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第12話:決戦ダンノウラ
Act-15 決着
しおりを挟む戦場全体が息を呑んだ。
あの無敵の強さを誇ったシャナオウが、ついに墜とされたのだ。
源氏艦隊はカラスの暴走を機に、すでに前進から後退に転じていた。
もしシャナオウがカラスを撃破できれば、数の上でまさる状況を維持したまま、戦局が打開できる。
そう期待した梶原カゲトキ、大江ヒロモト両指揮官の願いも虚しく、源氏軍はこれで窮地に立たされる事となった。
「ウシワカ……。ウシワカ……」
ダンノウラの海中に落ちたシャナオウの中で、自分を呼ぶ男の声にウシワカは目を覚ます。
「誰……?」
カラスに撃墜され、どうやら気を失っていたらしい。全天周囲モニターは青一色の海色となっており、その中で意識が混濁していた。
それを覚ましてくれる様に、
「どうしたウシワカ、しっかりせい!」
同じ声が今度は、はっきりとウシワカを大声で叱りつけてきた。
「――! じっちゃん⁉︎」
思わずウシワカは叫んだ。耳に届いた声は間違いなく、平氏に討たれた育ての親、鎌田マサキヨのものだったからである。
そして海中を見たウシワカは、その目を見張り呆然とした。
「ウシワカ様、お目覚めになりましたか」
そこにいたのは本当にマサキヨであり、彼はウシワカの覚醒を確認すると、今度は臣下の礼を取りながら、そう言ってニッコリ微笑んだ。
続く声に、さらにウシワカは驚く。
「おいおい、ここで終わりか? お前は、みんなが笑顔で暮らせる世の中を作る――俺の『夢』を背負ってくれるんだろう?」
「ヨシナカ!」
マサキヨの隣に現れたのは、かつて自分が討ち取った、同じ源氏の一族である木曽ヨシナカであり、さらに隣には妻のトモエまでいるではないか。
「トモエ……」
「ウシワカ、大丈夫よ。ヨシナカと私は、いつもあなたのそばにいるわ」
戦乱の中、果てていったかつての朋友たちが、次々とウシワカに語りかけていく。
――これは幻想なのだろうか。
そう思ったウシワカの前に、新たな男が現れる。
堂々たる体躯の凛々しい壮年の武者。ウシワカの知らない男であった。
だがベンケイは、背中を抱くウシワカの髪に結ばれた、『紫の髪結い紐』が光を放っている事に気付くと、
「まさかあなた――源ヨシトモなの⁉︎」
と、それが源氏の前棟梁ある事に気付き、驚きの声を上げた。
「と、父さん……⁉︎」
「ウシワカ……」
ヨシトモがウシワカの生前に、ヘイジの乱で討死したたため、今生で果たされなかった父娘の対面。
「ウシワカ、平氏を止めてくれ。かつて俺はタマモノマエを倒すため、時が満ちるのを待たず戦いを挑んでしまった」
「タマモノマエ……?」
ヨシトモの言葉が理解できず、ウシワカは首をひねる。
「だがそれを止めてくれたのが、平氏のキヨモリだった。今度はお前が平氏を止めるんだ――シズカゴゼン、頼む!」
ヨシトモの言葉と共に、ウシワカの視界がまばゆい光だけの、無の空間へと変わる。
そして、浮かび上がる聖母のごとき女――太祖の天使ヨシツネと結ばれ、この星に生きる人類を生み出した、惑星ヒノモトの地神シズカゴゼン。
彼女は何も言葉を発しないまま、ウシワカにそっと手だけを差し伸べた。
瞬間、ウシワカの脳裏に天使大乱後の、一千年の歴史が流れ込んでいく――
三種の神器と、それに宿りし三人のツクモ神の秘密。
異星の天使タマモノマエの飛来と、その力を朝廷に取り込んでしまったシラカワ帝の野望。
そのタマモのために起こった、ホウゲンの乱とヘイジの乱。
そしてタマモを討つために、思いは同じながら争わなければならなかった、源ヨシトモと平キヨモリ――源平先代の奇妙な友情と悲劇。
「源平は……争っちゃいけなかったんだ……」
ついにすべてを知ったウシワカがそう呟くと、
「ヒノモトの人間は、みな大地から生まれ大地に還る、可愛い私の子供たち……。さあ運命の子よ、決着をつけに行きなさい」
シズカは慈愛に満ちた微笑みを残し、ヨシトモたちもまた、母なるシズカと共に消えていった。
再び海が青の色を取り戻し、視界がシャナオウのモニターに切りかわる。
沈黙の時。ウシワカとベンケイは触れ合う肌の温もりだけで、思いを共有し合っていた。
運命の出会いから、ゴジョウ大橋でのシャナオウの現界。そして二人で重ねてきた戦いの日々。それが間もなく――終わる。
「ベンケイ……私に最後の力を貸して。アントクを……平氏を止めに行かなくちゃ。そして――タマモを討つ!」
「ええ、ウシワカ。行きましょう!」
二人の声に呼応したシャナオウの目が光り、浮上を開始する。
