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白薔薇騎士 ギルベルト
不思議な女性
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「確か、バーチュ王国と隣国が戦になりそうになっていて、先日和解するために我が皇国に間に入って欲しいと使者が来ていませんでした?」
ギルベルトがそう言うと、ランドルフはハッとした様に片手で頭を抱えた。
「ヴェンデルが目覚める前か――忘れてた、確かにそんな話があったな。だが、今日だったか?」
「王族との対話なので、外交でもジークハルトが対応するので私は今回間に入りません。実際に行く場合、私が代理になるかもしれませんが――取り敢えず今は、バーチュ王国の王子の護衛をしなければならないのでは? 旅が、少し早かったのかもしれませんね」
「ああ、くそっ!」
皇族としてはあまり使ってはいけない言葉を吐き出し、ランドルフは立ち上がった。それから、ヴェンデルガルトに視線を向けた。
「仕方ない、カールに連絡をしてヴェンデルの護衛を――」
「あの、よろしければ少しギルベルト様とお話をしてもよろしいでしょうか?」
意外な彼女の言葉に、ランドルフは不機嫌そうな顔になってギルベルトも少し驚いた顔になった。
「ギルベルト様のお仕事の邪魔にならなければ、ですが」
「私なら、今は急ぎの仕事はありません。私では不甲斐ないかもしれませんが、ヴェンデルガルト様のお話し相手兼護衛をさせて頂きます。ランドルフは、気にせず仕事に向かってください」
口元に笑みを浮かべているギルベルトは、多分ランドルフを少し揶揄っているのだろう。ムッとするランドルフだが、「団長、急ぎましょう」と言う団員の言葉に更に苛立った様子になる。
「ランドルフ様、私は大丈夫ですからお仕事に向かわれてください」
ヴェンデルガルトにもそう言われて、仕方なくランドルフは椅子から立ち上がった。そして座ったままのヴェンデルガルトの手を取るとその手の甲に唇を触れさせてから離した。
「行ってくる」
名残惜し気にそう言うと、部下を連れてランドルフは食堂を後にした。同時に、食堂内にいた紫騎士団もその後に続いた。
「ふふ、ランドルフは余程ヴェンデルガルト様の事を気に入っているのですね」
ギルベルトがそう言うと、当のヴェンデルガルトはきょとんとして首を傾げた。
「そうなのですか? お疲れの様だったので、魔法をかけて一緒にお昼寝をしただけですわ」
「ランドルフは騎士です。失礼ながら、ヴェンデルガルト様がこの国に対して脅威になるか分からない状況で、一緒に眠るなど考えられません。あなたに心を許しているからこそ、ランドルフは今も任務に行くのを嫌がったのですよ――私に、あなたと一緒にいて欲しくないから」
ギルベルトは、楽しそうだ。そうして、言葉を続けた。
「女性が苦手なカールがドレスを送り、女遊びが激しいランドルフが独占欲を見せる――不思議な女性ですね、あなたは」
「私、治癒魔法が使えるだけのつまらない女ですわ」
年齢より幼く見えるので、周囲は常に彼女を「少女」として扱った。「女性」として扱ってくれたのは、唯一――。
「私は目が見えません。ですが、あなたが美しくて優しい方だと感じます。二人があなたを大切に思う気持ちも、分からないでもないです」
そう言って、ふふっとギルベルトは笑った。ヴェンデルガルトには嬉しい言葉だったが、ギルベルトは本心を隠しているような、不思議な距離感を保っている。自分の心に、誰も入れさせないような――寂しい、冷たい心の欠片をヴェンデルガルトは感じた。
「ギルベルト様は、やはり私の治療が『怖い』ですか?」
ヴェンデルガルトの言葉に、ギルベルトは美しい笑みを強張らせた。そして、小さく笑うとノットと呼ばれるアルコールの入っていない果実水を一口飲んだ。
「ええ、『怖い』です。もし魔法にすら見放されれば――絶望しかありませんから」
ヴェンデルガルトは、グラスを握っているギルベルトの手に自分の手を重ねて穏やかな声音で彼に話しかける。
「無理強いは、致しません。もし――私の治癒魔法を信じて下さる時が来たら、全力で治させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様は、ご自身の治癒魔法に自信があるようですね?」
嫌味ではなく、どこかその強さに憧れた声音の問いだった。
「ええ……だって、私は古龍の治癒も出来て、彼に魔力を与えて貰いましたから」
「古龍の……?」
ギルベルトは、これ以上の話はここでするべきではないと感じた。「移動しましょう」と小さく囁いてから、立ち上がった。ヴェンデルガルトは少し驚いたようだったが、頷いてギルベルトから手を離して同じように立ち上がった。
