であった。
「さあ来なさい、ウシワカ!」
ベンケイの声に導かれる様に、船首を蹴って跳躍するシャナオウ。その足が魔法陣の上に乗り、さらに次の跳躍のためにそれを蹴る。
そして次の着地点には先行したベンケイが、新たな魔法陣を海上に展開していた。
それをまた蹴って跳ぶシャナオウ。
三つ目の魔法陣を展開した時、ベンケイに向けて護衛艦から機銃が撃ち込まれた。
それを辛くもかわしながら、ベンケイは四つ目の展開ポイントに飛ぶ。
「ベンケイ、危ないよ!」
開け放たれたままのコクピットから、ウシワカが叫ぶ。ツクモ神といえども、機銃の直撃を食らえば無事でいられる訳がなかった。
だが、ベンケイはウシワカと目を合わせると、
「さあ、いらっしゃい!」
と、自身の危険も顧みず、四つ目の魔法陣にシャナオウを手招きした。
五つ、六つ、七つ――ダンノウラの海を、シャナオウが跳躍する。目指す離脱用の海戦リフターは目前であった。
「いっけえーっ!」
ウシワカの咆哮と共に、シャナオウは八つ目の魔法陣を蹴ると、遂に海戦リフターに飛び乗る事に成功した。
二人の絆が成し遂げた奇跡――ダンノウラ八艘飛び。
「ベンケイーーーっ!」
声を上げ、コクピットから身を乗り出すウシワカ。
周囲には護衛艦や機甲武者が放つ銃弾が、雨の様に飛び交っていた。
だがそんな事には構わず、ウシワカはさらに手を伸ばす。
「ウシワカーっ!」
ベンケイも手を伸ばし、真っすぐにウシワカめがけ飛び込んでいく。
そしてその手が触れると、そのまま二人はもつれる様にコクピットのシートへと倒れ込んでいった。
海戦リフターに乗って、シャナオウは戦域を離脱していく。
「ベンケイ……」
そのまだ開け放たれたコクピットの中で、ウシワカはベンケイの体を強く抱きしめていた。
Act-07 八艘飛び END
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