だが、カラスの魔導砲の直撃を食らった機体はもはや限界であり、次の攻撃が間違いなくラストチャンスであった。
――一撃で、あのカラスをどう倒す。
考えながら海面を見上げるウシワカ。
「――――!」
そこに勝利への、ひらめきが走った。
その時、首都キョウト、ヘイアン宮御座所で戦況を眺めていたゴトバ帝ことタマモノマエは、戦場に嫌な空気を感じていた。
――ここまでの手配りは万全のはず。
ロクハラとダンノウラの通信を断った情報戦術。
潮流の流れを神通力で操り、両軍に消耗戦を展開させた戦局誘導。
おまけに自身を討つための神造兵器で、殺し合いを演じる孫娘たち。
絵に描いた様な勝利への筋書き。この戦いもまた、ホウゲン、ヘイジの時と同じく勝者は自分となる事に疑いはなかった。
なのにこの嫌な感触はなんだ。
「まさか……シズカゴゼンか⁉︎」
タマモは直感的に、自身の討滅を画策する黒幕の介入に気付き、開戦から初めて動揺の色をその顔に浮かべる。
同時にロクハラの源氏軍も、シズカの力によりダンノウラとの通信が回復し、司令室のヨリトモとマサコはその映像に食い入る様に目を凝らした。
「なんだあれは⁉︎ 機甲武者なのか⁉︎」
海上に浮かぶ漆黒の大鳥のごとき巨体に、ヨリトモが声を上げると、
「あれはカラス……! 平氏も神造兵器を投入したのね……」
マサコがその正体を説明し、同時にそれに圧倒されている自軍の状況に顔をしかめた。
そのカラスが神鏡に魔導力を込めている。
「これで……終わらせてくれる!」
コクピットで悪鬼の形相を浮かべるアントク。彼女は魔導砲の最大出力の一撃で、源氏艦隊を吹き飛ばすつもりでいた。
――これで終わりか。
戦場の源平両軍、そしてキョウトで戦況を見守るタマモ、シンゼイ、ヨリトモ、マサコ――皆がその光景に決着を予感した。
だが次の瞬間、平氏艦隊の中から突然、一隻の護衛艦が宙に浮くと、そのまま発射態勢に入ったカラスへと高速で接近していく。
「――――⁉︎」
皆、何が起こったのか分からず唖然とする中、ヨリトモは護衛艦の下にいる薄緑の機甲武者の存在にいち早く気付くと、
「ウシワカ!」
満身創痍の機体で、全長五十メートルの戦艦を持ち上げ飛んでいく妹に向かい、こみ上げる感情と共にその名を叫んだ。
やがて戦場全体もシャナオウが護衛艦を持ち上げ、飛翔している事実に愕然とするが、カラスは依然として源氏全軍に向けた魔導砲の発射に集中していた。
「アントク、シャナオウが来る!」
ツクモ神トキタダは迫る最大の敵の復活に、その即時迎撃を促すが、
「おのれ……! でも……まとめて撃ち落としてやる!」
動揺するアントクは、目の前に見えた源氏討滅への一手を捨てきれず、それに迷いを見せてしまった。
もしアントクが躊躇せず、シャナオウを落とす事を選んだのなら、そこでウシワカは終わりであった。
だがアントクは迷った。戦場での迷いは、すなわち敗北に直結する。
対する源ウシワカという天才戦術家に迷いなどは一切ない。あるのは狙った敵を必ず倒すという、揺るぎない覚悟であった。
その覚悟の差が――勝敗を分けた。
「お前は……いいかげんにしろーっ!」
カラスの魔導砲発射の寸前、ウシワカはシャナオウの全開出力で、上空のカラスに向け護衛艦を投げつけた。
その直撃を食らうカラス。
だが五倍の全長を持つ護衛艦をぶつけられても、カラスはまだ健在であり、その渾身の一撃は致命傷には至らなかったが――ウシワカには続く必勝の一手があった。
「吹き飛べーっ!」
ウシワカの咆哮と共に、火を噴くシャナオウのキャノン砲。
その連射された全弾が、護衛艦の船底にある燃料タンクを撃ち抜いた瞬間――ダンノウラ上空に炎が上がり、接触したカラスもろとも船体が爆散していった。
あまりの事態に、戦場全体が息を呑む。
そして黒煙に包まれたダンノウラの空が晴れた時――戦場は新たなる衝撃に包まれた。
天に向かいセイバーをかまえるシャナオウを中心に、千本の光刃が放射状に展開されていたのである。
ウシワカの魔導力とツクモ神ベンケイの神通力が、神造兵器を介し融合した最大魔導攻撃、サウザンドソード。
それが眼下の平氏艦隊を完全に捉えていた。
「これで……終わりだーっ!」
最後の力を振り絞り、顕現させた光の太刀を打ち落とすウシワカ。
次の瞬間――突然、上半身を吹き飛ばされたシャナオウから投げ出された、その小さな体がダンノウラの海へと舞い落ちていった。
Act-15 決着 END
NEXT Act-16 源平始末
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