「ご馳走様でした。どれも全て、本当に美味しかったです――また、食べに来ますね」
丁寧に料理長に告げると、大丈夫な事は分かっているがギルベルトの腕を取り、彼に寄り添うように食堂を後にした。
ギルベルトがそう言うと、ランドルフはハッとした様に片手で頭を抱えた。
「ヴェンデルが目覚める前か――忘れてた、確かにそんな話があったな。だが、今日だったか?」
「王族との対話なので、外交でもジークハルトが対応するので私は今回間に入りません。実際に行く場合、私が代理になるかもしれませんが――取り敢えず今は、バーチュ王国の王子の護衛をしなければならないのでは? 旅が、少し早かったのかもしれませんね」
「ああ、くそっ!」
皇族としてはあまり使ってはいけない言葉を吐き出し、ランドルフは立ち上がった。それから、ヴェンデルガルトに視線を向けた。
「仕方ない、カールに連絡をしてヴェンデルの護衛を――」
「あの、よろしければ少しギルベルト様とお話をしてもよろしいでしょうか?」
意外な彼女の言葉に、ランドルフは不機嫌そうな顔になってギルベルトも少し驚いた顔になった。
「ギルベルト様のお仕事の邪魔にならなければ、ですが」
「私なら、今は急ぎの仕事はありません。私では不甲斐ないかもしれませんが、ヴェンデルガルト様のお話し相手兼護衛をさせて頂きます。ランドルフは、気にせず仕事に向かってください」
口元に笑みを浮かべているギルベルトは、多分ランドルフを少し揶揄っているのだろう。ムッとするランドルフだが、「団長、急ぎましょう」と言う団員の言葉に更に苛立った様子になる。
「ランドルフ様、私は大丈夫ですからお仕事に向かわれてください」
ヴェンデルガルトにもそう言われて、仕方なくランドルフは椅子から立ち上がった。そして座ったままのヴェンデルガルトの手を取るとその手の甲に唇を触れさせてから離した。
「行ってくる」
名残惜し気にそう言うと、部下を連れてランドルフは食堂を後にした。同時に、食堂内にいた紫騎士団もその後に続いた。
「ふふ、ランドルフは余程ヴェンデルガルト様の事を気に入っているのですね」
ギルベルトがそう言うと、当のヴェンデルガルトはきょとんとして首を傾げた。
「そうなのですか? お疲れの様だったので、魔法をかけて一緒にお昼寝をしただけですわ」
「ランドルフは騎士です。失礼ながら、ヴェンデルガルト様がこの国に対して脅威になるか分からない状況で、一緒に眠るなど考えられません。あなたに心を許しているからこそ、ランドルフは今も任務に行くのを嫌がったのですよ――私に、あなたと一緒にいて欲しくないから」
ギルベルトは、楽しそうだ。そうして、言葉を続けた。
「女性が苦手なカールがドレスを送り、女遊びが激しいランドルフが独占欲を見せる――不思議な女性ですね、あなたは」
「私、治癒魔法が使えるだけのつまらない女ですわ」
年齢より幼く見えるので、周囲は常に彼女を「少女」として扱った。「女性」として扱ってくれたのは、唯一――。
「私は目が見えません。ですが、あなたが美しくて優しい方だと感じます。二人があなたを大切に思う気持ちも、分からないでもないです」
そう言って、ふふっとギルベルトは笑った。ヴェンデルガルトには嬉しい言葉だったが、ギルベルトは本心を隠しているような、不思議な距離感を保っている。自分の心に、誰も入れさせないような――寂しい、冷たい心の欠片をヴェンデルガルトは感じた。
「ギルベルト様は、やはり私の治療が『怖い』ですか?」
ヴェンデルガルトの言葉に、ギルベルトは美しい笑みを強張らせた。そして、小さく笑うとノットと呼ばれるアルコールの入っていない果実水を一口飲んだ。
「ええ、『怖い』です。もし魔法にすら見放されれば――絶望しかありませんから」
ヴェンデルガルトは、グラスを握っているギルベルトの手に自分の手を重ねて穏やかな声音で彼に話しかける。
「無理強いは、致しません。もし――私の治癒魔法を信じて下さる時が来たら、全力で治させて頂きます」
「ヴェンデルガルト様は、ご自身の治癒魔法に自信があるようですね?」
嫌味ではなく、どこかその強さに憧れた声音の問いだった。
「ええ……だって、私は古龍の治癒も出来て、彼に魔力を与えて貰いましたから」
「古龍の……?」
ギルベルトは、これ以上の話はここでするべきではないと感じた。「移動しましょう」と小さく囁いてから、立ち上がった。ヴェンデルガルトは少し驚いたようだったが、頷いてギルベルトから手を離して同じように立ち上がった。
「ご馳走様でした。どれも全て、本当に美味しかったです――また、食べに来ますね」
丁寧に料理長に告げると、大丈夫な事は分かっているがギルベルトの腕を取り、彼に寄り添うように食堂を後にした。
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