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第12話:決戦ダンノウラ
Act-12 リーサルウェポン
しおりを挟む自軍の劣勢を知り、ウシワカとの決戦を打ち切った、トモモリとツクモ神トキタダ。
御座船を目指す道すがら、源氏軍の艦船を神鏡による魔導砲で次々と沈めていくカラスの姿に、艦隊戦を繰り広げる両軍が目を見張った。
軍神の帰還。
そのパイロットがトモモリである事を知った、平氏軍はことさら湧き上がった。
それと同時にダンノウラの潮流が、向かい潮から再び平氏軍に追い潮となった。
結果、源氏軍の艦砲射撃の精度が下がり、対する平氏艦隊の徹甲弾が面白いように源氏艦隊を撃ち抜き、まさに形勢は逆転の様相を見せ始めた。
そこにカラスが平氏軍の現在の御座船である、空母に着艦した。
コクピットから降りたトモモリとトキタダは、思わず絶句する。
ズタズタに斬り裂かれた甲板。あたりに転がる撃破された機甲武者の残骸。それに司令塔ともいえる艦橋までもが吹き飛ばされていた。
ここまでのやり方はおそらく、あのシャナオウを駆るウシワカの仕業であろう事は容易に想像できたが――何より二人が驚いたのは、近習に支えられ呆然と立ち尽くす、パイロットスーツ姿の皇女アントクであった。
その傍らに横たわる、粉砕された機甲武者カイト。
皇女が魔導武者となった事実と、彼女がウシワカに挑み一敗地にまみれた事を、状況は物語っていた。
「トモモリ…………トキタダ…………」
二人の姿を目にしたアントクが口を開き、力ない足取りで歩み寄っていく。
「トキタダ、トキタダ。うわーーーん!」
そして愛するツクモ神の胸に飛び込むと、アントクはその名を叫びながら、声を上げ泣いた。
トモモリ、トキタダ不在の中、源氏の狂戦士に一矢報いんとした思い。
善戦したものの、結局は赤子の手をひねる様に圧倒され、おまけにもう戦術的価値もないとばかりに捨て置かれた屈辱。
討ち果たされた平氏の者たち、そして無残な姿で連れ去られたシゲヒラ。皆の仇を取りたいと願った皇女の聖なる憎悪は、何一つ成就しなかった。
その悔しさに、むせび泣くアントク。
だが幸い、その身に目立った外傷は見受けられなかった。
それを確認した上で、
「トモモリ、ここはアタシにまかせて。あなたは軍を立て直して」
と、トキタダがトモモリに全軍の指揮を取る様に促した。
幸い棟梁であるムネモリも、実質的な家長であるその母トキコも、難を免れ無事であるという。ならば平氏はまだ健在である。
「分かった。アントク様の事は頼んだ」
トモモリは、トキタダに頷くと急ぎその場を離れた。
そして艦内の戦闘指揮所に避難した、ムネモリとトキコのもとに馳せ参じたトモモリの目に映ったのは、ただ憔悴するだけの棟梁の姿であった。
「兄上、母上!」
「と、トモモリ! き、貴様、今まで何をしておった⁉︎」
呼びかけに返ってきたムネモリの言葉に、トモモリは内心舌打ちしたい思いだったが、
「トモモリ殿、よくお戻りになられた」
という母の言葉に、なんとか平常心を取り戻す事ができた。
これまで述べた様に、ムネモリは前棟梁キヨモリの実子ではない。
シラカワ帝の落胤であるキヨモリが、平氏の血統を正統に復すべく、本来の嫡流であった義弟の子を嫡男と偽り、一門に入れたという複雑な存在である。
そして、キヨモリに遠く及ばないその失政により、平氏は今日の凋落を迎えたといっても過言ではなかった。
水上都市ヤシマの一戦も、ムネモリの胆力の無さから、序盤戦の敗北を機に拠点を放棄してしまった。
トモモリとトキタダの計算では、防衛力の高いヤシマベースで時間を稼ぎ、その間にヤタの鏡を依り代とする、神造兵器の機甲武者カラスを完全錬成させ、源氏軍に逆襲を仕掛ける腹づもりであったのだ。
タマモノマエの復活があったとはいえ、ヤシマまで失うのは計算外であり、その点ではこれまでも数々の失態を演じてきた、この義兄を罵倒したい思いであったが、
「母上。平氏の神造兵器カラスを、イツクシマより持って参りました。カラスさえあれば源氏など、私とトキタダで蹴散らして御覧にいれます」
トモモリはこれまで自身の不在を一人で支えてくれたであろう、賢夫人である母に向かいそう言うと、深々と頭を下げた。
「おお、それは頼もしい! 早う、早う源氏を討って参れ、トモモリ!」
もはや自身が無視された存在である事にも気付かず、ムネモリは甲板を映すモニターの中にいる漆黒の巨体を指差すと、無邪気に目を輝かせる。
それに呆れながら、トモモリもモニターを見ると――なんとカラスが上昇し、発進体勢に入っているではないか。
加えて機体からは、強大な魔導力がほとばしっている。
「まさか――アントク様⁉︎」
そのまさかであった。
トキタダの胸で泣きじゃくっていたアントクは、自身の背中に呼びかける神気を帯びた鳴動に気付くと、涙を止めそれに振り返った。
そこにいたのは、漆黒の腕も足もない機甲武者。
次の瞬間、駆け出したアントクは開いたままのハッチから、そのコクピットに飛び乗ると、全身に流れ込む強大な霊力に、陶酔にも似た武者震いに襲われた。
――やれる! これなら、あの女を。ウシワカを……源氏を倒せる!
「アントク!」
突然、神造兵器に飛び乗ったアントクに慌てたトキタダは、急ぎ自身もそのコクピットに飛び込んだ。
そしてそれを待っていたかの様に、カラスはコクピットのハッチを閉じると、胴体に埋め込まれた頭部の、その猛禽類のごとき目を光らせながら上昇を開始したのだ。
「トキタダ、いくよ!」
シート後方に浮くツクモ神に、アントクは振り返りそう告げる。
その目に、トキタダは戦慄した。
皇女の――あの汚れなき聖女の目が、憎悪に満ちたドス黒い戦士のものに豹変していたのである。
狂気へと落ちた聖女が手にした神造の機甲武者。
それはもはや殺戮兵器と化し、獲物を狩るべく源氏艦隊へと突入していった。
Act-12 リーサルウェポン END
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